追憶-1
真夜中の三朝道。ボクとヒロタカは、赤い手ぬぐいをマフラーにして、愛車のママチャリを快調に飛ばしていた。その素敵な情報がもたらされたのは、今日の午後。放課後の教室だった。隣のクラスのヒロタカが目を輝かして、ボクの教室に飛び込んで来た。「ミキ、知っとるかー・・。」「何をいや。」「三朝に露天風呂あるだらいや、・・・」「おぉ。」「夜中に芸者が入りにくるらしぃーで・・・」目がキラキラしてる。ホントにコイツは子どもだ。「お前、見たいだかいや??」「????、見たないだかいや????。」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」ボク達のママチャリは、ピンク色の期待を乗せて、軽快に夜の街を走って行く。三朝温泉。今も、三朝大橋のたもとに、ちょっと勇気のいる混浴露天風呂がある。湯煙のむこうに川が流れ、時々白鷺が飛来する風情豊かな露天風呂である。でも、この頃には、もうひとつ、あまり観光客がいない露天風呂があった。照明も薄暗く、脱衣場なども粗末であったが、地元の人たちにとっては、ゆったりとくつろげる穴場的露天風呂だった。ボクたちは、湯舟に鼻までつかって、息を殺した。十分、二十分・・・・。ボクたちがゆだりかけた頃、華やいだ声がして芸者さんたちがドヤドヤと現れた。脱衣場は薄暗くてよく見えないが、着物を脱ぐ絹づれの音が聞こえる。ボクはヒロタカの方を見た。顔を真っ赤にして固まっている。無言・・・。姐ぇさんたちは湯舟につかると、真っ白な裸身をゆったりと投げ出した。ボクたちは湯舟の中の暗がりに潜んでいるから、まだ気づかれてはいない。・ ・・・・・・「ミキ、ミキ・・。」ヒロタカがさしせまった声でボクを呼んだ。「なんだいや?」「オレ、もうイケン・・。」「何がイケンだいや?」「たっ・・・たったちゃた・・。」「なっ、なにを言ーよっだいやー!!」しまった!! 気づかれた!!。ボクたちの興奮はピークにたっしていて、もう、赤い手ぬぐい一枚ではどーしようもなくなっていたのだ。つまり、出るに出られぬ・・・・。「出るに出られぬ、湯舟のからす・・・・」小意気なことを言いながら姐ぇさんたちが集まって来た。「かわいー、からすがおんなっじぇっ。」近寄ってきてフワフワの太ももをボクの太ももに押し付ける姐ぇさん。耳もとにふーって息をふきかける姐ぇさん。中には、白い足を伸ばしてボクのチンチをちょんちょんって・・・。恥ずかしいのと湯のぼせで、ボクたちが死にかけた頃・・。「お姐さんたち、お先に。」少し離れてつかっていた芸姑さんが、湯舟からザーッと立ち上がった。白い桃のような放物線が闇にぼんやりと浮かびあがった。16歳。まだお座敷には出ない見習い芸姑。振り返って笑う口元から八重歯がのぞく・・。ボクハ アングリト クチヲアケテ ナガメタ・・・・・。帰りの三朝道は、なんだかほんわりとあたたかく。ボクたちのママチャリはフワフワと軽快に走った。(追憶シリーズは以前、他のプログで書いたものの再掲です。)-----------------------------------------------------------------山陰本線「倉吉」駅から車で15分。天神川を上ると、日本唯一のラジウム温泉「三朝温泉」がある。泣いて別れりゃ サイショ空までエーヨイトヨイトサノサ 曇る曇りゃ三朝がよ ヤレ三朝がよ 雨となるヨー大瀬(おおぜ)ぼうきじゃ サイショ三朝がエーヨイトヨイトサノサ 見えぬ三朝山陰(やまかげ)よ ヤレ山陰よ 山の中ヨー「ハ出雲の帰りにゃ 又おいで寄らずに帰るは 二心(ふたごころ)その時ァ私が 追ってくヨー」三朝湯の神 サイショ二人がエーヨイトヨイトサノサ お好き一人ゃ寝しゃせぬよ ヤレ寝しゃせぬよ 帰しゃせぬヨー三朝河原に サイショ河鹿がエーヨイトヨイトサノサ 鳴くよ恋し恋しやと ヤレ恋しやと 主を呼ぶヨー三朝三朝と サイショ皆様エーヨイトヨイトサノサ いやる恋の懸橋(かけはし)よ ヤレ懸橋よ あればこそヨー「ハ出雲の神様 縁結び寄らなきゃ後から追ってくヨ追っつきゃその時ァ 掻(かっ)ちゃくヨー」なんてね。粋に小唄でも歌いつつ、河原風呂。。。あっ、この露天風呂、混浴ですぜ。姐さん、一緒にいかが??