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細木数子かわら版

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2009.04.11
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カテゴリ:小説
「内々なる」って言葉をよく文章中に書きます、あっこんばんはw

「内々なる覚悟の元に」、まぁ言ってる表現は分かるんですけど実際の所どうなんだろう?
表現だったり言葉使い、比喩、漢字、年を重ねるうちに大変さが増します。
案外そうでもなかったり?・・
yasuoさんのリクエスト、ということで昨日の文章の続きです。
見たくねーよ、ってひとは見なくていいです。では、どうぞ。




店員に聞くと彼女はもう帰ったということだった。あのトイレでの葛藤はやがて自分への葛藤を生んだ。真治はうなだれるように家に帰り、太宰治の本を手に取りトイレに閉じこもった。気がつくと我に返る自分がいた。真治には、恋人がいた、一生を約束したかのような素晴らしい人が。もうその人なしでは生きていけないような心地の中、真治はそれでも幻想の中の高校の頃の彼女を追い求めていた。彼女は彼女でないかもしれない。あれから、高校の頃から随分時間がたって、自分も随分大人になった。体格は自分が思う以上に周りが判断してくれた。もう随分大きくなった。煙草も吸うようになった。お酒も飲むようになった。煙草を吸ったあとはたまに咳きこむ。
それでもあの青春のような高校のときをどうしても忘れられないことを今日の自分の行動が表わしていて、ただ、むしょうにお酒を飲んだ。もうどうなるでないこの世の中が存在しているとして、それでいて、自分は浮ついた心で浮ついた自分を必至に慰める作業を毎日して、煙草を吸い、お酒を飲み、世間をたしなみ、苦しみを思い、悲しみを思い、今の自分の大切な人を思い、それでも幻想を思い、今、自分は、浮ついている。どこの俗世間にも属していない。
真治は悶えていた。
 絵を描くことを決めた自分の一生。もしそれでどうなろうともその波の中を漂うであろうことを決めた「悲愴」の覚悟は切なかった。行き着いた先に見た世界は悲しかった。もっと、もっと、笑いたかった。ただあのときの幻想のような青春時代のように、自分をそこに置いておきたかった。まさか自分がこうなるとは思ってもみなかった。自分がいけないのである。そうして漂うことに自由を見た真治の心の中はひどく黒かった、悲愴。世間は皮肉を問うた。必死に戻そうとする時計をただ真治は拒んだ、未来を自ら清く拒んだ。高校の頃、将来の自分がこうなるとは思いもしなかった。
もっとただ真実を言えば見えていたのかもしれない、その現実を幻想という言葉に置き換えて日々をうまく自分をフォローして、もどかしさだったり、感動だったり、一言一句、彼女の様子だけを覗いていて、わがままを抑えて、自分の内なる葛藤の中を漂ってみせて、もっとうまく見せよう、自分をいい人に見せようと躍起になっていたのかもしれない。彼女は高校2年生のときに出会った。真治にとってそれは衝撃で、クラスのマドンナ、裏のマドンナ、解釈の仕様はいくらでもあったが、とにも一目置かれる存在だった。あれから6、7年、欲を言えばキリがないのであって、そうして真治と彼女の間には決定的な溝が存在していた。
 溝。憶測のうちに話せる範囲では溝。真治と彼女は一度お付き合いをした。彼女の名前を百合といった。好意を寄せていてもなかなか打ち明けることはできず、それでいてただ染まるであろう赤い実を小さくポケットに忍ばせて毎日を、高校生活を送っていた。
 お互いに興味があったらしい。2年生の9月、どちらともなくメールのやりとりが始まった。そしてどちらともなくお付き合いが始まって、真治の、地獄が、始まった。メールの中ではお互い意気投合していた。そしてそれを学校でも持ち込もうとした、が、周りが拒んだ。自分ら二人が付き合っているということを周りがいち早く察知したらしい。そのことがわかると、途端に二人は気を使って話すことができなくなった。自分が思い描いていたことが何もできない、さらに周りの目を気にして、いよいよ友人も去っていた。マドンナだったのだ。彼女は結局はクラスのあこがれの存在でそれを自分なんかが奪ったと思った友人は一応に自分を避けた。そして、噂を広めた。


