今日7月14日は「パリ祭」ですね。フランス革命の引き金となったバスティーユ襲撃から、実に220年もの歳月が流れたことになります。今頃シャンゼリゼ大通りは賑々しい大パレードの真っ最中だろうなあ。世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」も開催中ですし、イデオロギーの右左を問わずフランス中が最も活気に満ち溢れる季節と言えましょうか。もっとも詩人兼歌手のジョルジュ・ブラッサンスは自作詩「悪い噂」で吐露した通り、パリ祭にも華やかなパレードにも無関心のまま、ベッドでふて寝を決め込んでいたみたいですが。
ところで今日はブラッサンスと同時期に活躍したフランス・シャンソン界の巨人、レオ・フェレの命日でもあります。1993年が没年ですから、日本風に言えば今年が十七回忌に当たりますね。初来日を果たした1987年、偶々観ていたNHK教育テレビのフランス語講座の番組だったと記憶していますが、何とフェレがゲストで出演、ピアノ弾き語りを披露していました。白髪の老人が沈痛な面持ちと迫力ある声で、鍵盤を叩きつけるように呪詛めいた散文詩を吐き出していく姿が何とも印象的でしたねえ。1968年のパリ五月革命に触発されて作られた名曲「犬」だったと思うのですが、自信はありません。何時か再放送される機会があればいいのだけれど。
それからほどなくしてフェレ来日を祝うかのように、大手レコード店の新星堂が立ち上げたオーマガトキ(逢魔が時)レーベルからタイムリーなCDが発売されました。フェレのみならずブラッサンス、ジャック・ブレルを加えたシャンソン界の硬骨漢三人衆の2枚組ベスト盤×3セットという、利益至上主義に毒された大手レコード会社では絶対に実現不可能な、画期的な企画でした。二十歳前後の若造に合計16,800円という金額はかなりの出費であったものの、果たしてそれだけの価値はありました。この三者の個性が余りに強すぎたため、一部を除いては他者の音楽が物足りなく聴こえてしまい、遂にフランスのポピュラー音楽全般については不勉強のまま現在に至ってしまったという、個人的にも忘れ難いセットです。
とりわけフェレの資質は独特でしたねえ。社会のあらゆる権威と欺瞞を否定するアナーキスト(無政府主義者)でありながら、フランスの中世~近代詩、自作詩を叙情的に歌った音楽家でもありました。リュトブフ、ヴィヨン、ボードレール、ヴェルレーヌ、ランボー、果ては生粋の共産主義者アラゴンetc、多数の先達の名詩を取り上げている訳ですが、やっぱりアポリネール作「ミラボー橋」が代表作で傑作でしょう。多くの歌手によって歌い継がれてきた、掛け値なしの名曲ですね。季節外れではありますが、上田敏の名訳でも名高いヴェルレーヌ作「秋の歌」もジャズ・テイストに溢れる佳曲でした。
嘗てはオーマガトキ盤とは殆んど収録曲が重複しない2枚組ベスト盤もエピック・ソニーから発売されていましたが、何れも入手困難の模様です。よって本ブログでは「ミラボー橋」の聴けるオムニバス盤と別編集の2枚組ベスト盤(「秋の歌」は未収録)を挙げておきます。また、フランス詩の歴史を一冊で俯瞰できる青土社発行「フランス詩大系」が、装丁を含めて大変素晴らしい仕事ですので、併せてお勧めしておきます。価格が安くないために、興味を持たれた方は先ず図書館等で一読してみて下さい。それではまた。