カテゴリ:マーラー演奏会(2019年)
今回のギルバートの6番演奏を聴いたのを機会に、ハンマー3回についていろいろと調べてみました。この記事はその1として、楽譜による違いをまとめてみました。
ハンマーの回数変遷(なし→5回→3回→2回)の経緯や、ハンマーの持つ意味などに関しては、金子健志氏の論考 「こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲」(音楽之友社 1994年)が非常に詳しく、最重要文献です。 今回久しぶりに読み返してみて、以前は良くわからなかったところもいろいろと腑に落ちました。 この本は残念ながら現在絶版ということですが、ご興味ある方は是非一読をお勧めします。なお、金子健志氏が音楽監督を務めるアマオケ、千葉フィルハーモニー管弦楽団のホームページにも金子氏の6番楽曲解説が載っていました。こちらもハンマーのことがわかりやすく詳しく書かれていて、大変参考になります。 https://www.chibaphil.jp/archive/program-document/mahler-symphony-6-commentary/page-6 ハンマーの意味をどう捉えるかとか、非常に興味深いのですが、今回はそういうことには触れず、素朴に回数のことだけに限定して書きます。 金子氏による歴史的経緯の解説(上掲書、1994年)と、その後の新たな更訂を経時的に並べると、ハンマーの回数は以下のようになります。 ○マーラーの生前 第1版(1906年3~4月頃 カーント社):3回 マーラーの指揮による初演(1906年5月27日):2回? 第2版(1906年6月頃カーント社):3回 第3版(1906年カーント社):2回 マーラー自身の指揮によるもう2回の演奏(1906年11月、1907年1月):2回? ○その後の校訂 第3版をもとにラッツが校訂した国際マーラー協会の全集版(1963年カーント社):2回 第1版をもとにレトリヒが校訂した版(1968年オイレンブルク社):3回 フュッセル&クビークが新たに校訂した国際マーラー協会の全集版(1998年ペータース社):2回 まとめると、ハンマーが3回なのは、第1版と、そのレトリヒ校訂版(オイレンブルク社)と、第2版です。金子氏によれば、マーラーは第1版完成後に、初演に向けていろいろ練習を重ねていく過程で楽譜にさまざまな修正を加え、中間楽章の順番を変えて(アンダンテ楽章を第三楽章から第二楽章にして)、ハンマーもおそらく3回から2回に削除して初演したのであろう、ということです。しかしマーラーの初演直後に出た第2版は、まださまざまな修正を反映する時間的余裕がなくて、中間楽章の順順を入れ替えた(第二楽章アンダンテにした)だけで出版され、それ以外の内容は第1版とまったく同じだそうです。続く第3版は、マーラーのさまざまな修正を反映していて、ハンマーが2回になりました。後世の第3版の校訂(国際マーラー協会の全集版)でも、ハンマーは2回です。 これ以後便宜的に、ハンマー3回である第1版、そのレトリヒ校訂版(オイレンブルグ社)、および第2版をまとめて「初期版」と呼ぶことにします。ハンマーが2回である第3版、および第3版を校訂した国際マーラー協会の全集版を「改訂版」と呼ぶことにします。 ハンマーの位置は、初期版では①第336小節、②第479小節、③第783小節です。この3回目の打撃は、楽章のもう本当に最後近くで打たれます。以前の記事(上岡&新日フィルのマーラー6番を聴く その2)で書いたように、終楽章に3回出てくる「拡大モットー」の3回目、この曲の最後のモットーとして登場する箇所です。改訂版はこの3回目のハンマーが削除されているわけですね。 なお金子氏の本には、この3回目のハンマーの前後数小節について、初期版(オイレンブルグ社)と改訂版(ラッツ校訂による国際マーラー協会の全集版)の両者が掲載されていて、詳しく説明されています。改訂版は、ハンマーが削除されているだけでなく、チューバとトロンボーンが削除され、ティンパニが二人から一人へと減らされるなど、音量が減る方向に改変されています。改訂版ではさらに、削除されたハンマーの1小節前(第782小節)の4拍目、ハープのグリッサンドの途中から、チェレスタのグリッサンド風の7連符が追加されています。 僕が持っているのは音楽之友社から出ているポケットスコア(OGT 95)で、これはラッツ校訂の1963年国際マーラー協会全集版です。あと、うれしいことにネットで、第2版(カーント社)と1963年全集版の両方を、パブリックドメインのスコアとして見ることができます。3回目のハンマーの前後数小節を見たところ、第2版とオイレンブルク社のスコア(金子氏が本で図示しているもの)とは同じであることが確認できました。 さて、ここからが面白いところです。ハンマーを3回叩かせる場合、楽譜は「改訂版」を使用して3回目のハンマーだけ追加する場合と、「初期版」を使用する場合の二つがあり得ることになります。3回ハンマーは、これまでに誰が、どんなふうにやっているのか、ちょっと調べてみました。以下、次の記事に書きます。 金子健志氏著「こだわり派のための名曲徹底分析 マーラーの交響曲」(音楽之友社 1994年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.01.08 14:12:46
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