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カテゴリ:社会
障害者辞典を編む 日本障害者協議会藤井克徳代表に聞く
権利条約の成立がきっかけに 新たな人権モデルの展望を
当事者参加の審議に学ぶ ——辞典を製作するきっかけは障害者権利条約の成立(2006年)と日本の批准(14年)だったそうですね。
障害者権利条約の制定に向けた議論は02年7月から国連の特別委員会で議論が始まり、06年8月、歓声と拍手が鳴りやまないなか仮採択されました。(本採択は同年12月)。私は第1回の特別委員会から傍聴してきましたが、そこから二つのことを学びました。 一つは障害者支援の近未来像を具体化する議論に加わることで日本も国際水準へ引き上げていくだろうということ。もう一つは、国際NGOによる発言が毎回行われるなど、当事者参加の審議を目の当たりにしたことでした。 文字通り目から鱗が落ちる様な体験をした私たちは、国内でも障碍者に関する法令が整備され、条約の批准につながるよう、政府にも働きかけてきました。 また、この機を逃さないためにも、障害問題のバックグラウンドを総合的に知ることのできる辞典が必要であると考えるようになっていました。条約の制定、批准の流れの中で、時点の政策を一つの記念事業としたいという思いが固まっていったのです。
——27章で構成された辞典には、大項目から細項目に整理された計328項目が開設されています。
章立ては、障害者権利条約の条文を基盤にしています。権利条約は60箇条で構成され、第1条から第33条までが障害者の社会参加にかかわる内容になっています。辞典もそれを基本に開設し、さらに障害者運動に1賞を割き、国内の活動についても記述しています。 各項目の執筆については、日本障害者協議会の加盟団体を中心に、障害者団体や事業者団体、専門職団体、学界など、各分野で活躍される方々に協力をいただき、広く障害分野をカバーできるものになったと思っています。 昨年、国連の障害者権利委員会による日本政府への第1回総括所見が公表されましたが、こうした新たな動きも意識し、権利条約と総括所見の履行に貢献できるよう、辞典の政策に取り組みました。
共通言語の共有を目的に ——辞典を通し、障害分野への着眼点を磨き、障害問題の本質をくみ取って欲しいと訴えていますね。
障害への差別意識はどこから生まれるのでしょうか。例えば、日本の精神科医療は入院中心で、先進諸国と比べても病床数が多く、在院期間も長くなっています。こうした長期入院が障害者への差別感情を助長していることを知ってほしいと思います。障害者権利委員会の総括所見も「障碍者の精神科病院への非自発的入院」を認める日本国内の法令に懸念を示しています。同じ例は知的障害者の入所施設にも見られます。 さらに、こうした問題の本質には、障害者やハンセン病の患者を不良な人間として、その出征を防止することにした優生保護法やその元になった優性思想があります。 優生保護法は1998年まで存在しました。権利条約の制定に向けた審議では、第2次大戦化実施された忌まわしい歴史の猛省に立った議論も行われています。こうした歴史を学ぶことも大切だと思います。
——日本では障害分野での言葉の解釈が十分に共有されないことも問題ではないでしょうか。
本時点の特長の一つも「共通言語の共有」ということです。 例えばバリアフリーの施策が語られる際、「合理的配慮」という言葉が使われますが、「配慮」というと、恩恵、好意によるものとイメージが強い。しかし、元になった障害者が持つアメリカ人法の「リーズナブル・アコモデーション」の正しい解釈は、他の市民との平等を確保するための調整、工夫ということです。したがって海外では「便宜的措置」や「正当な条件整備」という訳を当てている国もあります。 リハビリテーションやアクシビリティー等の言葉には、本来、人権や平等、自由という意味が込められていますが、こうした理解はまだ十分に浸透していません。
主体性尊重した支援こそ
社会モデルを包含し進化へ ——本辞典には「障害」とともに「人権」という言葉が加えられています。
障害者支援の理解は、障害で失われた機能や能力を問題とし、「障害の克服」を求める〝医学モデル〟から、障害者を取り巻く環境や障壁を問題とし、環境のバリアフリー化を目指す〝社会モデル〟へと移行してきました。こうした医学モデルから社会モデルへの障害理解の転換は、障害者権利条約の下支えになっています。 しかし、障害者支援はそれで解決ではありません。福祉や教育、就労、所得補償など総合的な支援が必要であり、かつ機能障害の種類や程度にも焦点が当てられなければなりません。同時に個人の複雑なニーズも大切になります。 これらに応えていくためには、種会社の主体性を尊重した支援、人権を基本としたモデルが必要になります。権利条約もまた、障害感を進化させながらの荒孔人権モデルを展望していくように思います。本辞典が人権を基盤とした障碍者支援の未来像を展望する一書になることを期待しています。
ふじい・かつのり 1949年、福井県生まれ。養護学級教諭退職後、東京・小平市での共同作業所作り等に参加。社会福祉法人きょうされん理事長、日本障害フォーラム副代表等を兼務。
【社会・文化】聖教新聞2023.9.5 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 17, 2024 06:14:17 AM
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