blue night 24
入ってきた水野は、自分のイスに座る碓氷を形ばかりにらんでから、「あ~あ~、テツヤ~、ナ~ニしてんだよ、こんなとこでぼ~っと自分だけ、ったくさ~」とぼやきながら、来客用のソファセットに腰を下ろした。「ご苦労さん。悪いな、手間かけちゃってさ」碓氷が気楽な口調でねぎらう。水野はソファに座ったまま、両手を挙げて伸びをし、碓氷に目だけを向ける。「ほんとに、思ってんのかよ」「思ってるよ~。あれ?怒ってんの?」「いや、別に~」軽く否定する水野に、「だよな、このくらいのことじゃ、怒んないだろ?」「まあ、ガセならお前は別に悪くないんだし。たださぁ、お前がノーコメントで聞いてくれないから、バタバタさせられて、困ってるだけだよ。怒っちゃいない。千夜は怒ってるかもしれないけどな」碓氷は少し考えて、「いや~。千夜だって怒ってないだろ。きっと」水野は後を引き取り、「あきれてる、か?」碓氷はうなずいて、「きっとな」千夜の呆れ顔が目に浮かぶようで、二人は視線を交わし微笑む。水野は、冷蔵庫から水を出して飲みながら、「で、一体ダレなんだよ?」「何が?」「お前が、久々に、本気で、好きになった相手だよ」「なんだよそれ」水野のあまりに突然の問いに、テツヤはあわててとぼけようとするが、うまくいかない。「なんだよってことないだろ?そんな相手でもいなきゃ、こんなに躍起になって否定なんてしないだろ?」「・・さすが、親友。隠し事できね~な~。。」「感心してないで、言えよ。まさかと思うけど、ユウコちゃんに、再会したとか?」確かに水野はあの当時柚子に何度か会っている。だからって20年以上も前のことを、名前まで。物覚えのいい水野に内心驚きながらも、「まさか」「へ~、じゃあ、本当に新しい誰か、なのか。一体なんでまた?あれから誰にも本気になってなかったのに」「僕にだってわかんないさ。でも、もう、会ってすぐに、、好きになってたんだ」・・蒼夜。、、とそっと碓氷は思う。水野は少し考えて、「そうか、、で、相手は?」と尋ねた。「なんで聞くんだよ」心の中を見られたみたいで、ドキドキしながら聞き返す碓氷。水野は落ち着いて当たり前のように、「めったな相手じゃ困るからだよ。ばれたときに騒ぎになるなら、先に知っておきたい」・・・確かに、ばれたら大騒ぎになる相手だよ。でも。「大丈夫だよ、その心配はないさ」「どうして?」「見込みないんだ」「・・・片思いなのか?」「そういうこと」水野は、眉をしかめ、鼻でふっとだけ笑っていう。「お前らしくもない。・・・いや、らしすぎるか」女ったらしのパブリックイメージだけじゃなく(それはある意味事実だが)、1人の人を思い続けてきたテツヤを知っているから、水野にはそう思えた。だから、言う。「相当本気なんだな」「情けないくらいにね」「見込みもないのに、誤解されたく、ないわけだ」「ああ、相手は全然気にしていないとしても」そこで視線を絡めあう。しばらくお互いの目を眺めあった後で、水野は、軽く息を吐き出して言う。「分かったよ。もう聞かない」水野は、立ち上がり、コートラックに掛けてあったスーツのケースをあけ、きちんとプレスされたスーツを取り出し、自分の着けているネクタイを緩め、着替え始める。「あ、もう、行く時間か?」たずねる碓氷に、「まだちょっと早いけどな。いつまでも、お前の件の対応ばっかしてもキリがないから、早めに全員で逃げ出すわ。」「賢明なご決断で」茶化すテツヤに、「ああ、テツヤ、今日は1人で帰すわけにいかないから、送らせるわ。今夜くらいは家でおとなしくしててくれよ」言い渡す水野。碓氷は、「僕も行くよ」「はあ?」驚いて聞き返す水野に、「いいだろ?お詫びとお祝い、一言でいいから千夜に言わせてくれよ」水野はシャツを着替え、ボタンを留めながらいう。「ダメだよ。蒼夜がくるかもしれないって言ったろ?」「そんなこと言ってさ。きたタメシないんだろ?」千夜と水野はいつだって、くるかも、なんていってるけれど、事務所の人間の話だと、蒼夜は、そういう席にめったに顔をみせることはないとのことだった。・・・だけど、、もしも来ていたら。一目でも、いいから蒼夜の姿を見たい。・・未練がましい僕。碓氷は、水野に気づかれないようにそっとため息をついた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。