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カテゴリ:抜き書き
最大の障害は既成概念 組織のトップリーダーが明確な単一の目的を心底から誇りをもって信じているということは「勝てる組織」をつくる上できわめて重要だが、それだけでは不十分、意あって力不足である。「勝てる組織」のトップリーダーは、自らが信じるその明確な単一な目的を、その組織の構成員にゆるぎなく信じさせなければならない。そして、このいわば「勝てる組織」にもう一つの条件に付いても信長は貴重な示唆を与えている。 つまり、その組織の構成員が、明確な単一の目的をゆるぎなく信じるために最大の障害となるのは、既成の権威であり、常識的な概念である。したがって、「勝てる組織」をつくるには、その妨害となる既成の権威と常識的概念を構成員からいかにして取り除くかが重要な課題になる。織田信長は、それを徹底して行ったがゆえに、信長軍団は「勝てる組織」になったのだ。 既成の権威は既成の常識に従った概念を伴い、この既成概念は、その概念からはみ出す人材を次々に抹殺してしまう。したがって、その組織の目的にとっていかに有能な人材がいても、既成概念の尺度(例えば学歴とか、入社年次とか、これまでの職歴とかいった尺度)によって計ってみて、どこかで振り落とされ、適所に就けないことが多い。 また逆に、その組織の構成員は自分の能力を発揮することよりも、既成概念からはみ出さないことにエネルギーを投入しなければならなくなる。だから、例えば新しいことを考えたり、提案したり、実行したりすることは、その既成概念からはみ出しやすいものだから、そういうことはしないほうがいいし、また、そういうことを提案した人がいても、なるべくそんなことには関わりを持たないほうがいいというムードが広まってしまう。 換言すれば、組織の構成員に明確な単一の目的をゆるぎなく信じさせるということは、その明確で単一の目的以外の既成概念を取り除いてやることと表裏一体だということである。 歴史を読むと、有名な人物が必ず有能な人物とは限らないが、やはり有名な人物が輩出した時代は、有能な人材が輩出した。ということより頭角を現した時代だといっていいだろう。 しかし、ある時代に優秀な人間がたくさん生まれ、他の時代には阿呆ばかり生まれたとは、生物学的にも考えられない。そしてこのような時代は、戦国時代、元禄。幕末などの転換期、時代の変わり目、ある種の乱世、つまり既成概念=既成の権威が崩れつつある時代である場合が多い。 こう言う事実からも「勝てる組織」のリーダーにとって既成概念=既成の権威を取り除いて、新しいことを考えたり、提案したり、実行したりしやすい雰囲気、つまり、有能な人材が頭角を現し、腕を揮いやすいという環境をつくってやることがいかに大事かがよくわかる。 「勝てる組織」をつくるためには、ときには危険を十分承知の上で新しい提案を採用してみせることもしなければならない。たとえ失敗しても、それが既成概念=既成の権威を崩し、明確な単一の目的を浸透させる突破口になる場合も多いからである。 信長の少年時代の奇怪な服装や奇行も、少なくとも結果的にはそれに似た役割を果たした。つまり、それによって信長は廃嫡の危険さえ冒さなければならなかったが、弟やそれに与した家臣を謀殺してそれを乗り切って以降は、信長の既成概念にとらわれない新しい考え方が家臣たちに急速に浸透していったのである。
【歴史からの発想】堺屋太一著/日経ビジネス文庫 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 13, 2024 05:37:40 AM
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