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April 1, 2024
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カテゴリ:宗教と社会

3 創価学会における次世代育成

龍谷大学社会学部講師  猪瀬 優理

信仰継承、次世代育成のあり方から、教団の維持・存続について考えるためには、伝統宗教および新宗教を合わせたさまざまなタイプの教団の現状と課題について調査する必要があるだろう。都市部と農村部のどちらに信者が多いのか、その歴史の長短など、それぞれの宗教では事情が異なる点もあると考えられる。多くの教団について比較調査を行った結果、少子高齢社会における教団のあり方についても、また世代間の人と人とのつながりのあり方についても、有益な示唆が得られるのではないかと考えられる。

しかし、現状として、筆者がある程度の調査を行っている教団は創価学会のみであるので、ここでは、創価学会を事例として、少子高齢社会における教団の維持と存続にどのような課題があるのかを簡単に論じてみたい(猪瀬2011参照)。

創価学会は1930年に牧口常三郎により日蓮正宗の教員を中心とした在家集団として「創価教育学会」という名称で設立されたのち、戦後、第二代会長となった戸田城聖によって「創価学会」と改名され、より広範な人びとを対象とした宗教集団として拡大した、現在では世界各地に信者を持つ日本でも最大級の新宗教集団である。戸田の死去後、第三代会長となった池田大作により、海外布教も開始され、世界各地に信者を擁している。1991年には、日蓮正宗(宗門)との葛藤が決定的となり、分裂するに至っている。

筆者が調査を開始したのは、1991年以降であるため、宗門との関係が継続していた時代の宗門と創価学会員との関わり方については、インタビュー対象者が語る体験より推察するほかはない。それらの話を総合してみると、宗門との関係が続いている時点では、本山である大石寺への登山が創価学会員にとって聖地巡礼としての意味を持っており、家族で入信している場合には、その信仰の絆を確認することのできる有意義なレジャーともなっていたように思われる。また、大石寺登山は家族で参拝するだけではなく、夏期休暇の時期に青少年を対象とした泊りがけの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現代宗教 2014 151

プログラムが組まれ、信仰を受け継ぐ子ども、若者としての自覚と同世代の信仰の仲間づくりを促す場として用いられてもいた。

筆者が調査地としていた札幌市周辺の創価学会員にとっては、「一生に一度のお伊勢参り」ではないが、大石寺は何度も気軽に行けるところではなく、その信仰を確認する場として非常に重要視されていたようだ。つまり、大石寺は非日常的な宗教的空間であったといえる。これに対し、日常的には地域の寺院で入信の際のご受戒が行われるなど、信仰の表現の場、神聖な場として機能していたことがうかがえる。

子どもたち、若者たちが宗門寺院を訪れる機会があった際には、家族の信じている宗教を寺院空間という形でわかりやすく印象づけられ、信仰を継承する担い手としての自覚を促される側面もあったのではないだろうか。そうだとすると、1991年以降の創価学会の宗教的伝達にはまた別の要素を組み込む必要に迫られたのではないだろうか。

筆者の調査では、宗門との分裂の影響は顕著には読み取れなかったが、創価学会における次世代育成の方針やあり方が時代に応じた変化を遂げていることは明らかになった。

戸田第二代会長が取り仕切っていた「草創期」の創価学会では、信仰心の育て方について特に子どもを特別視するような視点は強くなかったように思われる。この時代には「御本尊様」(南妙法蓮華経のお題目)への素直で従順な信仰が大人にも子どもにも要請されていた。簡単にいえば、功徳-罰論とでもいうべき素朴な信仰である。御本尊様を信じてお題目を唱えていれば功徳があり、御本尊様を信じずにないがしろにすれば罰が当たるといったものである。そのため、子どもが大人の目から見て「子どもらしい純粋さ」で御本尊様を信じ、お題目を唱えている姿を、大人も見習うべきといった論調もみられた。要は、子どもだからといって特別な教化が必要だという認識は希薄だったと推察される。

しかし、草創期も過ぎ、一定の会員数を組織的に管理する必要に迫られてきた池田第三代会長時代に入ると、信者の子どもたちや若者会員に対する組織上の整備が進められた。1960年代半ばには、子どもたちが所属する組織である未来部(少年少女部、中等部、高等部)が設置され、

