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カテゴリ:real stories (非小説です)
その17の続きです。
何度か深呼吸繰り返して、やっとやっと涙が止まってくれる。車も停めて欲しい。そう思って口にしかけた私に、カトウさんは、 カ:シホとよく行ってた場所があるんですよ。そこに行きますね。 勝手に決めてるし。シホとの思い出の場所。シホの名前を出されると弱い。やっと止まった涙がまた出てくる。シホはこの車にもきっとよく乗ってたんだな、とか考えちゃって。カトウさんは、運転に集中してるのか、まだ何も話さない。私は、なんとか泣き止みながら、車の中をぼんやりと眺める。レバーにひっかけられているストラップの先には、七五三なのか晴れ着姿の娘さんらしい写真。こんなの見て、シホは何を感じたんだろう。明るく笑うそのお嬢さんの写真に、ダメになったシホの赤ちゃんのことを思う。シホの心にシンクロしかけては戸惑う。そんな風にぼんやりとシホのことばかり考えていた。 どのくらい走ったのか、ちょっと、その日の感覚は思い出せない。気づいたら、なんだか、山道だった。といっても、交通量は少なくはない。時々対向車とすれ違うし、何よりまだ空は明るい。 カトウさんが、車を止めたのは、山道のメイン道路から、少し横にそれた、資材置き場のような場所。砂利敷きの少し広い空間だった。私が何かを思う前に、カトウさんは、 カ:ここが、シホとよく来た場所です。夜になると夜景がきれいで、星も見える。シホは意外とこういう場所がすきでね。 そんなこといいながら、シートベルトを外し、少しカラダを曲げるようにして、私のほうをしっかりと見たカトウさんは、 カ:挨拶もちゃんとできてませんでしたね。カトウです。はじめまして。 ひ:・・・はじめまして。。 ポツリと呟くように返した私に、カトウさんは、容赦ない視線を向けてくる。 カ:緊張してるの? 急に馴れ馴れしい色を帯びた声色に、はっとした次の瞬間には、 カ:僕も君もシホをしっかり大切に思ってたんだから、すぐに仲良くなれるよ。でも、ほんとに、、シホは。。。 そういって、涙ぐみながら、私の手を握ってきた。ありえない。 ヤバイ。変な汗が出て、背中がぞわっとくる。 このヒト、本気で、ヤバイ。気づいたときには遅いっていうのが定番の感覚が頭に浮かぶ。 カトウ(←さん外すねw)は、やや小太りで、腕も太くて、力では勝てそうにない。 私は救いを探して、メインの道路に耳を済ませる。時折通る車の音。 こっから飛び出して走ってって、運よく車が通りかかってくれる、そしてその車が停まってくれる可能性は何%あるだろう。 頭の中は、どうしよう、でいっぱいだけど、カトウはそんなことにも気づかずに、 私の手を持って、もう一方の手でなぜ回しながら、シホの思い出を話してる。 涙声で、鼻すすりながら、どれだけ自分がシホを愛していたかを語ってる。 悪いけど、全然、心に響かない。うさんくさい感じしか伝わってこない。 カトウだけが知っているシホのこと知りたい、なんて気持ちはすぐに消えていった。 この人には、シホの本当のよさなんて、本当のシホなんて、決して見えていなかっただろうから。 途中で、自分の免許証を見せてくる。シホが気に入ってた写真だとかいうけど、 正直、元も悪けりゃ、写真写りもひどい。ため息がでるほど、どーでもいー。 免許証を見て、私は、ハっと気づいたことが一つあったんだけど、その時は、 それ以上何も深くは考えなかった。そのことについて何も口にしなかった。 とにかくすごくすごく長い時間。カトウはただ、私の手を握って話していた。 とにかく激昂されたらヤバそうだから、とにかく逆なでしないように、適当に相槌をうつ。 だけど、相槌に身が入ってないこと、今さらみたいに気づいたカトウが、 カ:ごめんね、僕ばかり話して。というか、シホのことばかり話して。