Marijuanaさんとトンガの大臣に土下座した!その3
3007号室にドアの向こうに立っていたのは、日本人がトンガだとかサモアだとかいった太平洋上の島国の住民のイメージをそのまま戯画化したような、四角っぽい体躯に巨きな頭を乗せた、濃い顔の熟年男性であった。着ている洋服を脱がせて虎のパンツをはかせて角をつけたらそのまま赤鬼になりそうな、迫力のある顔である。彼は夜遅くまで会議をして深夜にホテルに帰ってきては毎晩心地の悪いシングルベッドに寝かされる苦痛を吐露した上、COP10の前の催し物に出席するために東京で日本政府が用意してくれたホテルの部屋がいかに広くて快適であったかを比較し、このような部屋に1晩4万数千円を払う価値はないと断言した。理由はいろいろ並べ立てるが、要するに自腹を切るのは1銭でも少ないしたいのである。オレは、彼の部屋は本来なら3万円近くする部屋であり、そんな部屋にシングルの料金で泊まれているのはホテル側の好意によるものであるからして、大臣がシングルに相当する料金しか払わないというのは妥当ではないと主張した。しかし彼は、自分がシングルから移動したという事実はないと言う。側近のクセに態度がデカいだけでなく、部屋を移動した事実を否定してまで大臣の部屋料金を値切ろうというのか。それにしてもさっきから話が微妙にズレている。大臣の部屋の料金の話をしているはずなのに、側近の彼はさっきから「この部屋 this room」が小さいとか4万数千円の価値はないとか言っている。オレはそこまで考えてハッとした。オレたちが話している相手は実は側近ではなく大臣ではないのか??オレは途端に弱腰になって、ところであなたはもしかしてあなたはトンガの大臣ご自身ですか?…と尋ねた。憮然とした表情で「Yes, I am.」と応える彼に、オレたち3人は顔を見合わせ、…エ、今まで大臣の側近だと思って話していました、I am sorry と伝え、3人並んでホテルの部屋の床の上に一斉に土下座した。もうこの時点で勝負ありだった。オレもそれまではトンガ王国の大臣とは知らず結構アグレッシブに対応していたこともあり、とつぜん「we humbly plead...」とか「we ask you kindly pay...」とか不必要なまでに丁寧な英語に変わり(笑)、もはや強く出れなくなってしまったのであった。おまけにオレなんかは「このような部屋を割り当てた環境省には我々からもクレームしておきますので…」などとつい大臣の側に立った発言までしてしまう始末であった(笑)。結局オレらは全額を取り立てるのは断念し、側近の部屋と同料金の額だけを払ってもらい、トンガ王国の大臣の部屋を退散した。オレらを見送る大臣は勝ち誇ったような満足そうな笑顔を浮かべているように見えた。部屋のドアが閉まるなり、Marijuanaさんは「あれえー、宿泊先紹介所のカウンターで話した人と同じような顔に見えたんですけど、たしかに側近にしては態度がデカいとは思ったんですよねえ」とか言い出した(笑)。オレ自身、よく確認せず最初から側近に会うものと決め付けて電話をしていたが、考えてみると側近の部屋の宿泊料金は支払い済みなのに、大臣の部屋の料金の取り立てのために側近の部屋に行くというのもヘンな話であった。外国人相手では負けず嫌いのオレとしては結果的に料金の一部を踏み倒されたようでかなり悔しかったが、トンガの大臣の部屋を訪れてMarijuanaさんたちと一緒に土下座をするという一生に一度の貴重な経験が出来たことに、オレは結構満足していた。イケメン課長も2勝無敗とまで言わないまでも、1.25勝0.75敗くらいの今回の勝負の結果にそこそこ納得されていたようであった。ところで後日マリファナさんからは楽天ブログの管理ページに、無償で取り立ての仕事を手伝ったお礼にいつかどこかスペシャル・ツアーへ招待してくれるとの連絡があった。彼のいうスペシャルというと、誰も知らない森の中のキノコの山とか特別な麻の草原といったイメージが浮かんでしまうのはオレの偏見だろうか。しかしそのメッセージには追伸があって、オレが短期記憶能力の劣化が原因で通訳を辞めざるを得ない状況になったら、一緒に養蜂家にならないかという勧誘で結ばれていたのだった。オレはそのツアーが少し楽しみではありながら、引き返せないワンウェイ・トリップになってしまわないかちょっと心配になるのであった。