演劇科の新入生に(11)
三つのW(What, Whom, Why)が大切です。H(How)はその後です。台詞は、What=何をしゃべるのか、その内容と意味。Whom=誰に向かってしゃべっているのか。その相手。Why=何故その台詞をしゃべらずにいられないのか。この3つのWをおさえなければいけません。逆に言うと、この3つがしっかり解っていれば、演技を考えなくても、台詞は自然にでてきます。しかしほとんどの学生たちはその3つを無視して、ひたすらHow=どのように言うか、ばかりをかんがえています。ですから、間違った演技をして、平気でいます。演技の技巧というものを、根本からはき違えています。思うに、「歌うな、語れ」と言う言葉も、これに関連するのでしょう。どんな風に台詞を言うか、だけしか考えていないと、その台詞は意味や感情を伴う「言葉」ではなく、音高や音色、強弱だけをもった「音楽」になってしまいます。悲しい曲調の歌や、楽しげな曲調の歌を口ずさむだけです。そんなことは誰でもすぐにできます。言葉の意味とは全く関係なく歌えます。メロディは何種類でも作れます。未熟な学生は、同じ言葉をいろんな風に違えて「歌って」、それで自分は演技が巧いと勘違いしています。台詞というのは、その場面で発せられるべくして口にされるのですから、正しい言い方はほぼ一つに決まってくるはずです。それを、どんな風にでも言えるというのは、そのこと自体、間違ったことをしているという証明になります。残念ながら、幾ら言っても、理解してくれませんが。学生がそうする理由は、わかります。台詞において、Whomは解りやすいですが、What, Why については、台本をしっかり理解し、自分で納得できるまで考えないと、正しい答えに行き着かないからです。単に言葉の意味だけなら辞書を引けばすみますが、その言葉がこの場面で持っている意味合い、意義とか、何故そんな言葉を言ったのか、その人物の心理や感情を読み解くことは、なかなかに骨が折れます。普段から読書をほとんどしない、従って読解力を養っていない人には、大変な苦行です。しかも長い時間、ああでもない、こうでもないと考えなくてはなりません。すぐに答えが出てくるものだと信じ込んでいる学生には、とても耐えられないでしょう。この問題への対処法は、ともかく読書をすることでしょう。戯曲を沢山読めると良いのですが、戯曲の出版は多くないという現状ですので、小説で良いですから、古典とか名作と呼ばれる本を沢山に読みましょう。言うまでもありませんが、コミックスを読んでも、読書にはなりません。漫画は一つの表現形式として、意味のあるものですが、それをいくら読んでいても読解力は身につきません。自分で文章を書いてみることも、勉強になります。ただし、未熟で、小劇場系の芝居しか見たことのない学生が芝居を書いた場合、まったく無駄な、意味のない会話文を書き連ねて、日常を写した台詞だと思いこむことが多いです。また、日記にだけ書いてくれた方が良い、変に気取った、薄っぺらな言葉を書き連ねて、詩的な台詞だと喜んだりしています。優れた戯曲や、ベテランの漫才師の台本を読んだら、自分のまずさが解るでしょう。by 神澤和明