聖戦Dolls 36 双子パート
「…カミナリだ、兄さん。」「そうだね。 …死んだのかな?」「かもしれない。」僕は地面に座って、嘉世はその横で寝ている。そして見たのだ。それはそれは凄まじい轟音だった。閃光で気づいて後ろを振り返ると、続いて来たのはその轟音。見たものはただ一つ。 漆黒の雷撃が処刑場を食らっていた。龍というものがいるとしたら、まさにその姿だと思った。処刑場からそんなに近いわけでもないのに…閃光、轟音。そして殺気と激情。きっとディドは泣かないし、声もあげない。苦しいとも、本当は救いが欲しいとも言わないだろう。そういうところで寡黙な人だ。だから… きっとあれが、彼の慟哭。「タロットカードにさ、こんなカードあったよね。 …崩れる塔の。」膝で眠る嘉世に落とす言葉。嘉哉が言うそのカード。塔。神の元へ… その人間の思いが作り出した高い高い、塔。しかしその塔は神直々の裁きを受けて、もろくも崩れ去る。その裁きは、神の雷。ディドは… 本当にDollの雷神だったのかもしれない。処刑場と言う名の塔を、雷でもって崩してくれた。その命を代償に。「そのカード、不思議なんだよ。『死神』や『悪魔』も上下逆さまにすると良い意味になるんだ。なのにね、『塔』だけはどうやって出ても破壊なんだ…。良い意味なんてないんだよ。」そう。それは絶対的。あまりにも絶対的。僕達の未来のように。「ねぇ兄さん… もう殺してよ?」「嫌。心臓刺されても平気な奴だっていたんだから。嘉世もまだきっと…」「もうこの発作、終わらせたい…。痛いんだ、凄く。だからっ。」弱弱しく差し出されたのは、嘉世が使っている ナイフ。鈍い銀色。血糊で分かりにくいが、よく手入れされている。弟が使い込んでいるのに、双子の僕の手にはには馴染まない。「嘉世… 首が良い?心臓がいい?」「心臓かな…。嘉哉兄、ありがと…な。」言われたとおり寝かした嘉世の左胸にそれを突き立てると、嘉世は心なしか嬉しそうで…。軽く服に当てたナイフからでも、嘉世の心音が狂っているのはよく分かった。苦しいんだね… 君がもうボロボロだっていうのは、知っているから。だいぶ無茶もしていた。どうせ直らないと、安静にもしなかったんだ。しかも、彼は動けた。動けなければ、こんなに速くは壊れなかったのに。戦って戦って戦って。その後でいつもいつも倒れたんだ。だからずっと壊れつづけた。そして今に至ってる。死ぬの?こんなに頑張って生きてきたのに。しかも僕の手で?僕が守りたかったものを、僕の手で壊すの?再利用なんてされないようにグシャグシャに。僕が?心臓を抉り出して、チップも粉々にして、体もバラバラにして。僕が、なんで僕が??一番、一番きみを大切に思っていた僕の手で…「いやだ!!!ねぇなんで!!死なないでッ!!最期の嘘をついて ―――――生きたいって。」ナイフなんてどこかに捨てた。刺すはずの嘉世の胸に僕は縋って。泣きじゃくって泣きじゃくって。むせ返りながらも僕は、嘘をついてと叫びつづける。僕のせに置かれる掌。「ごめん兄さん… 傷つけてごめん…」なんて優しい。殺せない僕を責めないでくれる。嘘でも良いから、生を望んで欲しかった。