ミュージカルの話・続 『ウェストサイドストーリー』(5)
バーンスタインに関する挿話で、『ウェストサイドストーリー』の印税でもう一生食べて行けるから、これからは好きな音楽をやれば良いと言われた(あるいは言った)というのがあります。実際、そうだろうと思います。それほどこの作品は世界中で愛され、繰り返し上演され、演奏されています。前にガーシュインのことで書きましたが、クラシック音楽の作曲家は、尊敬はされますが、お金はそれほどもうかりません。ですからバレエの音楽を書いたり、映画音楽を書いたりしています。音楽のことで、ついでに書きます。今はよく知らないのですが、以前は舞台でヒットしたミュージカルを映画化する際、契約上、一部の曲を使わないということがありました(上映時間の都合がある場合もあったかもしれません)。削除する代わりに新しい曲を書き加えるということもあったようです。映画監督の演出上の考えで、歌のおかれる箇所を変えるということもされます。『ウェストサイドストーリー』の場合も、舞台版と映画版ではいくつか「変更」が見られます。大きなものでは、舞台版ではジェット団とシャーク団が決闘する場面の前に、"Cool" が演じられます。そして闘いの結果、互いのリーダーであるリフとベルナルドが殺され、警察が事件捜査を始めますが、尋問にやって来た警官たちの前で "Ge, Officer Cruke" が歌われます。緊迫感が強い "Cool" が、決闘前の血気にはやる気持ちを鎮める働きをし、警官たちを攪乱するように滑稽な調子の "Ge, Officer Cruke" が歌われるというのは、舞台の流れとしてなかなか良さそうです。緊張を少し緩和して、後にくるさらなる悲劇を盛り上げる効果もあり、わたしはこちらが好きです。しかしこれを逆にした映画の置き方も、音楽的には良い流れだと思います。前半に次々と印象的なナンバーが出るので、後半にもインパクトのあるナンバーが出ることは重要ですし。"America" のナンバーは、映画版では男性と女性の掛け合いになっていますが、舞台版では女性だけが歌います。女性だけだと自分で「ツッコミボケ」するようで、男女の掛け合いになる方が面白いと感じます。五重唱で歌われる "Tonight" では、マリアとトニーがそれぞれで歌うフレーズが異なっていますが、これは大きな違いにはなりません。「シンフォニック・ダンス」として、バレエ音楽として使われたり、「組曲」としてクラシックの演奏会で演奏されたりします。その場合、歌詞はつきませんし、音楽の流れを考えて曲順がミュージカルの場合と変わります。映画で見慣れたからでしょうか、音楽だけを聴いていても、そこに躍動する動きをつい、感じ取ってしまいます。by 神澤和明