ツ ヅ キ ノ ツ ヅ キ v
おかしい。なんかおかしい。そうとしか言い様がない、いわれもない感覚。…僕が能力を使ってできることを簡単に箇条書きにして説明すると・鍵のロック解除・コンピューターのセキュリティー解除・岩やコンクリートなどの、物体の物理的解除。となる。まぁ、これだけあれば(とくに三番目)戦えるからいいんだけど。…触れた部分の状態変化を起こせる、という能力のはずだったんだけどなぁ…靴の下の地面も、何故か波打ってる。おかしいなぁー… 触れてないのにどうしてだろう。口元に手を持っていって首を傾げてみたりもするけど、周りが騒がしい。考え事をするのに、この場所は最悪である。ダダダダダダと、今だって自動小銃が僕とマリアに向かって発射されたし。ここは廃墟ビルの中。銃声が木霊する。「マリアさん!!」本当におかしい。いつもだったら僕は軽く壁か足元を撫でて、石の壁をつくるんだけど…僕は彼女の腕を引っ張る。「か、風巳さん!?」「なるべく傍にいてください。」少し抱き寄せる。大丈夫、銃弾は届かない。ガガガガという音と一緒に、地面のアスファルトが僕らを包む。僕の周りに、オートで壁ができるんだから、銃弾も届かない。本当におかしい。…能力がハイテクになってる。そして銃弾の雨がやむと、壁は勝手にザアァと崩れ落ちた。僕は戦うたびに、裏都市(ここ)にくるたびに強くなっているような気がする。歪な力だけど、守るために必要なんだ。僕はまだ強くなる。絶対。もし生き残れたら。僕はそんな仮定をしながら、マリアを抱き寄せながら、戦っていた。アスファルトは崩れるのが面倒になったのか、液状化して空中にプカプカと浮いている。生き残れたら、強くなる。生き残れたら、Dollが生きていける場所を僕の手で見つける。それがダメなら作ってみせる。今までなら、誰かがそうするのを待っていただけだろう。あと… 生き残れたら、Blackmailerを探す。僕の家族を殺した人を探す。昔の僕ならこんなこと、やろうともしなかっただろう。僕は一度、生まれ変わったのかもしれない。人間・瑠璃垣風巳(ルリガキカザミ)からDoll・瑠璃垣風巳(ルリガキカザミ)へ。そしてまたその先へ。何度でも、僕は生まれ変わる。僕は僕自身に革命を起こして、前に前に進んでいくんだ。生きていたい。そう思えるようになったから。そして、そう思えるようにしてくれた彼女を守りたいから。なんでもできる。なんでもやってやる。僕はDollになって『能力』をもった。向き合える『勇気』をもった。倒す『覚悟』も。そして、譲れないものも。左手で手を繋いで、右手で全てを操って。粉塵を風が攫っていく。風も操ってしまおうか?そんなことできないけれど。走っていく僕たちを、風は確かに追いかけていた。始まりはいつも怯えていた。何も知らなくて、どうなるかも分からなくて。だからまた、今日も始まりの日。上も下も、右も左も分からない、闇の中の無重力状態。握る手の温度と、吹きぬける風だけ。外に出て、当てもなく走りつづける。このまま闇の出口まで、風に攫われていたい。雨が熱を奪っていく。繋いだ手は暖かいままだった。みんな、戦っていた。とりあえず誰が何処にいるのか把握できる距離で。敵は尽きる事はない。処刑場が戦力を総動員してるんだから、あたりまえのこと。だから殺しつづける。まぁDollは人を殺せないから、未遂だけれども。KillDollは際限なく殺しつづける。そして死天使も。でも、彼女には限界が存在する。ジュリは全身を赤に染め上げてフラフラしながら、それでも戦っている。きっと、気づいていないんだろう。殺しすぎている事に。目の前がグニャグニャしてきもちわるいな、それぐらいにしか思っていない。ザーザーと降る雨だけが、意識を体に引き戻していた。彼女がまた一人、殺した。雨の感覚すら、一瞬にして消え失せる。途端に意識がとんだ。倒れちゃいけない。本能だけが、彼女にそう叫んでいた。「ジュリッ!!」ディドの声は雨に掻き消されていく。それでもジュリの危険を、彼は本能的に察知していたらしい。…前も殺しすぎた事があったから、心配もしていたのだろうけれど。倒れた瞬間に振り返って駆け寄る事ができるんだから、それはもう第六感とか本能のレベル。「ジュリ!おい、大丈夫か!ジュリッ!!」しゃがみこんで倒れている彼女を揺り起こそうとするが、そのとき彼はふと気づく。雨のせいで冷え切った体と、投げ出された白い腕と、その手にきつく握り締められているデリンジャーに。バシャバシャと雨が強くなった。風が吹き上げて、音を増しながら雨は中を駆け抜け落ちる。雨がディドの髪を滑り落ちて、デリンジャーに注ぐ。憎らしい、その銃が。倒れてもジュリが離さない銃に、ディドはその赤い視線を突き刺した。熱をかき集めるようにして、ディドはジュリを抱きしめる。強いのに、強いのに、強いのに何故だろう。どこか脆くて儚げなのは。「ディド…、後ろ… 動かない…で。」「えっ?」雨の合間に微かに聞こえた声。ディドの疑問に彼女が答える前に、銃弾が彼の頬のあたりを通っていった。振り返ると、ジュリによってたったいま始末された… 人間。バシャンという音と一緒に落ちて、雨水と混ざり赤い川が流れ始める。カラン薬莢が落ちる音が、やけに耳に残った。「It was narrow escape… ディド、危なかったね。」視線を戻すと、辛そうに顔をしかめながら笑っている彼女。まだ覚醒しきれていないジュリの瞳は、蒼き虚ろを湛えている。返り血は雨に流されているが、雨のせいで解けた三つ編みが頬や首筋に張り付いていた。「ジュリ… 頼むから無理するな。」そっと手を伸ばし目にかかった髪を分けてやり、ディドは言う。彼の表情もまた、どこか途方にくれたようだった。かなりいいシーンまで書けた気がしますw