カテゴリ:小説
ヤフーのトップに「女性についての悩みは尽きません・・」という項目を発見し、うなずき、クリックしていました、「あなたに足りないもうひと味は」。
もうひと味、もうひと味、何なんでしょうね、最近恋歌ばかり聞いて文書いてます。 悩んだらとりあえず文、ですよね♪(分からない感覚w) 最近ほら、占いばっかりで、しかも野球ばっかりで飽きた頃ですよね? ですので今日は小説です。懸案のやつです。 過去の過去の記事を見ればもしかすると見つかるかもしれない(見つけないでくださいw)小説です。まだ途中、と言われれば途中です。 小休止になるかどうか、とにかく今日は小説です。 2つくらいに分かれると思います。どうぞ。 更新の活力です→→人気ブログランキング 宅配便 私はその文章を二度書いたことがあった。一度目は高校生のとき、もう一度は大学生のとき。そのどちらにも私は一人の親友に見せた。無二の親友でその人といて嫌な思いなどしたことがなくて、そうして最初私がその文を見せたとき、彼は賞賛を持って私を褒めてくれた。 「すごいね、これ」 「そうかな、自分はあまり考を持っていないのだけれど」 考えが足りなかった当初。考え始めた現在。私の初めて書いた小説。ただそれだけであるがそれだけ思い入れがあり、私の中の何かが、これを書いてしまうとあるいは終わってしまうのではあるまいか、という不思議な現象を私の心の中で何度も感じた。 「もう一度書こうと思うんだ」 「何を?」 「小説を。宅配便という題の」 その人の文章は私の全てを包んでくれました。私が今まで生きてきた全てを抱きしめてくれ、肯定してくれるかのように私はその人の描く世界をこよなく愛しました。私は宅配人、そうして宅配便をただ決められた通りにただ送る宅配人。毎日決められたことをただ行う作業に私は嫌気がさしていました。平凡がいいとは皆言うけれど、いいえ、私は年々それでは満足できませんで、そんなときにあなたの小説に出会い、全てが、私の今後の行き先が決められたのでした。あなたの作品は2年前の一つの小説で世間に一気に知られるようになりましたが、私はその以前からずっと知っていました。初めてあなたの文に触れたとき、もう十年ほど前でしょうか、私はその頃から、ただあなただけを見つめていました。人気作だけを読んでさもあなたを知ったかのようなそんなにわかものでは御座いません、そんなにわかものはすぐにあなたという存在を忘れてしまうことでしょう。そんなものとは違い、私は、ただ、あなただけを見ています。 あなたの考えることが手に取るように分かります。私は文を書く才などこれっぽっちも持ち合わせていませんで、ただあなたは私の考えることを代弁してくれる人のようで、代弁者のようで、私はとうとう見つけたのです、ずっと待っていました、こんな存在が、今に私の前に訪れやしないかと、私は今まで生きてくる中でずっと待っていました。本当に長い旅路でした、もうあるいは現れることはないと暗に悟っていました、諦めていました、人間というものは欲するときにはその欲望は満たされないものというもので、そうして私は見つけ、もう、手放したくないと誓いました。私の生涯にかけてもあなたの文と心中する覚悟を決めました。それだけあなたの描く世界は素晴らしく、ただあなたの文を読むだけで、自分の仕事などどうでもよくなって、ため息一つ、嗚呼、とつぶやくのです。希有の存在、あなたを褒める言葉はいくらでもありまして形容できないほどなのですが、本当に、私は、あなたを、尊敬しております。あなたは、私の、全てで御座います。 けれど、あなたの中の時間は止まってしまいました。二年前に書いた作品から今に至るまで、あなたは一切の文を発表していません。大ベストセラー作家となったあなたはそれ以降姿を消し、私は世間を恨みました。売れなくてよかった、もっと伸び伸び書いてほしかった。世間はあなたの次の作品に大いなる期待をかけ、そうしてあなたはあるいはそこにプレッシャーを見たかと思うと私はもう、ただ、世間を憎み、狂おしく、せっかく手に入れた希有の存在をどうしてくれるのか、と嘆きました。何も感じることはない、ただあなたが思う世界をそのまま描けばいい、周りの評価など何一つ気にする必要はない、そうしてそんなことであなたの世界が壊れてしまうのならば、私は耐えられない。興醒めも甚だしく、そんな、悲しいあなたを見たくはない。分かっている人は分かっている、万人に評価される世界なんて必要ないでしょう、そんな文なんて、まるで教科書に載るような文章を書いたって、それであなたが満足するならそれもいいかもしれない、いいえ、あなたの文章はそんな文章ではない、お世辞にも褒められた文章ではない。