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細木数子かわら版

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2008.05.09
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カテゴリ:小説
絶望を感じました。悪いことをしたと思い、あるいは私があなたを苦しめたかと思うと悲しくてしょうがありません。始め手紙をもらったとき、あまりの興奮で夜も眠れないくらい浮かれてしまいました。無理も御座いません、ずっとずっと本当に想っていた人なのですから。恋心に近い不思議な気持ちでした。嗚呼、私は表現が足らない、頭が足らない。もっともっと真剣にあなたを考えるべきでした。あるいは私はあなたの作品をこよなく愛していてそれだけであなたを全てわかったつもりでした。現実、そんなことは無理なのですけれども、私は信じたかった。唯一見た最後の光を私はあなたの文の中に見ました。私は決意します。あなたがもし困窮することを忘れ再び文を書けるようになるならば、私は死ぬことも恐れない。死を恐れないことであなたと鬼気迫る想いで対面するくらいであるいは丁度いいのかもしれません。全てを、あなたに捧げます。

本当に失礼しました。
私は何も分かってはいませんでした。
私はあなたの文を見て、それでいい気になっていました。
けれど信じてください、私はその辺の読者とは違う。
あなたこそが私の全てなのです。ついに見つけたものなのです。
あなたのためなら私の命だって差し上げます。
何にだって使ってください。
それであなたが再び文を書ければ私も本望で御座います。
失礼します。 渋沢ハイド


 覚悟を見た。その人は、実は、あるいは、・・。命を捧げる、本当か。半信半疑ではあったが、気になった。いや、それでも単なる戯言で、私に命を捧げることなんか嘘に決まっている。そうやっていつも世間は私をあざ笑うのだ。私は試した。

命を捧げるとはどういったことでしょう。
私のために死ねるというのですか。
あなたはただの一読者でしかない。
だのに本当にあなたは死ねるというのですか。
なんならその覚悟を見せてください。失礼。 堂島タク


お手紙ありがとう御座います。
本当で御座います。私はあなたの文を読んでいくら助かったか分からない。
寿命をいわばあなたによって先延ばされた心地で御座います、
そんなあなたのために惜しむ命などどうして御座いましょうか。
本当で御座います。本当で御座います。
信じてください。最後に一度、もう一度だけ私を信じてください。 渋沢ハイド


私はだいぶ世間にもまれてしまい、精神が病んでいます。
それ故あまり人を信用出来ないものになっていました。
分かりました。
いいでしょう、最後にあなたを信じてみましょう。
あなたは宅配人だそうだから、
何か一つ宅配便を送ってください。
そこであなたの命をも持った覚悟を見せて下さい。
それで私が気に入ったならば、そのときは私も覚悟を見せます。 堂島タク


度々のお返事ありがとう御座います。
分かりました、わたくしめの覚悟、差し上げます。
差し当たって私の命を差し上げます、私の全てを差し上げます。
先生にとって良い宅配便になれば幸いです。
そして約束してください。
気に入った宅配便であったならば、きっと文を書くと約束してください。
それだけで私はもう充分であります。 渋沢ハイド


