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カテゴリ:社会
水産加工業者の復興を追って 田中 敦子 業績回復には遠い現状が 4月に発表された三陸石巻エリアの水産業各社の震災前と直近の比較には、被災地の水産業が工場再建後も度重なる国難にさらされ、業績回復に至っていない現状が明らかになっています。44社中29社が震災前の売上高を超えられず、多くは震災前の50~60%にとどまっています。 その中経営者は震災後受給したグループ補助金の自己負担の返済という思い荷物も背負っています。12年が過ぎてなお、多くの経営者がこうした厳しい状況にあることは伝えられていないのではないでしょうか。 SORAIでは、東日本大震災の翌月から、被災地域の水産加工業者の復興の取り組みを10年以上にわたって追ってきました。少なくとも10年は撮影を続けなければ、被災地で起きている事実は正しく伝わらないだろう、そう考えていたからです。それは視聴率を優先するメディアにはできないことだと思っていました。 「被災地の水産加工業 経営者たちの戦いの記録」(2014年)では、工場が再建し、稼働するまでを記録しましたが、そこでは受理された補助金申請額に対し、建設資材の高騰から建設費がふくらみ、自己負担分が増大する様子が映し出されています。 さらに14年以降、不慮の都市が続き、魚の競り値が高騰し原料をまた、買えない加工業者も出ました。経営者を悩ませた最大の課題は労働力不足でした。工場には新しい機械も導入されましたが、働き手が不足し、その半分しか動かせないでいました。こうした厳しい現実が「被災地の水産加工業 あの日から5年」(17年)には記録されています。
被災後も度重なる困難に直面 経営者に必要な熱量と精神力
挑戦へつながる記録を撮る 中間や歳暮等の慣習がすたれるなどの社会変化も、水産加工業界をじわじわと苦しめました。さらに新型コロナ感染症の流行拡大は中小企業に決定的な打撃を加えました。また、ウクライナ侵攻によってロシアからの輸入が難しくなり、サケ、イクラなどの加工食品を生産する加工業者を悩ませています。 水産加工業者を襲った困難の多くは、彼らにとって防ぎようのない出来事でした。不漁や感染症の流行、戦争……。こうした困難、社会の変化にどう立ち向かえばよいのか。その挑戦につながる記録として発表した新作DVDが「メディアが伝えなかった復興物語~水産加工業10年の軌跡」です。 さらに、その被災経営者の経験をもとに、今後の災害に対する備えを紹介する事例集と、経営者に必要な姿勢と精神を伝えるインタビュー映像を「東日本大震災に学ぶ~中小企業と防災と復興~」(2枚組)として発表しました。 当初2枚組の予定はありませんでしたが、震災後、陸前タカダと気仙沼でいち早く再建した「株式会社かわむら」の復興にかける姿勢と困難に挑戦する精神は、業績は違っても今を生きる経営者にとって共通の指針になると考え、同社の川村賢壽会長へのインタビューを事例集とは別に1枚にまとめています。
変化とらえた生き残りをかける
日本全体の問題として学ぶ SORAIでは、2017年から川村会長(当時・社長)へのインタビューを始めましたが、その復興に注ぐ熱量は他の経営者とは一線を画するものと感じました。 被災した経営者の多くは、「なぜ復興しようとしたのですか」という問いに、「この仕事しかやってこなかった」「震災前の借金が残っているから」と答えていましたが、川村会長の答えは違いました。「自分はやり切ったと言える人生の完結」のために復興を決めたと答えています。だからこそ、半年で工場を再建し、主力のサケの加工を例年通り10月からスタートし、震災後も顧客への供給を停滞させることはなかったのです。 また、気仙沼鹿折加工協同組合の設立にも取り組んでいます。もともとはライバル同士の経営者ですが、「あのタイミングでなければ一生かかってもできなかった」と会長が語るように、震災後の変化をとらえ、各社が共同し生き残る体制を築きました。組合理事長を務めるなか、大規模冷蔵庫や滅菌海水施設の開設を手掛け、組合の事業収益をもたらす仕組みもつくっています。同組合は生き残るための組合から進化を遂げながら、海外進出、さらには次世代の経営者の育成にも取り組んでいます。 不漁や働き手の不足にどう向き合い、打開の道を探ってきたのか。「困ったところから鹿アイデアは生まれない」という言葉が象徴する川村会長の発言からは、逆境をバネに活路を見いだす姿勢を学ぶこともできます。 感染症の拡大やウクライナ侵攻がもたらす様々な影響で日本全体が被災するなか、復興は東日本大震災の被災地だけの問題ではありません。将来、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震が発生することも予想されています。被災地を襲う困難や復興を阻むさまざまなカベに立ち向かうとき、経営者に必要な熱量や精神力とはどのようなものか、この記録映像を通して伝えていきたいと思います。 ◇ ※DVDの購入方法や上映等についての問い合わせは、(有)ソラワン=電話090(1057)0360、メール(sora2@s3.dion.ne.jp)まで。
たなか・あつこ 1964年、円谷プロダクション創設時のスタッフとして番組制作に参加。69年、フリーに。(株)コスモ・スペース等で各局番組の制作に携わり、2007年、(有)ソラワンを設立。東日本大震災後、被災地の水産加工業者の撮影を続ける。
【社会・文化】聖教新聞2023.5.2 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 6, 2024 04:53:42 AM
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