 

 

 

 

 

 

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また、創価大学を頂点とする創価学会系列の教育機関が順次設立された。

この時代には、創価学会において受け継ぐものとして池田会長(現名誉会長)への尊敬・思慕も重要な項目として挙げられるようになっていくことも大きな変化である。例えば、創価学会の機関紙である『聖教新聞』(1965812日付)の記事をみると、高校生向けの夏期講習会に参加した高等部員たちの様子をつづる記事の中で、参加者が「先生、握手して!」と駆け寄る姿を「あふれる求道心、純粋さ」と記者が表現しているし、別の『聖教新聞』(1965925日付)の記事では、「池田先生をご存知ですか」という問いかけに全員が肯定の答えを述べたことについて、「じつに学会精神にあふれた子供らだ」と感想を述べている。単に「御本尊様」への信仰だけでなく、池田会長をその信仰を教えてくれる「師匠」と認めることまでも受け継ぐべき信仰の一部となったのである。

このように、信者の子どもたちは地域においては未来部として少年少女部、中等部、高等部と順を追って創価学会の組織内部で信仰の成長を段階的に促されることとなった。その中でも、特に信仰継承への意欲が高いと思われる創価学会員の子どもたちは創価学園に進学する。創価学園の関係者の話によれば、寮での生活は別として、創価学園内部では一切の宗教教育は行われないそうである。しかし、創立者教育は行われる。創立者とはすなわち池田名誉会長のことである。創価学園の校舎内、敷地内には、池田名誉会長ゆかりの場所が無数に存在するほか、池田名誉会長の思想などを折に触れて学ぶ機会も少なくないようである。お話を伺った創価学園出身の方の中には、「創価学園の同級生は、先に信仰が入ってしまっていて、仲良くなりにくかった」とか、「自分は信仰熱心ではないので、ノリについていけずに浮いていた」というような表現をする人もおり、「宗教教育」はなくとも、創価学園での学校生活においては創価学会への信仰が影響を与えていたことがうかがえる。

また、『聖教新聞』や月刊機関誌である『大白蓮華』誌上に掲載されている様々な信仰体験談の中では、子どもや孫が信仰を継承して、創価学会活動に励んでいることは一つの功徳であり、一つの理想的な絆の強い

 

 

 

 

 

 

 

 

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幸せな家族像の要件として描かれていることが多い。機関紙(誌)でのこのような体験記事は、信仰継承を幸福の要件としてみる価値観を創価学会員一人ひとりが実際に持っていること、また、持つように組織が促していることを意味している。

つまり、創価学会においては親の信仰を子が受け継ぐことは望ましいこととして捉えられており、親は自分の子どもたちに将来的にも創価学会員として信仰・活動を続けることを願うように組織的にも促されている。信仰を受け継ぐことが望ましいのは、創価学会の教えにおいては、他にも多くの日蓮系宗教がある中で、創価学会における日蓮理解が最も正しく、最も人と国を幸せにすることのできる教えだからである。また、その信仰者を増やすことは重要な使命である。最も正しく、最もこの世の中を善き方向に導くことができる創価学会の教えを信じることは、その前提が正しい限り、論理的には、個人の幸福を約束するものである。その前提を信じる限り、教理的には親心として信仰継承を願うことになる。機関紙(誌)において信仰継承の体験談を掲載することは、この信仰継承を願う親心を強化することにつながるだろう。

現在、筆者は、少しずつではあるが、創価学会員の二世信者(祖父母、親が信者である人びと)のうち、信仰を継承しないことを選択した人びとに対する調査を進めている。創価学会の二世信者の置かれている環境は一様ではない。親や祖父母の信仰の熱心さや他の親戚が創価学会員である割合も異なるし、所属する地域の特色もある。また、信仰継承していないといっても、特に正式に脱会を表明せず名簿上は創価学会員のままである人もいれば、正式に脱会届を提出した人もいる。名簿上のみの学会員の中にも、本音は正式に脱会したいのだが親戚全員が創価学会員であるため親の立場に配慮して脱会届を提出していないという人もいれば、仕事と活動の両立が難しいので活動していないだけで創価学会については肯定的に捉えている人もいる。