約束します。必ず約束します。
良いものを期待しております。
それでは。 堂島タク


 違った面持ちで直面しました、今まであなたが書いた全ての作品をあなたの苦しみをもって今一度読み返しました。するとまた違った一面が見えてきました。そしてあなたに対する私の想いはより一層強く熱くなりました。一切のこころは潤いに変わり、手を組んで祈りました。嗚呼、私がようやくあなたのためになる、あなたの一部になる、あなたへ私から宅配便を送ることが出来る、ついにそのときが来たと思うと眠ることなどいよいよもったいなく感じられ、心地は頂点に達し、いてもたってもいられませんでした。その後何度か手紙を交換し、あなたの住んでいる場所を把握し、いいえ、実は何度か行ったことがありました、それはいわば今言うところのストーカーか何かに近いものがありました。けれど私はあなたを苦しめるようなことはしません、そんな世間一般のものではありません。私があなたから潤いをもらったならば今度は私があなたを潤す番、恥ずかしくもそう思うのであります。
 一切の世間はひどく醜く感じられました。そこに一つのあなたの涙を見ました。あなたの住む街に着いてゆっくりとあなたが育ったであろう街を眺めました。あなたの文にあった細かな部分を今一度垣間見て、小さな寂しさ、切なさをこの街をもって知ろうと努めました。あなたの本全てを鞄に詰め込んで、生き甲斐、自分の生きる術を詰め込んで、あなたの人生の重さを身に感じながら歩きました。到底すぐには収まりません。私はあなたのいる街に住みつくことにしました。蓄えはいくらかありましたのである宿舎を借りて、その街の空気、自然を感じ始めました。良いところでした。水はおいしく、空気は澄んでおりました。それでも人の波というものはいくらか私が暮らしていた街と変わらないところがありました。幾分か私のところよりひどいものも感じました。その一つ一つを見て、そうして夜な夜なあなたの文を開いて、紙が擦り切れるほど読み、やがて数日が経ちました。本当はもっといくらでもあなたと共に同じ場所の空気を吸っていたかったのですが長居はあなたを心配さえ、また狼狽させてしまいます。あなたは世間が、俗が信じられないといいましたが、私にも似た思いはあります。けれど必ずそうでないとも言い切れます。きっと正義は存在する、きっと愛や涙は存在する、そのことをあなたに見せる使命が私には御座います。こんな生き生きした気持ちなど生まれてから感じたことなど御座いませんでした。あなたには感謝の念で一杯で御座います。生きることを私に与えてくれた無二の存在で御座います。
「ピンポーン」
私はそうして幾々なる無数の想いを胸にあなたの住む家を訪れました。私はその家の敷居をひどく恐れ多いものに思い相当の間戸惑いました。聖なる私の決意はようやくをもって押す決意に至りました。けれど返事はありませんでした。私はどうすることも出来ずただあなたを待つ他なく、家の門の側に座って待ちました。周りには何もない大らかな自然しかありませんで、人の目など一向に気にする必要もありませんで、私はあなたの本を鞄から取りだし、何度読んだか分からないボロボロになったその本を読み始めました。
 宅配便。本当のところを言うと実はもう持ってきていました。
時は経ちました。あれから私は随分年をとりました。単なる一つの個体でしかなかったその宅配便を今あなたにお見せし差し上げることは到底理解のしがたい得体の知れないものでした。年月は過ぎました。そうして私は二度、あなたにその宅配便を送ろうと思ったことがございます。けれどやはりそれは決してあなたには似つかわしいものではなく私自身、精神が足らなかったのだろうと実感しております。今の立場であなたにそのものを送ることを私は致しません。思い出の宅配便は私の中で大切に持っておきます。そして丁寧に処理をしようと思います。あなたがタクというお名前で、私はハイドというお名前で、そうしてもう一つ掛け合わせると、そこに一つのタクハイビンは成立します。今はただあなただけを待ちます。構いません、例えあなたがもし今家にいるとして私の存在を確認出来たとしてその上で出てこない、居留守を使っていたとしても私は何ら変わりません。今、この場を借りて言うならば私はあなたに以前大変なものを送ろうとしていました。
 小さな物でした。けれど全てを破壊してしまうものでした。爆弾でした。私はあなたに二度、時期は違えどそうして二度、あなたにその爆弾を宅配便として送ろうと思ったことが御座いました。笑ってください、犯罪の域です。そうしてあなたが築いたその家を破壊することで生まれる真のものを私は、それこそを私は真の宅配便としようと考えていました。あるいはあなたにあのような手紙を送ってもし返事が来なければそうして宅配人と称してあなたの元に、私宛てで送ったことでしょう。爆弾など送ってどうする、などと興醒めたことを言ってはいけません、あなたが書くことがないならば私が宅配人としてあなたに最大級の宅配便を送ろうとしたのです。ネタにするといい、そう思ったのです。そうして私が送ったその爆弾をもとに爆発された家をもとに、私をもとに、一切の出来事を衝撃のあまり書いてしまえばよろしかろうと考えたのです。「爆弾」とでもいう小説でいいではありませんか、そうしてその出来上がった小説で再びあなたが輝きを取り戻し、創作意欲が戻るなら、たかが家など爆破されても構わないではありませんか、私はそう考えたのです。我ながら妙な考えを持ったものです。その一切は捨てて、私はあなたを待ちます。今、手元の鞄の中には爆弾はあります。ずっと大事に持っております。時限爆弾とでもいいましょうか、導火線はいくらでも、いついつなるときでもあなたが良かれと思えば発火できます。私は命を覚悟に変え、あなたの今後を案じ、全てを投げ入れる決意です。あなたが望むような宅配便、とあれこれ考えていましたが到底思いつきません。許してください、ならばせめてこのことをあなたに伝えて、私はいくらでも待つ覚悟です。雨の日も風の日も私はもうここを動きません。あなたがお許しなさるまでは私は決してここを動きません。あなたが満足しないならばいつでも私はこの爆弾に発火させる決意であります。腹にかかえ私もろとも無くなったものに変わっても一切構いません。信じて下さい、信じて下さい。私の一切をあなたに捧げます。

 一週間が経った。一ヶ月が経った。そして私は門の前に一つの光った涙を見た。私はそこに一つの神秘なる人間の愛を見た。そのものをゆっくりと持ち上げ小さな棺桶の中に入れて、手を合わせ、合掌をして、覚悟を得た。分かった、君の、あなたの、宅配人の宅配便、しかと受け取った。私はもう一度だけやってみようと決心した、もう一度だけ人を信じてみようと、一人の死をもって覚悟した。
真の聖なる宅配便、正義、愛、涙。空がひどく青く感じた。




 私は「宅配便」という小説をとうとう三度書くことになった。
最初、そして二度目に見せていた無二の親友は今いなかった。見せることが出来なくなっていた。始め高校生のときに書いた文は、ひどく荒れていてちっとも考えの隙間など垣間見ることは出来なかった。それでも無二の親友は絶賛してくれた。こんな気持ちは初めてであった。そして二度目、見せる形は変わったがそのときも親友は絶賛だった。そうして三度目となった今回、私は内容を変えたその宅配便を送ることが出来なくなった。親友は死を持ってこの世からお別れした。私はその悲しみを一生忘れない。もういくら書いても褒めてくれるあの無二の親友は、この世には、いない。
いくら墓前で涙を流しても私の文は届かない。

 昔のような暴れた心は消えた。宅配便の内容も大きく姿を変えた。
あなたはもういないけれど、私はそれでも書き続ける。
正義、愛、涙を持って私は自分の精神の行き着くところの大きな矢印の先を見たいから、あのころのあなたが笑った笑顔が忘れられないから、静かに進んでいく。
私のあなたへの宅配便はこれからも続く。





いかがでしたか?未完です、まだまだですね。
一応当然ですがフィクションです。
何か良いの思いついたら書きます^^
では!





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最終更新日  2008.05.09 18:16:03
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