ヤルヴィとN響のマーラー3番を聴きました。
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
管弦楽NHK交響楽団
メゾ・ソプラノ独唱:ミシェル・デ・ヤング
女声合唱:東京音楽大学合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
10月6日
サントリーホール
N響90周年&サントリーホール30周年特別演奏会
オケは両翼配置で、コントラバスが下手に8人、ハープは上手です。チューブラーベルはコントラバスのすぐ右側で、他の打楽器と同じように普通に雛壇の上に置いてありました。
合唱団が、オケの入場に先立って、Pブロックに入場してきました。曲の始まる前に入場するというのは、なかなか気合いの入った方法です。しかし残念ながら、児童合唱(約40人)が前方の2列、女性合唱(約60人)が後方の3列という位置関係でした。結局、チューブラーベルも児童合唱も、高い位置に置こうという意図がまったく見られない、ごく普通の配置でした。
始まった第1楽章は、かなり速めのテンポです。ホルン主題のギアチェンジはありませんでした。冒頭のシンバルは、見逃したかもしれないけれど、多分一人だったと思います。トロンボーンのモノローグは、深々とした音色で素晴らしかったです。そのあと始まった夏の行進で、弦の半分が弾くところは、各プルトのオモテが弾くやり方でした。この部分は、弱音で始まってだんだんと盛り上がって行きますね。この盛り上がりの途中から、ヤルヴィの個性的な音楽づくりが、目立ってきました。弦のボウイングが、強く鋭く、ガリッと引っ掻くようで、とてもユニークです。最初のうちはその表現が斬新で、なかなか面白いと思いながら聴いていました。しかしそれがどんどんエスカレートして荒々しい弾き方になり、何だか怒っているような、やけっぱちで弾いているような、そういう雰囲気になりました。ここは、そんなに怒ったような音楽じゃないんだけど、そんなに荒々しい音楽にはして欲しくないんだけど、という思いを抱いてしまいました。
やがてホルン主題再現の直前の小太鼓は、舞台裏で、しっかり距離感がある叩かせ方で、これは良かったです。なおホルン主題再現時のシンバルは3人でした。一番目立つメインのシンバリストが小太鼓のところで舞台裏に退場し、小太鼓終了後に急いで戻ってきて雛壇に登ってシンバルを鳴らしました。そのタイミングが結構ギリギリで、見ていてスリリングでした(^^)。
結局ヤルヴィは第1楽章を、速めのテンポで、ぐいぐいとオケを引っ張って行く演奏でした。音楽が音量的に大きく盛り上がるところでは、さらにテンポを速めて、前のめりにどんどん進んで行きます。元気があって勇ましい第1楽章。こういう方向性もあっていいとは思いますが、ひとつひとつの細部の音作りが荒くてデリカシーに乏しく、大音量時にはうるさい感じがしてしまいます。折角のサントリーホールだというのに、もう少し綺麗な音で響かせて欲しいです。
音の小さな部分では、綺麗なところもありました。上記したトロンボーンのモノローグなどがその良い例でした。だけどその小さなところと大きなところが、単純に繰り返されるだけで、なんだか僕にとっては単調な第一楽章になってしまいました。この楽章に織り込まれている多様なものを、せめてもう少しいろいろ表現してほしいと思いました。第1楽章の随所に現れるコンマスの麻呂さんのソロも、珍しく全然冴えませんでした。麻呂さん体調が良くなかったのかもしれません。
第1楽章が終わるとオケがチューニングして、それが終わる頃に、上手側から独唱のヤングさんがさりげなく現れ、そのまま2ndVnのすぐ後ろに座りました。目立たないように心得たご登場だったので、拍手は起こりませんでした。
第2楽章も、速めのテンポで進みました。コンマスのソロも相変わらず冴えなかったのですが、第二楽章末尾のソロは、ようやく美しく響き、麻呂さんがようやくここでエンジンを入れてきたようでした。
第3楽章も、同じように速めで、僕としては今ひとつ音楽に浸れませんでした。やがてポストホルンです。これは音色も美しく、素敵な歌心がありました。僕の席からはどこで吹いているのか見えなかったですが、おそらく左後方のドアを開けて、その外で吹いたのだと思います。充分な距離感があり、満足できる素晴らしいポストホルンでした。
第3楽章が終わると、独唱者が起立しました。このとき一緒に全合唱団が起立しました。来るべき第4楽章と第5楽章のアタッカに備えるための周到な用意です。果たして第4楽章と第5楽章のアタッカは完璧でした。そしてついでにここで書いておくと、第5楽章と第6楽章のアタッカも完璧なもので、合唱団は立ったままで第5楽章を歌い切り、ヤルヴィはタクトを下ろさずそのまま緊張感を保ったまま、第6楽章を始めました。第6楽章が始まってすぐにヤングさんは静かに座り、合唱団はそのあと少ししてから静かに座りました。すなわち今回のアタッカは、AAスタイル(この曲のアタッカに関する○○スタイルについてはこちらの記事をご参照ください)で、申し分ないものでした。
第4楽章に話を戻すと、独唱のヤングさんと言えば、佐渡さんとPACの3番で名唱を聴かせてくれたことが忘れられません。ヤングさんは今回も貫禄十分の歌でした。ホルンも、コンマスのソロも完璧に決めていました。しかしそれにも拘らず、この音楽から、なぜか僕には夜の深みが感じ取れず、それほどの感興が湧いてきませんでした。
第6楽章、ヤルヴィは速めのテンポで、音量が盛り上がるところでは加速し、前へ前へと音楽を進め、前のめりの音楽を作っていましたが、やはり単調さを感じてしまいます。僕としては、もっとこの楽章は、前のめりでなく、ゆったりとした音楽を奏でてほしい、もっと美しい音で奏でてほしいです。そのまま、ヤルヴィと自分の方向性のずれを感じているうちに、曲が終わってしまいました。
今回の聴衆のマナーは良くて、最後の響きが消え、ヤルヴィがタクトを降ろすまで、きちんと静寂が保たれました。その後に大喝采がホールを包み込みました。僕はその大喝采の中で、取り残され感を味わっていました。
これに比べると、昨年12月のデュトワ&N響の3番が、いかに充実した、美しい演奏であったか。その格差の大きさに、僕としては正直がっかりしました。
なお終演後に登場して大きな喝采を浴びていた菊本さん(ポストホルンパートを吹いた奏者)が携えていた楽器は、フリューゲルホルンでした。菊本さんはデュトワの3番のときにも、素晴らしい、今回を上回る完璧なポストホルンパートを吹いていました。その記事に書き落としたのですが、デュトワのときに、終演後に登場されたときに携えていた楽器は、ポストホルンでした。ポストホルンと言っても、バーンスタインのDVDに映っているような小さなポストホルンとは、全然異なるものです。かなり大型で、マウスピースからの直線部分が長く、おそらく現代の技術を詰め込んだ「完全装備」みたいな凄い楽器で、なかなか見応えがありました。以前テレビで見たヤンソンス&コンセルトヘボウの3番(多分本拠地コンセルトヘボウでの演奏だったと思います)でも、こういう大きな凄いポストホルンを使っていました。
菊本さんが、今回はあの凄いポストホルンを使わなかったのは、色々な楽器でこの曲のポストホルンパートを吹くことを試しておられるのでしょうか。いずれにせよ菊本さんの今後の御活躍に、ますます期待したいと思います。