気を悪くしてる?ひょっとして拗ねてるのかな? は?ていうか、シホのコト以外に私たちの間になんの話題があるっていうんだろう。意味が分からず、?の視線を向けた私に、 カ:そうだね。うん。君の話もしよう。シホは君のコト本当に好きだったみたいだな。よく話してたよ。サラはちっさくて、とっても可愛いって。だから、僕には会わせてあげないって。写真も見せてあげないって。そんなこと言ってたな。シホの、かわいい嫉妬だよ。・・・でも、いや、だからかな、通夜で見たとき、すぐに君がサラだって分かったよ。本当に、ちっさくてかわいいな、サラは。 って、もう、呼び捨てになってるし、どうなってるの?この勘違い男。あまりのわけの分からなさに、唖然とする。 カ:だから、 カトウはそういって、あろうことか、私を抱き寄せて、 カ:こんなとこ見たら、シホ嫉妬して手がつけられないかも知れないな。 なんていってくる。背中に回された手が、背中をなぜてきて、気持ち悪さが絶頂に達する。 相手のあまりの不気味さと、頭の悪さに、脱力してしまう。 私は、目の前に迫ってきてる身の危険よりも、なんだか無性に腹が立って、どうでもいい投げやりな気分になった。たとえ無理矢理サれたってどうでもいいやって。カラダなんかどうでもいいやって。耐え切れなかったら死んだっていいや、どうせ、ヒロトもシホももういないんだ。ちーこのことすら忘れて、そんなことまで思ってたかも知れない。そのくらい、自分の身を守るよりも、カトウに対する苛立ちが無性に抑えきれなくなってきた。だから、はっきり言った。 ひ:嫉妬なんてしないんじゃないですか?シホ、ずっとあなたとは別れたがってたって聞いていました。 私の言葉に、ひとり別方面に盛り上がっていたカトウは、初めてちょっと戸惑ったようなカオをして、私を離した。 カ:オオタがそういってたのかな?・・・・通夜も葬式も一緒にいたよね、アイツとずっと。仲いいの? カトウのメガネの奥の目が、なんだか、冷たくなって、不気味さに拍車がかかる。 だけど、怯まないで私は言った。 ひ:オオタくんだけじゃなくて、シホからも、そう聞いていました。オオタクンと婚約までしたのに、カトウさんが別れてくれないって。 キレられるかも知れない、そんな覚悟で言ったけど、カトウは余裕の笑顔で、私に言った。少し呆れたようなため息をついて。 カ:シホは、オオタにだまされてたんだよ。 ひ:は? カ:結婚を餌にされて、好きでもないのに好きだって思い込まされてたんだよ。かわいそうに。僕に別れ話までしたりして。だから、僕は何度も説得したんだ。シホが愛してるのは僕だけだってね。シホは分かってくれたよ。でも、そのたびに、何度もオオタがジャマをしてきてたんだ。サラももうオオタには会わないほうがいいね。 呆然とする。この人の頭の中はいったいどうなってるんだろう。自分にとって都合が悪いことは全て、なかったことになるんじゃないだろうか。記憶だってすべて、容易に書き換えて、それが事実だっていう風になってるとしか考えられない。 オオタクンとの最後の電話で、死の直前の電話で、 シ:もう何十回も別れ話してるんだよ。だけど、頭が回らなくなるんだもん。 オ:あいつが好きだから? シ:違う。好きとかほんと、ないの。だけど、会話してるとよく分からなくなってくるの。 そう言っていたと言うシホの言い分が分かる。この人と会話してるとおかしなサイクルに巻き込まれる。 私は、なんとか踏みとどまっていう。 ひ:そんなことありえない。シホはオオタくんを本当に好きだったんです。 死に際のシホの必死の思いが胸にこみ上げてくる。だけど、今泣くわけにはいかない。 カ:なんだ、サラも、もう、オオタに洗脳されてるの?オオタと寝たんだな? なんだか、浮気を問い詰めるような口調にワケが分からなくなる。どんだけ説得したって通じるはずなんてない相手なのに、私は、 ひ:寝てなんていません。