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じゃくの音楽日記帳

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2012.12.30
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まもなく2012年も終わろうとしています。
2012年のコンサートで、記事をまだ書いてなくて大事なものを、今更ながら、いくつか書いておこうと思います。
まず、1月の沼尻&群響のマーラー3番。実にすばらしい3番でした。

1月28日が高崎で、1月29日が桐生での公演で、両方とも聴きにいきました。
沼尻さんの指揮は、マーラーも、それ以外も、僕はこれまで一度も聞いたことがなく、今回が初体験でした。

かつて群響は高関さんと、マーラー3番を、2001年11月(高崎)および2003年3月(高崎&すみだトリフォニー)にとりあげています。僕は2003年のすみだトリフォニー公演を聴きました。もう9年も前になるんですね。このときの記憶は文章化しているわけでもなく、もうおぼろげですが、オケは両翼配置で、打楽器群が舞台右手に集中していて、僕はちょうど2階サイドのバルコニー席の最前部(すなわちこのホールだと打楽器群の音を正面からかなりの至近距離で浴びるという、ちょっと不運な?席)で聴いたという関係もあってか、打楽器のきつい音が直接来て刺激がありすぎてしんどかったです。打楽器以外のオケの音も全般的に荒れていて聴きづらかったです。またもう一つ強い驚きの記憶があります。そのときの児童合唱(記録によると高崎市立京ヶ島小学校合唱部)が、舞台後ろの高いところにあるオルガン用の通路で歌ったのですが、この入退場方式には驚きました。第三楽章の演奏途中で入場してきたことにまずびっくりしましたし、さらに驚いたのは、第五楽章の歌が終わって、第六楽章の演奏が始まった少しあとで、児童たちが演奏中にぞろぞろと引っ込んでいくと言う、異例の退場方式だったと記憶しています。ここは通路だけで椅子がないので、立ったままで最後までいてもらうのは小さい子供たちがしんどいという配慮かかもしれませんが、それにしてもびっくりしました。これまで聴いた3番で、児童合唱が演奏の途中で退場したのは、後にも先にもこれだけです。(もし僕の記憶が違っていてこれが他の演奏会のときでしたら、すみません。)そんなこんなで、あまり良い印象を持てずに終わってしまった3番でした。

沼尻さんに代わった群響がどういう3番を聞かせてくれるのか、興味を持ちつつ聴きに行きました。

まずは初日、高崎公演。

1月28日18時45分開演、群馬音楽センター。
群馬交響楽団第478回定期演奏会

指揮:沼尻竜典
独唱:竹本節子
児童合唱:群馬大学附属小学校合唱団
女声合唱:東京音楽大学
管弦楽:群馬交響楽団

会場は群響の本拠地、高崎市の群馬音楽センターです。
この日の仕事を終えたあと、上越新幹線で、夕暮れに沈む上越の山々を見ながら、駅弁を食べつつ、高崎に向かいました。前の週の関西のアマオケによる3番演奏会に続いて駅弁と3番、の楽しい日々です(笑)。

高崎駅に着くと、もうすっかり夜が暮れています。寒風吹く街中を歩くこと10分ほどで、会場の群馬音楽センターに到着しました。ここには初めて来ます。かなり横長のホールで、客席最後部だと横に80席があります。舞台も横に細長く、奥行きは少ないです。そのため、オケピットも舞台にしてオケがフルに乗るスタイルです。舞台の天井は、低くて、見た目にやや窮屈な感じはありますが、デザイン的におとぎ話の舞台のような独特な温かみがあって、素敵な雰囲気です。

さて、弦は通常配置(左から第一第二Vn,Vc,Va)で、一番右手にコントトラバス8本。舞台後ろに女声合唱用と思われる雛壇が横にずーっと長くありました。舞台左端の手前側(客席に近い方)に、児童合唱用と思われる雛壇3段がありました。チューブラーベルはそのすぐそばに、しかも一番高い雛壇の上に置いてあったのがうれしいところでした。独唱者用の椅子は指揮者のすぐ左でした。すなわちこの横長の舞台を使う配置として極めてオーソドックスな配置であり、児童合唱とベルの親密関係もきちんと意識した配置でした。

