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じゃくの音楽日記帳

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2015.10.08
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ハイティンク&ロンドン響 マーラー4番を聴きました。マーラー4番の真の美しさが存分に開示された、奇跡の場に居合わせる幸せな体験となりました。だいぶ時間がたってしまいましたが、貴重な体験を書き留めておこうと思います。

指揮:ハイティンク
ソプラノ:アンナ・ルチア・リヒター
管弦楽:ロンドン交響楽団

マーラー 交響曲第4番

9月28日 サントリーホール

ハイティンクのマーラーは、2009年のシカゴ響との来日時に6番を聴いたのが初めてでした。このときは舞台上のカウベルが、まるで何か違う楽器のように繊細に美しく鳴らされ、至上の効果をあげていましたが、演奏全体としてはやや大味で、それほど大きな感銘は受けませんでした。(ハイティンク&シカゴのマーラー6番について独立した記事は書きませんでしたが、この時のカウベルについては2009年のレック&東響のマーラー6番の記事に詳しく書きましたので、よろしければご参照ください。)

今回は2回目のハイティンクのマーラー体験です。今度はロンドン響です。すごくうまい、良い音のするオケですから、その意味での期待はありました。しかし、その期待を途方もなく上回る体験になりました。まさかこれほどの演奏が聴けるとは思いませんでした。「4番ってこんなにも美しい曲だったのか」と幸福な驚きに打たれた体験でした。これ以上のマーラー4番を今後僕が体験することは、多分ないだろうと思います。

弦は両翼配置で、ハープは下手側、コントラバスの奥です。ホルンは木管のすぐ後ろに、アシストを含めて5人が横一列に、舞台中央から下手側にむかって並びます。
丁度ホルンの1番奏者がクラリネット1番とファゴット1番のすぐ後ろに位置する感じです。こういう配置はマーラーではあまり見かけませんが、木管の4人の1番奏者にホルンの1番奏者が加わった5人が、ひとかたまりとしてまとまるので、5人で緻密な室内楽的アンサンブルをするのに適した配置と思います。4番にはとりわけ適していると思います。

打楽器隊とトランペットはオケ本隊とはやや距離を置く感じで、舞台後方の高い雛壇上に並び、トランペットは雛壇の一番上手側に位置していました。

ソプラノの座るべき椅子は、普通見られるように指揮者の左横ではなく、右横に置かれていました。

第一楽章、やや遅めのテンポで始まりました。ハイティンクは、楽譜をじっくり見ながら丁寧に振っていきます。楽節の区切りにちょっと置く間合いが、少なすぎず、ためすぎず、絶妙な味わいです。また逆にテンポを速めるところも、エレガントさを失わず、格調の高さが一貫して保たれています。これは絶品です。

そしてロンドン響の素晴らしいこと! ハイティンクの指示に鋭敏に反応して、なんとも美しい音の数々が連なっていきます。木管などに時々現れる、ややきつめというか、ひずんだような鋭い音色も、必要なところではちゃんと聞こえて来ます。それも含めて、すべての音が、大きな調和の中にあるのです。

第一楽章が始まって間もなく、「今自分はとんでもない場にいる!」ということを強く感じました。音楽がすすむにつれ、その感じはどんどん強まり、深まっていきます。

第二楽章が終わって、オケの一部が軽くチューニングなどをやっているときに、ソプラノ歌手が、舞台上手側から、やや速足で入ってきて、そのまますっとハイティンクの横の椅子に座りました。ハイティンクもとくにソプラノを迎える仕草もせず、拍手はまったく起こらず、密やかな入場になりました。このところサントリーではマーラーの交響曲で、歌手の途中入場に際して拍手が起こらないことが多く、まことに好ましいことです。この曲でソプラノの入るタイミングに関しては、3番ほどのこだわりはありませんが、やはりこのタイミングがベストでしょう。これに関しては別記事で書こうと思います。

第三楽章も、それまでと同じように、ゆっくりと、丁寧に進んでいきます。すべての音が、出すぎず、引っ込み過ぎず、完璧な美しさです。奇跡のようなマーラー4番。ミューズの神が舞い降り、この場を祝福してくれています。

そして第三楽章の最後の静かな和音が消えて行って、ハイティンクはアタッカで第四楽章にはいります。デリカシーを極めたクラリネットの導入にのって、ソプラノが静かに椅子から立ち上がり、そして歌い始めました。素晴らしい歌でした。僕の席は2階LAで歌手の斜め後ろの位置で、声の美しさを味わいにくい席でしたが、それでも美しさはじゅうぶんに伝わってきました。このソプラノは、今年のルツェルン音楽祭でハイティンクとマーラー4番を歌ったということで、息が本当にぴったりでした。

この楽章、途中の節目に3回(練習番号3,7,11)、強めに鈴がシャンシャンシャンシャンと鳴らされるところがありますね。普通の演奏だとしばしば、ここの部分でかなり速度が速められたり、鈴をはじめとするオケの音が、その前の部分の静寂を打ち破るようにかなり大きく鳴らされます。しかしハイティンクは、この部分で速度をあまり変えずに遅めのテンポを保ち、鈴そのほかのオケの音もそれほど大きく鳴らさずに、あくまで楽章全体の静かでエレガントな雰囲気を損なわないように配慮が行き届いていて、素晴らしいです。

もう本当に、どの音も、何もかもが、信じがたいような美しさ。終楽章、歌の節目のところで、ぶら下げられたシンバルが小さく打たれるところが何回かあるのですが、そのシンバルの静かな音でさえ、何とも美しく響くのでした。

最後の歌の一節(練習番号12以降)は一段とテンポが落とされて味わい深く歌われました。ソプラノが歌い終わって、最後の約10小節は、さらにもう一段テンポが落とされ、そしてハープとコントラバスが残り、ついについに、最後の余韻が消えかけます。そのときハイティンクは、上げていた左手を小さく微妙に震わせました。余韻が消えても、左手の震えはかすかに続き、そしてその動きもやがて止まり、あとには深い静寂がホールを満たしました。その静寂は長く続き、ハイティンクが両手を静かに降ろし、譜面台に指揮棒をおきましたが、その後にさらに2-3秒の静寂があって、それからとうとう拍手が始まりました。

拍手が続き、何回か出たり入ったりしたあと、ハイティンクはホルン首席を最初にたたせ、次にトランぺットを立たせました。次に木管首席を一人ずつたたせるのかと思ったら、木管セクション全員をまとめて立たせました。確かに一人ずつ立たせたら全員一人ずつ立たせなくてはいけないほど、木管の奏者のみなさん素晴らしかったので、「もはやまとめて」ということも納得できます。わたくし的には特にクラリネット首席が、音量は抑え気味で控えめなのですが、小さなひと吹きにもおそるべき存在感があって、名人の至芸とはかくなることか、と感服させられました。

拍手をあびながら、途中ソプラノ歌手が天を指さしていました。ミューズの神が舞い降りてきてくれたことへの感謝の意を示したのだろうと思います。本当に、ミューズの神に祝福された、マーラー4番でした。

86歳になるハイティンクの円熟と、ロンドン響の極めて高い技術、そして両者を結ぶあつい信頼関係、これらがすべて理想的にかみあったからこそ生まれた奇跡の場。わたくし個人史的に空前にしておそらく絶後のマーラー4番体験となりました。ハイティンク、ロンドン響、ソプラノの皆々様、ありがとうございました。






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Last updated  2015.10.09 12:30:26
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