洗脳もされてません。私は私が聞いたまま見たまま感じたままを言ってるんです。 カトウはそう言った私を哀れむような目で見てため息をつき、それ以上言ってもムダだとでもいうように(どっちが!)、首を振り話題を変えてくる。 カ:そうだ。シホから預かってるもの、見せようか。 私が返事をするよりも前に、カトウは、後部座席に手を伸ばし、大きめの茶封筒を取り出して、私の膝の上に置いた。 カ:見ていいよ。 上から目線な許可にイラつきながらも、封筒を手にとって中を見る。中に入っていたのは、 ひ:これ、私が書いた、、、 私からシホ宛の手紙・FAXだった。何年分も。きっと、送ったもの全てがその中に入っていた。 なんでこの人が持ってるんだろう。モノといたげに顔を見たら、 カ:それ、シホ、よく持ち歩いてたよ。なんかのお守りみたいに。 ・・・私の手紙。・・・・シホ。連絡できない間、『愛想つかされたと思ってた』、そんな風に思ってた私、からの手紙を。一体、シホはどんな思いでいたんだろう。止められない涙がこぼれ始めた。 だけどだけど、なんでそんなに大切にしてたものをこの人が。 カ:シホと最後に会ったとき、車に忘れてったんだ。最後に会ったときにだよ。僕に読んで欲しかったのかな。 そんなわけっ、叫びたいのに、もう、シホへの想いがあふれすぎて声にならない。封筒を胸に当ててもう、とまんなく泣き出したら、 カ:だから、僕が全部読んであげたよ。サラも本当にシホのこと好きだったんだね。僕も同じだよ。だから、僕たちは分かり合えると思う。こういうときは同じ気持ちの人間どうしで慰めあえばいいんだよ。寂しいよね、シホがいなくて。。 そんなこと、いいながら、また、私に腕をまわしてきた。だけでなく、顔にキスまでし始めた。キモチワルイ。身の毛がよだつ感覚って、あんなのを言うんだろうな。ずっと忘れようと思い続けてきたから、もう鮮明には思い出せないけれど、とにかく、おぞましかった覚えがある。カトウは、私が嫌がってるなんて気づきもしていない様子だった。カトウははっきりいってヤル気まんまんだった。本気で身に危険が迫って私は、心の中でシホに問いかけてた。・・・こんな人、どこが良かったの?そんなこと思ってる間にも、勝手に盛り上がってるカトウは、私に、さらに体重をかけようとしてきたし、唇にキスまでしようとしてきた。絶対にヤる気もなかったし、キスする気もなかった私は、もちろん拒んだ。私が、拒んだことに気づいたカトウは、 カ:どうかした?さっきの、シホの嫉妬の話気にしてる?大丈夫だよ、サラなら。シホも許してくれるって。 まだ、とんちんかんなこと言っている。ほんとにキモイ。そして、実際ヤバイ。押しのけようとしても全然力じゃ叶わない。助けてケースケって、思った。何回も何回も。その時はまだ恋人でもなかったしキスもしていなかったケースケ。ずっとそばにいて支えてくれてたケースケ。だけど、もちろん今は助けになんてきてくれない。ケースケに黙って出てきたのは自分なんだから。だけど、絶対、この状況から抜け出したかった。カラダなんかどうでもいいや、ってさっき思ったけど、違うって。『シたかったらシてもいいよ』って何度もそんなひどい言い方をしてきたのに、ケースケは、ガマンしてくれたのに。『サぁの心と体が一致してないなら絶対シない』って、心も体も大切にしてくれてたのに。それなのに、こんなヤツに絶対されたくない。シホの死に傷ついてるフリをして、本当に凹んでる私の隙につけ込んで、ヤろうとしているこんなヤツには絶対されたくないって思ったから。そして、絶対に抜け出したいと思って初めて、すごく恐怖を感じた。 だって、絶体絶命の状況にいたから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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