新・3話
03 Class mateは外国産病院を退院した僕は、マリアの家で新しい生活を始めた。家族を失ったことは寂しいが、話し合える人がいるから、まだ楽な方だと思って暮らしている。そう、いままでと同じように。学校は学校で―… 特に変わったことはない。はずだったんだけど……僕が入院している何日かの間に、学校では事件が起こっていた。ナイフを持った男が学校に入り込んだのだ。死者三名、重症七名、軽傷… とかなりの騒ぎになっていたらしい。マリアさんから聞いた話だと、犯人は逮捕された後に自殺したという。そして、この事件でスターになったクラスメイトが一人。僕の斜め後ろに座っているジュリという女の子だ。「…そりゃ、怖かったけどさ。トモダチが刺されんのを見てるだけってのは、やっぱ無理じゃん!」教室の後ろだって、彼女がいれば中心になる。さっきまで沢山の人が集まっていた。ちなみに… 何人か刺した後で血まみれの犯人に、消火器の中身をぶちまけたのは彼女である。その時に警察は突入したとか何とか…。極限状態で友達の為にそこまで動くとことは、なかなかできることじゃない。凄い人である。が、しかし凄い人じゃ無い。簡単に言うと… そう、人では無いのだ。ジュリは僕と同じ、Doll。だから、人じゃない。『きりーつ、れい。』声にはっとして、とりあえず機械的に挨拶は済ませた。タイミングをずらすと、けっこう恥ずかしいんだ。…ぼーっとジュリのことを考えていたら、放課後のホームルームが終わっていた。先生、何喋ってたんだろう? ってか、先生いつ教室に来たんだっけ?…チャイムすら、気づかなかったし。机のひんやりとした感覚に誘われて、眠っていたのかもしれない。時間に置いていかれた感じがした。まぁ、そろそろ帰るか…。椅子から立ち上がろうとしたら「風巳、一緒に帰るか?」斜め後ろから声をかけられた。ジュリだ。「帰りましょうかぁ…。」僕は最近、ずっとこの調子。暑さでもやられてるし、Dollとしての新しい環境にもやられている…。たぶんきっと、いや絶対に疲れてるんだ。ジュリ、本名ジュリエット=クレイバーン。本人はこの名前が嫌いらしく、皆には『ジュリ』と呼ばせている。正直言って、女の子と話した事なんてあまりない。隣を歩くだけなのに、なんか妙に緊張した。「ジュリはいつ、自分がDollだって気が付いたんですか?」隣を、僕よりは速い歩調で歩いていく彼女に、質問。Dollとして、彼女のほうが先輩である。色々とDollとして聞きたいこともあるし。「もがが… とっとまっへへ、たへたうからー!」ボディイランゲージで言葉を伝えてくるジュリに「だいたい何言ってるか分かるから平気です。」と、とりあえず伝えて。ちなみに、訳すと『ちょっとまってて、食べちゃうからー!』となる。口の中にクッキーを押し込んでいたジュリは、クッキーが一段落したところで答えてくれた。甘い匂いが、下校路の風に乗る。ジュリいわく、今日発売の新製品なんだそうだ。「気づいたのは、日本に来た時かな?あ、ウチって昔、イギリスに住んでたんだ。つーか、外国産Doll。んで、捕まって売られて目が覚めたら、日本にいたって訳。でも、いきなり日本語を話せるっておかしいだろ?あと、ウチは処刑場から逃げてきたんだ。そこにいたってことは、Dollなんだなぁって。」ジュリの話しは、Doll初心者に難しい用語が多すぎのような気がする…。「あの、『処刑場』ってなんですか?」「はぁお前、それぐらい分かれよ!本当に人間の生活してたんだな。処刑場っていうのは、埋込型人形処分場って所。科学者達が人形で実験したりしてるんだ。そっから逃げんのは、けっこう大変。」「…そうなんですか。」ジュリも大変だったのだろう。あえて触れないでおいた『人形』で『実験』というワード。…大体のことは、僕でも感ずくことができた。一瞬、ジュリの表情に影がさしたから。病院で少し、マリアが教えてくれていたから。だけどジュリは、ヒマワリのようにニカッっと笑っている。やっぱり強いDollなんだ。…Dollとかじゃなくても、普通に強いんだ。見惚れるような強さだ、と。僕は、そう感じた。きっと、僕はこのようには生きてはいけないだろう。太陽の花びらが、とても眩しい。はぁ…。この釈然としない感情は何だろう。「やっぱり、Dollって大変なんですね…。僕は裏の世界って知らないけど。」そう言って、僕はまた苦笑するんだ。…本当のところ、知りたくも無い。自分がまだ足を踏み入れたことも無い、闇の世界のことなんて。「…風巳、生きてく気がある命はなかなか死なないんだよ。っと、家に到着!」生きてく気かぁ。ジュリがどうやって生きてきたか、生きているか。それを僕は知らない。でも彼女が言うと、とても説得力があった。「あっ、ジュリ待っ…。」ジュリが家に向かって走り出すから、僕も駆け出す。ジュリもマリアの家に居候しているのだ。どちらが先に家の敷居を跨ぐか…もうすぐ決着がつきそうだ。いつも せなかを おいかけてるのは ぼく