一度その快感を味わったら、抜け出せない世界。
そんな経験をした事ありますか?
私は、楽団員として初めて演奏会に参加した時に、
思いもかけずその世界にはまり込んでしまいました。
静まり返った会場の中で、コンダクターが指揮棒を上に構え、
私達も息を深くゆっくりと吸いながらそれが振り下ろされる
瞬間をジッと待ちます。
最初の大事な音を他の楽器の音の中に融合させられるか・・・と、
手が汗ばんで来るほどの緊張感。
そして、その緊張の中でも感じる何とも言えない幸せな感覚。
たった数秒間のことなのですが、その感情の高まりを経験してしまうと、
なかなその世界から抜け出せなくなるのです。
演奏の後の拍手ももちろん嬉しく達成感はありますが、
あの演奏前の緊張の中で感じる感覚に比べたら・・・
私ってやっぱりちょっと変でしょうか?
でも、
娘も声楽を習っていた頃
「舞台の真ん中に立つと気持ちが最高に良いわ」とよく言っていましたよ。
その恍惚感は、
ピアノを演奏する時には遂に感じる事ができませんでした・・・
ピアノは自分の意志を持っているかのように、私を弄ぶこともありました。
感情の吐露を必要以上に奏でたり、
私が曲の世界に入り込んで行くのを阻止したり・・・
今思えば、決してチューニングやその時の湿度等
(所謂、ピアノ自体のコンディション)のせいではなく、
私という人間の未熟さが露わになっただけなんですけど。
私は、いつもいつもピアノと格闘している感覚に囚われていましたね。
どうして自由奔放に演奏させてくれないの?と。
それは、小学生の頃から自然と身についてしまった伴奏者としての
演奏法に原因があったのかもしれません。
ピアノを純粋に楽しめるようになったのは、結婚してから地域の
「ママさんコーラス」の伴奏をするようになってからですね。
スキルの上達よりも楽曲自体を楽しもうとするママさん達に囲まれて、
「絶対に間違えてはいけない」というプレッシャーから解放されて、
時にはアドリブで伴奏を付けたりもして。
クラリネットも、そしてピアノも今では応接間のインテリアの一部になって
しまっています。
きっと誰かに触れて欲しいと願っているでしょうね・・・