「成長」考
成長企業と呼ばれるものには、企業価値を創造しながら成長しているものと、そうでないものが混ざっている。 ちなみに、企業価値を創造しているとは、資本コストを上回るだけのキャッシュを獲得しているということをいうとされている。 そして、投資家としては、企業価値を創造しながら成長している企業こそを投資対象とするべきであると言われる。 ここでは、仮に、企業価値を創造している成長企業を「価値創造型」と呼び、そうでない成長企業を「拡大型」と呼ぶこととする。 価値創造型は、資本コスト以上のキャッシュを生み出している企業と定義されているから、必然的に資本利益率の高い企業ということになる。 つまり、ROEとかROAの高い企業ということであり、少ない元手で大きな利益を上げている企業ということができる。 まさに商売人の鑑のような企業である。 一方、拡大型は、企業価値を創造できていないわけだから、資本コスト未満のキャッシュしか生み出せていないということになる。 つまり、預かった資金を効率的に増やせていない企業ということになる。 では、資本コストを上回るキャッシュを生み出している企業に投資しさえすれば良いのだろうか? ここで、一例として、帝国繊維という会社に御登場願おう。【特色】麻(リネン)の最大手。麻合繊混紡糸に強み。消防ホース・救助器具など防災関係が主力 【連結事業】繊維47(7)、防災47(16)、不動産賃貸3(68)、他3(9) 御覧の通り、主にリネン製品・防災用品を製造販売している会社である。 皆様も、近くの消防ホースを見てみると、「帝国繊維」ないしは「テイセン」と書かれているのではないかと思われる。 ちなみに、消防関連の基準見直しに伴う特需に見舞われており、PERも10倍程度という状況でもある。 さて、資本利益率についても以下に御覧のとおり、なかなかのものである(ROEは低下してきているが)。年度ROEROA2001年度30.467.272002年度25.578.182003年度22.328.99 以上の通り、買っても良いかもしれないが、果たして帝国繊維は成長企業と言えるのであろうか? 以下では、一般的に業績といわれるものを見てみよう。 年度売上高営業利益2001年度21,3991,7592002年度21,9062,1062003年度21,6722,259 売上高営業利益率は改善傾向を示しており、良い状況にあることはわかるが、売上高が横ばいという状況でもある(但し、今年は売上高も伸びる見込みのようである)。 一般的には、売上高の上昇を伴わない場合は、成長しているという言葉は不適当なのではあるまいかと個人的には思われるので、帝国繊維は経営改善が見られるものの(有利子負債も削減されている)、成長企業とは言いがたいように思われるのである(テロ対策が広まったり、リネン人気が沸騰すれば「成長」企業に転身するかもしれないが・・・)。 さて、ここで、業績の伸張著しい企業の例も見ておくとしよう。年度売上高営業利益2001年度3,6012202002年度5,8901,1852003年度10,8241,461 まさに、度肝を抜くような「成長」ぶりである。 ついでながら、資本利益率も確認しておこう。年度ROEROA2001年度1.951.712002年度7.025.292003年度5.263.76 先程までの「成長」ぶりはどこへやら・・・といった感じの資本利益率であり、価値を創造しているとは言い難い成績である。 まさに、「拡大型」というにふさわしい企業である。 拡大型は、一種の事業道楽といえるのかもしれない。 一応、この企業の名誉のために2004年度の業績予想を挙げておく。 売上高25,000 営業利益5,500 経常利益5,000 当期利益2,00 総資産68,747 株主資本14,797 有利子負債17,713 ROEは、そこそこの数字になってくる予想ということなので、そのことを上手く宣伝してくるかもしれない。 ちなみに、この企業の名はライブドアという。 とどのつまり、資本利益率が高いだけでも、売上高や利益等の規模が拡大しているだけでも、成長企業というには忍びないものがある。 はっきり言えば、高い資本利益率を保ったまま規模を拡大してくれないと「成長」という言葉は差し上げられないのである。 そういう企業は少ないから問題ではあるのだが・・・。 基本的には、事業道楽っぽい人の起業が多いのと、資本コストの意識のない経営という問題があるような気もしなくはないが、投資家としては、なるべく本物の成長企業に投資したいものである。雑談: 資本利益率と業績拡大とでは、材料としては業績拡大の方が強力な気がするのですが、皆様の感覚としてはいかがなものでしょうか?