僕が着席したときには、音楽評論家の渡辺和彦氏のプレトークが始まっていました。「音楽史上一番長い交響曲はブライアントの第一番で、自分はその曲のCDを持っているが聞いたことがない。あとチェリビダッケのブルックナー8番は100分ほどかかるときがあるがそれは例外的な演奏。」などなどマニアックで面白いお話でした。

オケが入場し、演奏が始まりました。非常にデッドなホールです。演奏する方は大変と思います。第一楽章は、沼尻さんの指揮はきっちりと拍を刻み、オケに分かりやすい指示を徹底していました。その甲斐あってか、細部までぴしっときちんとしていて、9年前よりもオケの実力は相当アップしていると思いました。また夏の行進の魅力も感じられ、かなり良い第一楽章でした。

第一楽章が終わって、思わず少し拍手が沸き起こりかけました。そして児童合唱、女声合唱が入場着席し、その終わり際に黄緑色の衣装をまとった独唱者も入場し指揮者の左横に着席しました。独唱者の入場時に少し拍手が起こりました。児童合唱が、小さい子供たちが多いです。(あとでプログラムを見たら、なるほど小学校の合唱団で、小学生4,5,6年でした。男の子もわずかにいます。)これはなかなか期待できそうです。

第二楽章が、速すぎない、実に適切なテンポで、第一楽章とがらっと変わって、愛らしく柔らかい歌が歌われていきます。いつも思うように、良い3番演奏と普通の3番演奏は第二楽章で差がでます。この第二楽章はすばらしいです。

第二楽章が終わって、トランペット奏者が一名、ポストホルンを吹くために退場しました。

第三楽章も、速すぎない、実に適切なテンポ。ポストホルンは、やや苦しみながらもなんとか吹ききりました。その後の練習番号30−31の、神の顕現の楽節。ゆったりと深々と、ホルンとトロンボーンが響き、遠ざかっていきます。すばらしい。かつて聴いたベルティーニのここはすばらしかったですが、それを思い出すような、この楽節でした。沼尻さんおそるべし。

第三楽章が終わって、一息ついて、第四楽章が始まりました。通常は独唱者が立ってから第四楽章が開始されますが、今回は先に演奏が始まり、それに引き続き、やおら独唱者が立ち上がりました。そして第四楽章のご自分の出番が終わると、また静かに着席されました。ちょっと変わったやり方ですが、悪くない感じでした。

第四楽章が終わって、音が消えたとたん、全合唱団がすばやく起立し、アタッカで第五楽章が始まりました。小学生による児童合唱の声は、すばらしいです。やはりこの曲、低年齢の児が歌うように作られている、ということをあらためて感じました。中学生以上だと、うまくても、声の響きが変わってしまいます。もちろん低年齢の男児がベストですが、おしむらくは、チューブラーベルの音がちょっと冴えない感じなのはホールのせいなのか。

この楽章でも、独唱者は途中までは座っていて、自分の出番の少し前から立ち上がって、歌い終わって少ししてから座る、という方式でした。以前、違う3番のときに、歌い終わった独唱者がすぐに座って、なんとなく違和感を覚えたことがありましたが、今回は短いとはいえ程よい間合いがあったので、これはこれで合理的かな、と思いました。

第五楽章から第六楽章へのアタッカは、完璧でした。合唱団は起立しままで、第六楽章がしばらく進行してホルンなどが盛り上がったときに、指揮者の合図で着席しました。オーソドックスです。

そして演奏。中庸のテンポで、特別変わったことはやっていないのに、この終楽章の演奏は、どんどん温かみ、深さが増していくではありませんか。きいていて、涙が出てきてしまいます。こういう終楽章、ベルティーニやシャイーのときと同じです。まさかこれほどの終楽章になるとは!

