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July 22, 2024
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カテゴリ:社会

原発事故の避難者

——今も続く高いストレス状態

辻内 琢也

 

震災から12年。福島原発事故は、今も被災者に深い心の傷をもたらしている。市民団体と早稲田大学の調査では、福島県外に避難した人の約4割に心的外傷ストレス障害(PTSD)の可能性があることが明らかになった。同調査とともに、避難者への継続的・実効的支援を求める要望書をまとめた辻内琢也・早稲田大学災害復興医療人類学研究所所長に聞いた。

 

泥沼から抜け出せない状況

2022年に「震災支援ネットワーク埼玉」とともに実施した調査は、事故後10回目に当たるものです。調査では関東を中心に福島県外に避難した5350世帯にアンケート用紙を送付し、516件の回答が寄せられました。

その結果、PTSDの可能性がある高いストレス状態の人が37・0%に及ぶことが分かりました。自己翌年(2012年)からの推移をみると、15年までは減少傾向にあった高いストレス状態の人の割合が、その後、下げ止まり、高い状態が続いていることが分かります。

こうした高いストレス状態のつづく避難者の状況は、例えると、〝抜け出せない泥沼〟にはまっているといえるものでしょう。17年以降、住宅支援が打ち切られ、崖っぷちに立たされながら止まっていた避難者が泥沼に引き込まれてしまっている状況にあると考えられます。

PTSDには災害などの体験が原因で起こる急性ストレス障害に加え、近年、虐待などの体験が原因で起こる慢性ストレス障害の存在が指摘されていますが、原発事故による避難者には、この両方が表れています。これを私は「フクシマ型PTSD」と呼んでいます。そして、15年以上続く高いストレス状態は慢性反復的な体験によるストレス障害と考えられます。また、その主な原因になっているのは、事故後の環境変化や政府の対応であることがアンケートへの回答から推測されます。

 

避難の正統性認めない社会

苦難から未来への希望つくる

 

 

慢性状態の急性増悪

さらに、調査では、PTSDの可能性に優位に影響していた13項目のうち、より強く影響するリスク要因についても分析し、「賠償・補償問題の心配」「現在の失業」「避難者としてのいやな経験」が3代リスク要因になっていることも明らかにしました。

PTSD症状が長期に持続する利用はどこにあるのでしょうか。先行研究からは人為災害の被害者に対する辞遺文な救済が行われず、加害の責任も十分に問われなかったことが背景にあると分析されています。

今回の調査で判明したリスク要因の一つである、「いやな経験」には、賠償金のも音大と関連した悪口や誹謗中傷、からかい等がありますが、こうした経験は自己の責任を曖昧化し、社会が避難の正当性を認めない結果、生じているとみることができるのではないでしょうか。

しかし、事故から10年以上が過ぎ、原発事故は終わったという空気が社会を覆い、避難者は沈黙を強いられているのが現状です。事故当時、小学生だった経験を語る学生は、友人から「まだ事故のことを言っているの」と問われ、事故について語ることの難しさを知らされたといいます。

日本社会には事故以前から戦後の高度経済成長期に企業の発展を優先させ、個人の生活や人生、さらに環境を大切にしてこなかった慢性的な社会構造の病理が深く浸透しています。避難者を取り巻く現在の困難な状況は、こうした社会病理が原発事故を機に急性に悪化した結果とも考えられます。医師で人類学者でもあるポール・ファーマー博士は、こうした社会の現象を「慢性状態の急性増悪」と呼んでいます。

 

 

帰還に関わらず生活支援を

 

 

当事者の語りに光を見出す

原発事故避難者への実効的な支援には、医療的支援、経済的支援とともに、避難者の孤立防止のための支援が早急に必要であると考えています。今回調査で得られた孤独感を示す結果からも、他の事例と比較し原発事故の避難者の孤独感が高いことが分かっています。

孤独防止のための支援には、復興支援員の活動の継続・拡大と多領域協働支援が必要です。復興支援員は国に直轄の「生活」復興支援員として、帰還や批難の継続、移住の選択に関わらず、避難者の生活支援に当たることが大切です。

また、身体的、心理的、経済的困難を抱える避難者に対し、医療者・心理士・社会福祉士・弁護士等による協働支援体制の構築も必要でしょう。当事者である避難者が決定に参画する独立機関によって施策等の検証が行われ、実効的な支援の継続を図っていくことも検討されるべきです。

原発事故被害では、冒頭に述べたように「泥沼から抜け出せない」状況が続いています。しかし、その中からでも、希望の光明を見いだせないか。昨年、12人の研究者とともに刊行した『苦難と希望の人類学』に登場する避難当事者が語る「苦難」から「希望」を探ってみました。そして、そこに私は「次世代に継承していく意志という希望」「若者たちの発言にみる希望」など六つの希望を発見することができました。これらは原発事故被害からの再生、復興へつながる未来への希望であると考えています。

福島原発事故を過去の慈件とするのではなく、いま現実に起きている問題とし捉え、そこから何を学び、どうすれば、誰もが希望を創出できる社会を築いていけるのか。それがいま問われていると考えています。

 

つじうち・たくや 1967年、愛知県生まれ。博士(医学)。ハーバード大学難民トラウマ研究所客員研究院等を経て現職。早稲田大学人間科学学術院教授。専門は医療人類学、文化人類学。著書に『フクシマの医療人類学』(編著)などがある。

 

 

 

【社会・文化】聖教新聞2023.5.16





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Last updated  July 22, 2024 05:15:33 AM
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