カテゴリ:演奏会(2016年)
2016年のコンサートで是非とも単独記事にしておきたいものを、ここで一つ書いておきます。
2016年4月に、当時91歳のネヴィル・マリナーさんが、アカデミー室内管弦楽団を率いて来日した演奏会を聴きました。その後惜しくも逝去され、結果的に最後の来日となりました。 指揮:サー・ネヴィル・マリナー 管弦楽:アカデミー室内管弦楽団 プロコフィエフ:古典交響曲 ヴォーン=ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲 ベートーヴェン:交響曲第7番 2016年4月9日 東京オペラシティ コンサートホール マリナー&アカデミー室内管の愛聴盤を何かしら持っている方は、かなり多いと思います。僕で言えば、イギリスの弦楽合奏曲を収めた2枚です。1枚は、ホルスト、ディーリアス、パーセル、ヴォーン=ウィリアムズ、ウォルトン、ブリテンの曲を収めたEMI盤で、以前宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のBGM選手権で投稿した、ヴォーン=ウィリアムズの前奏曲ロージメードル(弦楽合奏版)の入っているものでした。 もう1枚がヴォーン=ウィリアムズの曲だけを収録し「ヴォーン=ウィリアムズのさわやかな世界」と題したDecca盤で、こちらに「タリスの主題による幻想曲」がはいっていました。この2枚は本当に良く聴き、弦楽の響きにうっとりとさせられたものでした。 マリナーさんがアカデミー室内管を率いて来日し、この「タリス」を演奏する、ということを知ったとき、これは是非とも聴きたい!と、思いました。生のマリナーさん聴くのは初めてのことで、非常に楽しみにしていました。 当日、舞台に足取りも軽く現れたマリナーさんが、1曲目のプロコフィエフを始めた途端、その音楽が非常に若々しく、みずみずしく、溌剌としているのに驚くばかりでした。オケとの呼吸がぴったりとあい、実に楽しそうに活き活きと演奏しています。 プロコフィエフが颯爽と終わり、ホールの残響が消えるとすぐに、マリナーさんはタクトを降ろし、体を機敏に曲げ、若いコンマスに顔を近づけ、コンマスと顔を見合わせながら左手でガッツポーズをとって静止しました。かっこいいのなんの。彼らにとっても会心の演奏だったのでしょう。すると次の瞬間、ホールの静寂を鮮やかに打ち破るブラボーが一閃し、それを合図に万雷の拍手がどっと始まりました。このブラボーは見事でした!というのも、物理的な残響が終わり、マリナーさんがガッツポーズをとった瞬間に、マリナーさんの音楽モードは終わって通常モードに戻って、「やったぜ!」と心で叫んだことと思います。(このあたりのワタクシの勝手な造語については「余韻考(3)」の記事をご参照ください。)従って、もしもそのあとに静寂が続いたとしたら、かなり気が抜けてしまったかもしれないところを、これ以上ない絶妙のタイミングで、ほどよい声量とトーンで、完璧なブラボーが発せられたのでした。僕がこれまでに見聞きした無数のブラボーのうちでも最上級のブラボーだったです。あのブラボーを発した達人リスナーの方に、ここでブラボーを捧げたいと思います。僕を含めて普通のリスナーは、決して真似しないようにいたしましょう。(^^) そして2曲目がいよいよ「タリスの主題による幻想曲」でした。この曲をマリナー&アカデミー管で聴ける幸せ。弦楽の響きはどこまでも美しく、それに浸っているのはもう最高のひとときでした。 これでコンサートが終わっても十分な満足感です。しかし休憩のあとも、精気にあふれたエネルギッシュなベートーヴェンの7番が演奏されました。生命力がみなぎっていました。さらにアンコールでモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲が演奏され、さらにさらに2曲目のアンコールとして、「ダニー・ボーイ」の弦楽合奏が始まりました。その美しいことと言ったらありません。そして曲の終盤の盛り上がるところで、思いがけずホルンが突然に強奏で加わるサプライズがあり、響きは最高に充実し、感興も最高潮に達し、それはそれは強い感銘を受けました。 このとき間もなく92歳を迎えるというマリナーさんはお元気そのもので、若いコンマスをはじめ楽員たちと強い絆でがっちり結ばれていました。本当に素敵な音楽でした。 マリナーさん、沢山の沢山の素晴らしい音楽を、ありがとうございました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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