よくできた姪とヒジョーシキな叔父
さて、今回オイラが有給休暇をとって実家に帰省した主な目的は、姪と甥を相手に「“家族サービスをするお父さん”ゴッコ」をすることであった。コドモをどっかに遊びに連れていってやるとかモノを買ってやるとかいった、同世代のオトナにとってはごく日常的な行為でさえ、独身でかつ将来的にも結婚する予定のないオイラにとってはちょっとした憧れがあったのだった。前の晩、一緒にテレビで「ルパン3世 カリオストロの城」のビデオを見ていた9歳の姪が、「One Piece」とかいうアニメの映画を見たいとか言っていたので、今日はまずは二人を映画館に連れて行くことにした。ところで、オイラの姪と甥は、やたらと声がデカイ。東京圏とかに住む親戚や知人のガキどもを何人も知っているが、こんなデカイ声を出すヤツは見たことがない。これはたぶん、オイラの実家も自分たちの家も比較的大きくて近所に騒音の気兼ねをする必要がないことに加え、元応援団幹部だった祖父や叔父(=オイラ)の影響が考えられる。彼らの父であるオイラの義弟は、現代人には極めてマレなくらい寡黙なオトコなのだが、実子がこんなウルサイ子供に育ったことにきっと複雑な心境であるに違いない。そんな二人を連れて電車に乗ったところ、二人は空いた席に座ることさえ遠慮して、まるで借りてきたネコのように大人しくしている。内弁慶だったコドモ時代の自分を思い出し、ちょっと可笑しくなってしまう。平日の朝の電車で、おとなしいコドモ2人を立たせてひとりで席に座りコドモを見て微笑んでいる、ちょっとアブナいオトナのオイラ。街中に到着すると、映画の開始時間まで時間があるので、デパートのゲームセンターで遊ぶことにした。春休み中とはいえ、平日の開店まもないデパートのゲーセンで遊んでいるのはオイラたちだけである。コドモたちも周囲に遠慮せず自宅にいるときのように大きな声を張り上げてゲームに興じ始める。閑散とした店内で、ちょっと不審な3名を店員たちがどう思っていたかは不明だが、「家族サービスの父」を演じるオイラとしては満足である。ゲームに疲れたところで、甥にクツを買ってやることにした。別に甥がクツを欲しがっていたわけではない。さっきからいっしょに歩いていて、甥のクツがブランドものの割にポロポロと簡単に脱げてしまうのが気になっていたのと、彼がオイラと同様で極端な偏平足なので、いつか矯正用のシューズを買ってやろうと思っていたのである。レジで代金を払うなり、店員にその場で値札をハサミで切ってもらうと、さっそく甥にクツを履き替えさせ閑散とした店内を走らせる。甥もフィットの良いクツに喜んで真剣に走っている。「ジョーシキのないメーワク親子」の図だが、オイラは満足。時間になったので、デパートから映画館に移動する。このアニメは以前、中学生の居る親戚の家を訪れたときにTVでチラっと見たことがあるが、オトナが見てもなかなか面白い。…とはいえ、4歳児にはちょっと高度過ぎる。上映開始後1時間もすると、甥は飽きて落ち着かなくなってくる。まず、「暑い」と言い出したので、ジャケットを脱がせた。それから10分くらいして、まだ「暑い」と言う。様子を見てみると、確かに汗をかいている。仕方ないので、シャツを脱がせて下着1枚にさせてやるとようやく落ち着いた。…しかし4歳児の根性は、映画のラスト10分くらいでついに限界に達したらしく、またシートから体を浮かしてソワソワし始めた。オイラは「甥よ、あと10分くらいだ。辛抱したまえ。」と言うが、効果はない。こういう時、コドモに対するオイラは自動的に英語にスイッチする。だいだいコドモや動物を叱ったり罰したりするときにはなぜか英語になる。「Sit still! Another 10 minutes, OK?」といって甥の体を押さえつけると、ちゃんと言うことを聞いた。動物であれ幼児であれ、やはり口調に含まれる強制的なトーンを感じ取るに違いない。(つづく)