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劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.31
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カテゴリ:研究会発表
 わたしはそれで、彼ら一人一人に、みんなの前でテクストを演じてもらいます。そして見ていた人たちに、彼/彼女が語ったこと、やったことが理解出来たかをたずねます。このとき、見る人たちはテクストを見てはいけません。
 多くの場合、何をしていたのか伝わっていません。わからないという答えが返ってきます。怒っているとか、悲しんでいるとかは分かった、と言う場合、では何故悲しんでいたのか、何を怒っていたのか、わかったかと尋ねます。たいてい、答えは返ってきません。理解の良い学生なら、これで自分は、自分が思っているようには「演じて」いなかったことに気づきます。

 読解力を養成するには、脚本を繰り返し、じっくりと読むことなのですが、学生たちには難しいでしょう。というのは、彼らの台本の読み方は、台詞を覚えるために読んでいるので、意味や裏にあるその人の思いなどは、無視しているからです。台詞を覚えること、すらすら言えることが演技だと思っていますから、無理もない。そこで短いもの、詩が一番良いですね、それを勉強させます。朔太郎『竹』、中也『サーカス』、光太郎『レモン哀歌』をわたしはよく使います。
まず、読ませます。ちゃんと読まない学生が多いです。自分の頭にある言葉、自分が言いやすい言葉にして読んでしまうからです。『サーカス』であれば、ブランコは「ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん』と揺れるのに、「ゆやーん」と読む学生がよくいます。また、自分が普段口にしない言葉はうまくでてこないので、勝手に言葉を変えてしまう。それも意識をしてではなく、無意識に言葉を読み替えてしまうのです。この学生が、役の人物に溶け込んでゆけないのは当然です。

 大切な事は、暗誦させることです。目で文字を追いかけると頭を使わないで済んでしまうので、覚えて自分の内から言葉が出てくるようにさせます。そして、一つ一つの言葉の意味、指示語は何をさしているか、なぜその言葉を使って、他の言葉を使わなかったのか、それが表しているイメージはどのようなものか、その言葉で作者は何を表現しようとしたのか。言葉で説明させます。言葉を読むのが下手な人は、自分の考えを言葉で表すことも下手です。だから、その訓練をさせます。

 次に台本に進みます。一人台詞を言わせます。上手下手はどうでも良い。見るのは、声が前に出てきているか、観客に向かって発声しているかです。受け止める人がいてこそ、表現活動は成り立ちます。特に演劇は、コミュニケーションがなければ無意味です。それができるようになるまで。つまり声が聞こえるのではなく、内容が聞こえるまで、語らせます。
次に二人台詞を試みさせます。この時、相手の台詞を聞いているか、それを理解しているかを確かめます。それができていなければ、そこには対話は存在しない。二人が独り言を言っているだけです。

 台詞の働きがわかってきたら、台本全部を読ませます。そしてそれぞれの場面、それぞれの台詞について、それが表していること、演技者が表さなければならないことを、考えさせます。優れた演技者はすべからく、演出家の仕事ができなければいけません。すべての役の台詞や動きを理解してこそ、自分の台詞が言え、動くことができるのですから。
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.31 09:00:11



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