カテゴリ:脱原発に向けて
原発本続けます。
池上彰著 池上彰が読む 小泉元首相の「原発ゼロ」宣言 径書房 発行 2014年1月20日 恥ずかしながら、小泉元首相の「原発ゼロ」発言について、そのころあまり新聞とかテレビをしっかり見ていなくて、その詳細を知りませんでしたので、今更ながら、それを理解しようと思って読みました。小泉さんの発言の背景、趣旨が良く分かりましたし、まったく賛同します。 この本によると、小泉さんの「原発ゼロ発言」は、単なる思いつきではなく、彼が大学時代に授業を受けた慶應義塾大学名誉教授の加藤寛氏(故人)の影響があると思われる、ということです。加藤寛氏は、「管から民へ」という主張を一してされていたということで、氏の最後の著書「日本再生最終報告―原発即時ゼロで未来を拓く」で、現在の9電力独占体制の改革が必要と説いているということです。 小泉氏は2011年5月の段階から、原発への依存度を下げることが必要だと折に触れ発言されていれ、そして2013年8月26日の毎日新聞のコラムで取り上げられたあたりから、小泉さんはより積極的に発言するようになり、急速に世間でも注目され出します。 興味深いのは、これら一連の小泉発言に対する読売新聞の反論です。この本に、2013年10月8日の読売新聞の社説が全文掲載されています。あまりに滅茶苦茶な内容で、読売新聞はいまだにこんなことを堂々と言っているのか、といささかあきれてしまいます。抜粋して引用しておきます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- (以下引用) 「原発ゼロ」掲げる見識を疑う 小泉元首相発言 首相経験者として、見識を欠く発言である。原子力政策をこれ以上混乱させてはならない。 (中略) 小泉氏は、「原発ゼロ」の理由として、原発から生じる放射性廃棄物の扱い方を疑問視し、「核のごみ処分場のあてもないのに、原発を進める方がよほど無責任ではないか」と主張した。 使用済み核燃料や、それを処理した際に出る放射性廃棄物の処分法は技術的に決着している。 専門家は地盤の安定した地層に埋めれば、安全に処分できると説明している。日本を含め各国がこの方法の採用を決めており、フィンランドでは建設も始まった。 放射能は、時間を経ると減り、1000年で99.95%が消滅する。有害性が消えない水銀など重金属の廃棄物とは事情が違う。 問題は、廃棄物を埋める最終処分場を確保できないことだ。政府と電力業界は候補地を募ってきたが、自治体や住民の理解を得る努力がなお足りない。 処分場の確保に道筋が付かないのは、政治の怠慢も一因と言える。首相だった小泉氏にも責任の一端があろう。処分場制定をめぐる議論を進めるべきである。 (引用終わり・下線は引用者による) ----------------------------------------------------------------------------------------------- どうですか皆様、あきれるでしょう。1年近くも前の社説に腹を立てるというのも間抜けな話と思いますが、あまりにひどい内容ですのでコメントしておきます。 「処分法は技術的に決着している。」 だそうです。次を読むと地層処分について言っていることがわかります。しかし地層処分による長期保存の安全性を裏付ける技術は、決着していません。 フィンランドでは長い時間をかけて高レベル放射性廃棄物を安全に処分する方法を検討し、地層処分以外にはあり得ないという結論に達し、オンカロを建設中なわけですね。このフィンランド、地球上で極めて岩盤が安定しているところのひとつで、19億年にわたって地盤変動がないことがわかっています。しかしそんなフィンランドでさえ、オンカロの安全性は万全ではありません。2012年9月7日のglobal Press(http://webronza.asahi.com/global/2012090600002.html)から引用しますと、「フィンランド放射線・原子力安全センター(STUK)で研究していたことがある地質学者の権威、マッティ・サーリニストが、オンカロはトンネルを蜂の巣状に掘るため地下岩盤が弱くなり、ゆくゆくは放射能が地下水に漏れ出る可能性があることを指摘した。もちろん、ここ数十年の話ではなく、今から10万年以内の可能性であるが。」 決して、地層処分は技術的に決着がついているという話ではないのです。考えられるあらゆる方法のうちで、一番ましに思える方法、ということにすぎません。 ましてや、4つのプレートがぶつかりあいこすれあい地震が多発している日本列島、地下水の多い日本列島に、長期保管に安全な場所があるわけがありません。2012年9月11日には、日本学術会議から、地層処分を抜本的に見直すよう重大な提言が出ているというのに、読売新聞は「決着している」とよくも書けるものです。 「放射能は、時間を経ると減り、1000年で99.95%が消滅する。」 問題なのは%の話ではなく、人間に有害なレベルを下回るまでの期間です。少なくとも約10万年です。それなのに、あたかも1000年たてば安全なように思わせるこの書き方。 「問題は、廃棄物を埋める最終処分場を確保できないことだ。(中略)処分用の確保に道筋が付かないのは、政治の怠慢も一因と言える。」 政治主導でさっさと最終処分場を決めよ、と主張するだけで、安全性についての疑念を隠蔽する、その趣旨の社説です。まさに原子力ムラの一員の発言ですね。 読売新聞を読んでいる方々、くれぐれも騙されないようご注意を。 さて本のことにもどりましょう。 この本は、池上さんがいろいろな人に対談あるいはインタビューして、その内容を池上さんなりにまとめた本です。対談の相手は、小泉発言を最初にとりあげた毎日新聞の山田孝男氏、細川護熙氏、城南信用金庫の吉原毅氏、元三菱銀行NY支店長の末吉竹二郎氏で、それぞれに興味深かったです。なかでも城南信用金庫の吉原毅氏の、「銀行に成り下がってはいけない」という信用金庫の公共性を重視する哲学には大いに感銘を受けました。 この本には、フィンランドのオンカロを訪れた池上さんがオンカロについて紹介する部分もあり、それも興味深かったですが、長くなりましたので別記事で書こうと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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