だけれど個性がある、本当に独特な世界であなたにしかない世界があって、それだからこそ私はあなたに全てを託す決意をしたのであって、あなたの世界観を壊すような事態は、私は受け入れたくない、嗚呼、世間などどうでもいいでは御座いませんか。 私は宅配人、名をハイドと申します。宅配便を送ることを仕事にしていますが、あなたは私に大切な宅配便をいつも送ってくれました。 今どうされているでしょうか。お元気でしょうか。 突然のお手紙失礼致しました。私は返事など何一つ期待していません。 返事は次の作品だけで結構で御座います。 それでは。 渋沢ハイド 私は一つの手紙を受け取った。雨の夕暮れ、その手紙を受け取りしかと見た。私という存在、堂島タクという小説家の存在をそのハイドという人は最大級の評価を持って私に相対した。賛辞を受け取った当の私、けれど、私はあなたの思うような人ではない。私は困窮していた。二年前のあのときから一切の物事が受け入れられなくなり、文を書いても書いても途中で息詰まってしまって、文学者失格、そんな判子を押されても何らしょうがない。あなたが私に期待してくれることは結構であるが、私は私であり、そんな世間の期待に応えようという気はさらさらない、ないのだけれど、私の奥底の嫌なものがそれを遮り、そうして私は自分の満足するような思った文が書けなくなった。悔しい、狂おしい、そんな二年であった。 美を追究し始め、欲を手に入れ、それで苦しむことはいかにも人間らしくて儚いものであるのかもしれない。私はその久しぶりに頂いた宅配便に対し、返事を送った。返事は作品で、などと言われたがそんなものは今は持ち合わせていない。短文であるが送る他ない。私を未だに慕ってくれる存在も、あるいは貴重かもしれないのだから。 ハイドさん、お手紙ありがとう御座いました。 二年という年月が経って今なお覚えてくださって、私は少なからず嬉しい気持ちです。 ご心配なさらないでください。少しの充電で御座います。 今にきっと私らしい、少し濁った世界をお目にかけることが出来ると存じます。 今は用意出来ておりませんで、こんな手紙で失礼します。 堂島タク その手紙は私を発狂させ、天に昇る思いでした。私の全てであった、小説家からの手紙。その響きだけで私はもう震え、待っていた年月も一気に吹っ飛ぶのでした。嗚呼、あなたは生きていた、良かった、あるいはもう存在していないのかもしれない、と少しばかり危惧していたのです。蜃気楼の中、存在が見えなくなってしまったあなたは果たしてどうしているのであろうかと不安でした。あなたは私より随分若い存在だけれど、そんな年齢など全く関係なく私を潤す貴重な存在、それには全く変わりは御座いません。 先生、お手紙ありがとう御座いました。 私の一読者のためにわざわざ筆をとっていただいて、それだけで私は胸が詰まる思いです。 お元気そうで何よりです。 先生の作品、何年先でも私は待っております。 自由に書いてください。のびのび先生の描く世界を書いてください。 いつまでも私は待っておりますので。 渋沢ハイド 返事は再び返ってきた。分かってない、何も分かってはいない。やはりこの人もただの世間の荒波と変わらない人ではあるまいか、と悲しく思った。あなたのような熱狂的な読者でさえ私の本当の心は分からない。いや、分かるはずもないのかもしれない、本当に分かるのはやはり私一人。おべっかを使って変な手紙など送らなければ良かった。それで私を偽って困窮するのは何より私なのだから。もう私は文は書かない、書けない。私は欲というものを手に入れてしまった俗者であり、この俗が私の中から消え去らない限り、本当の私は現れない。精神がおかしくなった。気違いになった。二年前、たった一つの作品だけで世間は私を手のひらを返したように評価した、それまでの私の作品などまるで評価することなく。私はそこに人の醜さを見た。あんな文、私の半生をただ書いただけだ。そんなものを評価されたって私はしょうがない。嫌になったのだ。拭いきれないのだ。ただ眠さとだるさだけが後に残った。 あなたは何も分かってやいない。 本当の私は、そんなところにはいない。 本当の私を見て、困窮するのは、あるいはあなたかもしれない。 文を書く気など毛頭ないのですよ。失礼。 堂島タク お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.05.09 17:44:44
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