今日のBGMはシャンソンにしました。昨日のタンゴに続いてお初の題材ですが、このジャンルであれば何と言っても歌姫エディット・ピアフについて語らない訳にはいきません。
その生涯を描いた映画『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』が一昨年我が国でも公開されたお陰で、若い世代にもピアフの名前が浸透したのではないでしょうか。私はレンタルDVDで観ましたが、ピアフに扮したマリオン・コティヤールの演技が凄絶でした。メイクも体型も歌姫そっくりで鬼気迫る女優魂を感じたものです。その熱意は昨年のアカデミー賞・主演女優賞に結実。実にシモーヌ・シニョレ以来史上2人目、49年振りのフランス人女優の受賞と相成りました。今年で未だ34歳、今後も順調に演技の幅を広げていくことでしょう。
私がピアフの名を知ったのは小学校の頃でしたか、NHKの音楽番組『名曲アルバム』で聴いた「愛の讃歌」が最初でした。今となっては聴衆への迎合過多と言うかピアフ向きの楽曲とは必ずしも思えないのですが、十代後半になって入手したベスト盤レコードに感銘を受けてからは私の愛する世界の歌姫の一人になりましたねえ。本当は2万円近い価格の9枚組CD大全集が欲しいのですが入手機会を逃したままなので、代表曲が網羅された紹介盤(私の所有する2枚組デラックス盤は入手困難?)を時折堪能しては悦に入っています。
1枚物CDの収録曲に絞って紹介すると、圧倒的な包容力が素晴らしい「バラ色の人生」、ブラウンズの英語詩カバーによって全米ナンバー1に輝いた「谷間に三つの鐘が鳴る」、パリの下町の情景が眼前に浮かぶ「街の舞踏会」、殺虫剤カダンエースのCMソング元ネタ「パダン・パダン」、作家ボリス・ヴィアンに絶賛された「道化師万才」、ストリート感覚に秀でた「アコーデオン弾き」、コティヤール主演映画でも効果的に使われた「水に流して」、晩年の絶唱「ミロール」、そして個人的ベスト1「群衆」etc、大歌手兼俳優モーリス・シュヴァリエが見抜いた通り、小手先ではなく全身でシャンソンを歌うピアフの実力に聴き手は思わず脱帽し、喝采するに相違ありません。
ところで「群衆」を聴くたびに、私は名匠マルセル・カルネの大作『天井桟敷の人々』のクライマックスシーンを思い出します。愛し合いながら時代の荒波に翻弄されつつ遂には決別してしまう、場末の女優から伯爵夫人に上り詰めたガランス役のアルレッティ&パントマイム芸人バティストに扮した名優ジャン=ルイ・バローのカップルが絶品でした。バティストの妻子を慮り謝肉祭で溢れ返る群衆の中を毅然として去りゆくガランス、そして愛人を追いかけながらも忽ち群衆に呑み込まれ、やがて掻き消されるバティストの姿。。映画史上に残る名場面でしたねえ。嘗ては識者の選ぶオールタイム・ベスト1映画に何度となく推挙された名作ですので、一見をお勧めします。それでは、ここらでおやすみなさい。