続いて書きます。2012年7月に行われた名古屋マーラー音楽祭の8番です。
2011年~2012年に名古屋で行われたマーラー音楽祭は、すごいものでした。ロットの交響曲を皮切りに、1番から10番(全曲版)までのマーラーの11曲の全交響曲を、名古屋のアマオケが順番に演奏するという、超画期的な大プロジェクトでした。8番を除く作品が、2011年の1月から12月までに、マーラー音楽祭の第一部として行われました。そして2012年7月、マーラー音楽祭のしめくくり(第二部)として、名古屋のアマオケが総結集して、8番が演奏されたのです。
このマーラー音楽祭の第一部は、僕は3番だけは聴きに来ることができましたが、他は聴くことができませんでした。特にどうしても聴きたいと思っていた10番全曲版のときは、痛恨の風邪でダウンし、聴きのがしてしまい、非常に残念に思っていました。今回の8番はなんとか都合がつき、7月15日、16日の両公演を聴くことができました。
7月15日、16日
愛知県芸術劇場 大ホール
名古屋マーラー音楽祭第二部
マーラー 交響曲第8番
指揮:井上道義
合唱:名古屋マーラー音楽祭フェスティバル合唱団
管弦楽:名古屋マーラー音楽祭フェスティバル・オーケストラ
独唱:菅英三子、小川里美、小林沙羅(以上ソプラノ)、三輪陽子、ニン・リャン(以
上アルト)、三原剛(バリトン)、オットー・カッツァマイヤー(バス)
(テノールは予定されていた永田峰雄さんに代わり代役の方でした。)
合唱団は沢山の名古屋のアマチュア合唱団が参加し、プログラムを見ると総勢700名弱です。オケは、第一部に参加した名古屋のアマオケ10団体の合同編成で、バンダを入れて約140名です。独唱者8人はプロの人たちです。
このときの僕の心理状態としては、7月12、13日の大植&大フィルのすばらしい9番の余韻がまだまだ色濃く残っていて、頭の中に9番の断片が次々に浮かび上がって来るという状態でした。
会場の愛知県芸術劇場には、小ホール、コンサートホール、大ホールの三つのホールがあるということです。通常のオーケストラのコンサートは、クラシック音楽専用の「コンサートホール」で行われるということですが、今回は8番ですので、2700人収容の「大ホール」で行われました。
大ホールの客席は、オペラなどにむいた馬蹄形で、3階構造でした。舞台は客席数列分前に張りだし、舞台前方にオケがぎっしりと並びました。オケの弦楽は舞台左手から第一Vn、Va、Vc、第二Vnの対抗配置。コントラバスは一番右手に10本。ハープは2台で、ピアノ、電子オルガン、チェレスタ、ハルモニウム、チューブラーベルほかの打楽器もろもろとともに、舞台一番左手の手前に固まって配置されていました。管楽器は普通の配置でした。トランペット4人はオケの雛壇の一番高い段の中央に並びました。その高さには他にオケの楽器はなかったので、トランペットはかなり目立つ配置となっていました。
その後ろから、はるかずーーーーーっと舞台の最後部まで、雛壇で大合唱団がずらーーーーーっと並んださまはすごい壮観でした。合唱団の一番前には、児童合唱団が位置取りました。その後ろが女声陣で、そのさらに後方はるか遠くに男声でした。指揮者から舞台最後部までの距離は一体何十メートルあるのでしょうか、相当な距離で、この時間差の調整は結構大変だったのではないかと思います。
親切なことに字幕による日本語訳が中央の高いところに表示されましたので、それを見ながら聴けて、すごくわかりやすかったです。
比較的デッドなホールでしたが、初日から、オケ、合唱とも力の入った水準の高い演奏で、最後近くはかなり感動しました。そして二日目は、初日をさらに上回る充実した演奏でした。以下は二日まとめて、主に二日目の感想を書きます。
コンマスを筆頭に、ともかくオケがみな驚異的にうまいし、パワーがあります。オーボエとクラリネットのすごく気合の入ったベルアップも見ものでした。合唱は、なんといっても児童合唱がきれいで芯のある声ですばらしい歌でした。大人たちの合唱も、なかなかのもの。ともかくアマチュアのオケと合唱で、ここまでの8番演奏を実現してしまうとは、ほとんど考えられないすごいことです。独唱者も、皆さん良かったです。特にアルトの三輪陽子さんの胸に沁みる歌、それからテノール(代役で歌われた方)の輝かしい歌に強い感銘を受けました。
それとバンダの配置が凝っているようでした。良くわからなかったのですが多分3箇所(3階客席の右、左、それと中央?)に配置され、かなり強力なサウンドで壮大に盛り上げてくれました。(こういった配置へのこだわりは、井上道義さんならではのものと思います。富山での2009年のマーラー3番の児童合唱の配置で、凝った良い配置で聴かせてくれてた井上さんならではの配置、と思いました。)
照明もなかなか凝っていました。大合唱団の立つ、その後ろ舞台最後部のスクリーンが、第一部では明るく黄色を基調に照らし出され、第一部の曲想ににふさわしいものでした。第二部では、しばらく休みの入る合唱団の照明がかなり落とされるとともに、最後部のスクリーンが、丁度朝焼けあるいは夕焼けの時のように、上部は青、下の方はだんだんと赤になっていました。このスクリーンの色は、第二部の途中から合唱団が歌いはじめて合唱団席が明るく照らし出されてもずーーっとそのままで、いよいよ最後の盛り上がりになったところで再び明るく黄色に輝き、しかも巧みに照度の差を着けて、光の柱が天から数本輝いて到達しているようなイメージで、曲の盛り上がりに実にふさわしい演出でした。
それとともに客席もある程度明るくなり、最後のバンダが加わって会場全体が明るくなり、祝典的な、記念碑的な音楽祭の締め括りにふさわしい場となりました。
演奏が終わってから井上道義さんが、合唱団を一つずつ紹介し、そのあとオケも一つずつ、「△番をやった○○オケ」と紹介するとそのオケのメンバーが立ち上がりました。そのあと、コンマスの高橋広さんが紹介されました。この名古屋マーラー音楽祭の発案者、仕掛人だそうです。高橋さんの情熱と実行力はすごい、すばらしいです。なお二日目には、ここで高橋さんをたたえるサプライズが加わりました。すなわち字幕に、マーラー夫妻からの熱い感謝のメッセージが、高橋さんに向けて表示されたんです。そして最後には客席のお客さんも立って、演奏者たちとの大記念写真も撮影されました。一体何人写っているのやら。
入場時に配布されたプログラムも、非常に読み応えのある、充実した冊子でした。去年配布されていた第一部のプログラムもすごく内容の濃いもので、特に仕掛け人高橋広さんによる、マーラーの生活史を踏まえて全交響曲を俯瞰する解説は、すばらしかったです。今回の第二部のプログラムには、やはり高橋さんによる、マーラーの生涯を踏まえた視点からの8番の位置づけの解説が書かれていて、第一部とあわせて、これマーラーファン必読の解説と思います。それからシノーポリとも親交があったという藤井さんという方(名古屋マーラー音楽祭運営委員長)による、名古屋の8番演奏史の紹介文も、感銘深い内容でした。
そもそもの高橋さんの発案と行動力がすごいし、それに賛同し、実現してしまった関係者の方々の熱意と行動力、そしてオケと合唱の方々の情熱と努力により見事に成就した名古屋マーラー音楽祭、世界に誇れる偉業だと思います。僕が聴けたのは3番と8番だけでしたが、聴くことができて本当に良かったです。高橋さんをはじめ、みなさまに心からブラボーです!