多様な状況がある中で、今までの調査に協力してくれた信仰を継承していない二世信者の語りに共通している創価学会活動に関わらなくなった理由として挙げられていることは、青年部など創価学会組織での活動

 

 

 

 

 

 

 

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における幹部からの指導や役職の与えられ方などに関わる問題である。青年部員は仕事や学業などと両立させながら創価学会活動を行うことになるが、この両立は非常に大変である。しかし、青年部活動には信仰上の使命もあるため活動を減らすことは容易ではない。その不足を補うため、幹部が他の部員に負担を感じさせるようなきつい「指導」を行う場合があるようである。勉強や仕事を理由に活動を休みたいとか、大変なので役職を受けたくないという反応を示したときに、「信心が足りない」「覚悟ができてない」といった形で励まされるのだが、これを自分が責められているように感じたという経験を持つ人もいる。

青年部幹部が負担をかけるような「指導」をしてしまう背景には、そもそも青年部の活動的信者の層が薄いという問題がある。近年の雇用状況、経済状況の悪化なども相まって、若年世代の生活には経済的・時間的・精神的余裕がなくなってきているのが創価学会内部においても現状のようだ。そのため、自分自身の余暇時間を割いてまで創価学会活動に参加する二世信者、若年信者を得ることは非常に困難なのである。少子化の影響もあり、今後はますます絶対数も減らしていくだろう。しかし、創価学会における活動量自体には目に見えた減少はないため、数少ない信仰活動を担うことになった活動的信者たちの背にはその責任や業務が重くのしかかることになる。このような苦しい状況が、さらに活動できる可能性があるのに十分に活動していないように見える信者への幹部信者からのきつい当たりとなって表現されてしまっている可能性もあるかもしれない。

組織成員の高齢化によって、組織内部の活動量や活動の質を変化させなければならないことや、とくに後期高齢者に対する特別な配慮を求められるようになることも少子高齢社会に突入した社会に存在する教団にとって必要なことである。しかし、少子高齢社会では、高齢化だけが進行しているのではなく、少子化も進行しており、少子化状況がもたらす人員の変化にも組織的に対応する必要性が出てくるということが確認されなければならない。

実際に組織における信仰に基づいた活動を行っている人びとの日常的

 

 

 

 

 

 

 

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な生活の困難や苦悩を拾い上げることができなければ、教育機関や組織構造を整えたとしても、組織の維持・存続に対する効果は限定的なものになるのではないか。

創価学会では、これらの事態を受けて、これまで青年部が中心的に担ってきた未来部担当、次世代育成担当の業務を、若年層を中心とする青年部の年齢層よりは層が厚く、経済的・時間的・精神的にも余裕を有していると思われる壮年部・婦人部層に重点を置くように多少のシフトを行ったようである。だが、理想としては、青年部の「お兄さん、お姉さん」が身近な信仰者のモデルとして、子どもたちを導いていくことが望ましいと考えられている原則には変わりはないだろう。創価学会全体の状況については、筆者の調査範囲が札幌市周辺に限られているために推測するにとどめるしかないが、全国的にも青年部に期待される活動を維持することが困難な現場も少なくないことが推測される。

創価学会だけでなく、他の宗教集団においても、高齢者対策や日常的な組織活動が優先されて、次世代育成への対策が後手に回ってしまう状況は多いのではないかと思われる。次世代育成対策は、10年先、20年先の長期計画が必要であり、すぐに効果が見えてくるものではないからである。

とはいえ、手をこまねいて見ているだけでは、教団組織に若年層が定着することはなく、次世代の担い手に欠く状況が決定的になるだけである。教団の維持・存続を願う教団組織には、限られた資源を活用して、何を優先するべきかを十分に見極めた組織戦略が求められる。この場合、個人の選択の自由を重視する立場に立てば、対社会的には、二世信者となる人びとの信教の自由を十分に尊重する姿勢が同時に要請されることも非常に重要である。このような配慮があってこそ、信者の子どもたちや若年層、教団外部にも信頼される教団となっていくだろう。

実際に各教団はそれぞれの立場、視点から次世代育成に対して対応策を打ち出している。これらの対策がどのような展開を遂げるのか、それぞれの教団の成果は今後、確認されるべきことである。






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Last updated  April 1, 2024 06:16:28 AM
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