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カテゴリ:real stories (非小説です)
朝。事務所で1人準備を整えていると、ドアの開く音。と、同時に、
「おっはよっ」 の元気な声。センセイ、の、登場。目を向けるのと同時に、続いて聞こえてくるのは、 「おはようございます」 の穏やかな声。今朝はケースケさんも一緒だ。普段なら、事務所前でセンセイを落として、そのまま出勤のはずだが、入ってきたということは、お子さんの保育園と、先生が、別会社で働く日の送迎の調整をするということ。ケースケさんは、簡潔にまとめた自分の予定表を僕に渡して、内容を告げながら、 「って感じですね。いつも、本当にすいません」 の丁寧な言葉をくれる。 「ごめんね、Mくん。よろしくっ」 軽い言葉を投げてくるセンセイは、例によってまだ私服姿でソファでだらりと過ごしていた。ちょっと呆れたように笑ってソファに近づき、ケースケさんは、 「サぁ、じゃ、俺、行くな」 センセイの頭を、軽く2度ポンポンとたたく。それを合図にセンセイも立ち上がり、 「は~い。行ってらっしゃい。ありがとね。私も着替えるか~」 って、ケースケさんは事務所のドアに、センセイは母屋に続くドアに向かいかける。 その2つの背中に、 「すいません」 と、声をかけた。 「はい?」 「ん?」 振り返って、それぞれに、疑問系な顔を向ける。少し躊躇したが、訊ねることにする。 「お2人は、年末年始の予定ってもう入ってますか?」 「・・・年末年始?」 異口同音に言いながら、お二人は顔を見合わせる。先に口を開いたのはセンセイの方で。 「休みたかったら好きなだけ休んでいいよ?だったら私もMくんのせいにして休めるし。送迎なんかなんとでもなるし。カノジョと旅行??」 って、さっき送迎のこと話してたから、そのことだと思ったみたいだ。 「ありがとうございます。ただ、ケースケさんの予定が空いてないとちょっとその予定は変更というか」 なんだかストレートにいうのも照れるから、歯切れ悪く言う僕に、 「ああ」 そういってすばやく手帳を取り出し確認したケースケさんがにっこり笑って言う。 「それは、おめでとうございます。大丈夫ですよ。空いてます」 僕はほっと安堵の息をつく。 「そうですか。よかった。ありがとうございます」 「場所とか、日程とかは、もう?」 「いえ、まだ、ケースケさんの予定を聞いてからと、思ってて。いろいろ相談にも乗っていただきたいし。ただ、できれば、再会してちょうど1年なんでその頃にできればな、と」 「ああ、ああ、そういえば、そうでしたね。ていうか、カノジョさんの方の確認は済んでるんですよね?」 そんな言い方で少し楽しそうに訊ねるケースケさんに、 「ああ。それは、まあさすがに」 そう答えると、 「・・・・ねえ、2人、さっきからなんの話?どこにいるか全然見えないんだけど」 全然、ついてこれてなかったらしいセンセイが焦れたように割って入る。ほとんど口をとがらせかけているセンセイに、僕は、ケースケさんと目を合わせてから、言う。 「僕、結婚することになりました」 センセイは、一瞬、ぽかんとした後で、 「ぅええっ??ほんとに??ていうか、早っっ」 って心おきなく驚いてくれる。 「ていうか、サぁ、おめでとう、は?」 ケースケさんに、苦笑しながらたしなめられて、センセイは、 「あ、わ、え、あ、そっか。おめでとー。おめでとーございますっ」 って、嬉しそうに言ってくれた後、 「なんだー、そうかー、そうなんだー。えー??すごーい。うわー。ついこの間、再会したばっかじゃない?うわー。そうかー。おめでとー。あー。なんか、すっごい、照れる・・・ってなんで私が。。」 とかブツブツいいながら、ドアの向こうに出て行った。僕と、目を合わせて微笑んだ後、時計に目をやったケースケさんに、 「すいません。朝からお時間とらせて」 「いえいえ、おめでたい話題で嬉しいですよ。じゃあ、また、日を決めてカノジョさんと一緒に打ち合わせしましょう。俺のスケジュールは空けておきます」 「よろしくお願いします」 「ていうか、サぁ、取り乱しすぎですよね?なんだよ、俺に、なんも言わずに行っちゃったしな~。」 ってケースケさんもブツブツ言いながらドアを出て行った。 また1人になった事務所。2つのドアに目をやり、時計を見てから、僕は静かに仕事に戻った。 だけど、それも。 スーツに着替えたセンセイが、ネホリハホリ聞き出そうと、目を輝かせて戻ってくるまで、のことだったけど。 -了- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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