最後近くの金管コラール、疲れたであろうトランペットも意地で吹ききりました。その後の主題の高らかな歌の感動的なこと。そしてその後、ホルンとトランペットが残って歌うところ、ここがまたすばらしかったです。ここは、アマオケの小田原フィルを三河正典さんが2009年に振った3番のときもすばらしかったです。あのときの三河さんも中庸のテンポで、このような感動的な奇跡の終楽章をきかせてくれたものでした。

終わって、拍手喝采を受けるとき、独唱の竹本さんの目に涙がうかんでいることがはっきりみてとれました。


日本人指揮者でマーラー振りといえば、僕の好きなのはコバケンと大植さん、この二人がダントツに好きです。二人とも、思い入れ濃厚の完全没入燃焼路線のマーラーですよね。沼尻さんのマーラーは、これとは全く異なります。中庸のテンポで、ある程度作品との距離を持ちつつも、ここぞという要所はきっちり押さえ、十分に踏み込んだ表現もする。こういった方向のマーラーには、僕はあまり心揺さぶられないことが多いのですが、今回は、心底感動しました。上記した三河&小田原フィルと、今回の沼尻&群響と、同じ方向性で、どちらも実に感動的な3番を聴かせてくれました。感謝!


終わってからもロビーには大勢の客さんが帰らずにごったがえしています。どうも演奏会終了後に「ふれあいトーク」というコーナーがあるようで、皆さんそれを待っているのでした。そこで僕もロビーで待っていると、まず首席トランペット奏者の森重さんという方が、ポストホルンを持って登場されました。バルブつきのポストホルンです。ポストホルンについてのいろいろなお話をされていました。僕としては、聴いていて、音色的にはトランペットかなと思って聴いていたのですが、どうやらこの楽器を使われたようです。最後には、「舞台裏で見えないところで吹いたので、本当にこれで吹いたのかと思われる方もいるでしょうから、実際に吹いてみましょう」といって、ポストホルンのさわりの部分を吹かれました。なるほど、これで吹かれたんですね。

続いて指揮者の沼尻さんが登場しました。「100分といっても、いろいろな難所を通過していけるようにいろんなところに気を配って、次から次に指示を出していかなければならず、あっという間に終わってしまう」「この(デッドな響きの)ホールは、暑くなったり寒くなったりと温度調整も難しく、演奏には音程も変わりやすく、大変。このホールで世界一良く鳴らせるのは群響である」「第一楽章の舞台裏打楽器奏者も多数が必要である。舞台上にも舞台裏にも奏者を用意しておけばよいが、楽団経営も余裕がないので(苦笑)、舞台裏から戻ってきてすぐに舞台上でシンバルをたたかなければいけない、もしも転んだらもう間に合わない」「演奏が終わって興奮しているので誰か止めてくれないといつまでもしゃべってしまう」などなど、面白おかしく、中身はまじめなトークをいろいろ語ってくれました。

楽しいふれあいトークも終わって、寒風吹く夜道を高崎駅まで歩きました。風は冷たかったですが、心は感動で温かかったです。

夜遅く帰宅し、翌日は今度は桐生に出かけました。電車をいろいろ乗り継いで、良い天気の中、北関東の畑の広がる車窓風景を眺めながら、両毛線桐生駅に到着し、そこから10分ほど歩いて、桐生市市民文化会館に到着しました。シルクホールという新しく綺麗なホールで、きのうの群馬音楽センターよりも響きが良いホールでした。

この日の演奏も、基本的に昨日と同じで、いい演奏でした。ただ、どこが違うのかはわかりませんが、昨日のような奇跡的な感動にはなりませんでした。ミューズの神は今日は降り立ってくれなかったようです。

しかし両日ともに、沼尻さんのマーラーの素晴らしさは強く認識しました。それに高崎公演の大感動は、得がたい経験でした。沼尻さんのマーラーの今後に、大注目したいと思います。






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Last updated  2012.12.31 01:54:08
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