カテゴリ:演奏会(2019年)
メータとベルリンフィルによるブルックナー8番、その2です。
指揮:ズビン・メータ 管弦楽:ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 コンサートマスター:樫本大進 ブルックナー 交響曲第8番 11月21日、22日 サントリーホール 11月21日の感想は、ひとつ前の記事に書きました。この記事は、22日の演奏のことを少しと、二日全体としての感想を書きます。 22日は、前日よりも第一楽章がさらに充実して聴こえてきました。当方が二日目で耳が馴染んだせいなのかどうかはわかりませんが、音楽の密度というか緊張感が、昨日より増していると感じました。またこの日は全曲通じて補聴器ほかのノイズもなく、演奏に集中できました。前日と同じ、ゆったりとした自然体でいながら、形がぴしっと決まっている。そういう高次元のブルックナーをより一層満喫できました。 メータは、ずっと座って指揮をしていましたが、終楽章の最後、最高潮に盛り上がったところで立ち上がって、最後の数十秒を立って振りました!終わって残響が消えた後、比較的すぐに指揮棒をさっと降ろしたのは昨日と一緒です。この日も前日同様フライングブラボーがなく、一瞬の静寂がきちんと保たれたのちに拍手が始まりました。 その後の会場の盛り上がりは昨日を上回るものでした。日本ツアー最終日ということも関係していたと思います。次第にスタンディングオベーションする聴衆が増え、最後には満場総立ちとなり、メータの呼び戻しは前日より多く3回で、最後はオケ奏者3人とともにメータが登場して、お開きとなりました。 ここからは二日通じての感想です。今回の演奏はノヴァーク版第二稿でした。僕はこの曲を聴くのはハース版・ノヴァーク版どちらでもいいですが、もしもどちらか好きな方でと言われたら、ハース版で聴きたいと思う者です。しかし今回の演奏の、端整で無駄のない、きっちりした美しさは、今回使われたノヴァーク版が、ハース版より相応しかったと思います。 それからワーグナーチューバのこと。今回のワーグナーチューバは、潤った艶やかな輝きが素晴らしかったです。メータが2016年にウィーンフィルと演奏したブルックナー7番のワーグナーチューバは、これと対照的に、いぶし銀のような渋く美しい音色がとても魅力でした。ウィーンとベルリンでワーグナーチューバの美しさの味わいが大きく異なることをあらためて強く実感した次第です。 そして何より、僕が今回オケで圧倒的な感銘を受けたのは、ヴァイオリン隊の音でした。黄金のように輝かしい音色で、大きな力が漲っていて、いささかも緩みがないのです。これには本当にまいりました。今まで自分の聴いていたヴァイオリン隊の音とは異次元の音です。わたくしブルックナーを聴くとき、内声部がしっかり聴こえることをわりと重視していて、第一ヴァイオリンの音がきつすぎる、強すぎると思うことが時々あります。でも今回のこのヴァイオリン隊、音はとても大きく強いのですが、それがまったくうるさくなく、ヴァイオリン隊のこの音に身を委ねるのを大きな喜びに感じながら聴いていました。ブルックナーが書いたヴァイオリンパートの真の美しさを、今さらながらまざまざと悟った体験となりました。 メータのブルックナーは、3年前のウィーンフィルと、今回のベルリンフィルとで基本スタイルは大きな違いはないと思います。しかしウィーンフィルとの7番からは自由な自然体の印象を強めに感じ、今回の8番からは端整なきっちりした印象を強めに感じたのは、曲の違いだけでなく、オケの特性の違いが大きく影響しているのだろう、と思いました。 今回、メータの健康状態が昨年よりも上向いているようだったのはとてもうれしいことでした。これから80代の半ばを迎えるメータの音楽は、さらなる円熟の境地に入ることと思います。メータさん、またこのような音楽を、僕たちに聴かせてください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[演奏会(2019年)] カテゴリの最新記事
|
|