 本当に付き合ったのかどうかさえ疑わしいほどの時間だった。一か月、この一か月は地獄だった、もう学校をやめようとさえ思った。誰も自分を見てくれないのだ、友人として。唯一数人の友人には事情を説明していたが、それでも傷ついた自分の心は行動を伴わず苦しんでいた、それを周りも理解した、やがて、
二人に、別れが来た。
二人が、高校を無事卒業できるように、まっとうに、高校生として暮らすにはそれしかなかった。最後のほうは、彼女は自分のメールに何も返答してくれなかった。
恋は幻想だとこのとき悟った。そしてこのことが後々まで自分を苦しめた。
しばらくして普段通りの高校生活に戻ったが、それでも彼女のことは少しは考えた。だが、もう、終わったことだと、自分の中にしまうしかなかった。

 彼女が消えたのは高校3年生になる前の春だった。花見をしようということでクラスで集まりがあった。ほぼ全員出席、真治も、彼女も。これが彼女に会う最後になるとは思わなかった。昼間から集まって、花見を始めた。バーベキューと称しての会合に春の日ののどかさだったり、皆の笑顔だったり、そうして、彼女の笑顔だったり。なんだか今日なら今までの自分の過ちすら許されるような気さえした。最初の会合には担任も参加していてあれだったが、場所を変えて、夜桜を囲むようになる頃にはお酒も登場した。
「真治君、買いに行こう」
「何を?」
「何って、あれだよ、お酒」
当然の未成年顔をしていた真治はひるんだ。だが買いに行くメンバーの顔は大人びていた。自分は集団の後ろを歩きながらあるいは見つかったらまずいことになると思った、と、自分よりもさらに後ろに隠れるようにして歩く人一人。
「や、やあ」
「こんにちは」
彼女、百合とはこの日初めてしゃべった。大体がお互いが面と向かってしゃべるなど本当に記憶がないくらいだった。
「さ、寒いね今日」
「うん」
「お酒、大丈夫かな」
「私もそれが心配で」
見とれる美しさだった。彼女は普段の制服とはまた違った印象で、身長だって女の子にしては大きいほうで短い髪が少し茶色がかっていて、ただ、本当に、美しかった。コンビニの電灯がきらびやかに彼女を映した。そのまぶしさにただ、今日は何だか違う心地を感じ、これから始まる希望に胸を高ぶらせた。
「ここで待っておこうか」
「うん」
数人のクラスメイトがずらずらとお酒を籠に入れる間、真治と百合は街灯に照らされ、コンビニの電灯に照らされ、コンビニの外で待つことにした。
再会。このときがとまればよかろう、そう思った。
 彼女に聞きたいことは山ほどあった。そして何より謝りたい気持ちが一番だった。彼女は、そこまで、自分を避けなかった。痛々しい過去となった二人の付き合いはこうして時間をおいてまた再び明るく灯されるような、そんな幻想も起こっていいと、ただ内々なる想いを乗せて、思いたかった。夜の会合は和やかに始まった。明かりに照らされた夜桜も少しばかり寒い3月の風も、お酒の勢いとともに心地よく感じた。進学校であった自分の学校は、恐らくこんな光景は許されるものではない、けれどたまにははめを外したくなる、そんな年頃。中には煙草を吸う女子もいた。いつにもまして化粧の濃い女子。金髪になった男子。本当に進学校だろうかと疑うくらいだった。恐れは表裏一体。
「真治~、お酒が、進んでませんな~」
「おいおい、俺はそんな飲んだことないから」
周りは自分と彼女のいきさつを知っていた。その噂が、そのせいで、別れることを選んだのだから、真治は今もなお腹立たしかったが、時間が経った。彼女の横に行くのは億劫だったが、自然と、二人は近づいた。城が近くにあって、その周辺の公園の一角にいて、各々が走り回ったり、きゃっきゃっとはしゃいでいて、3人。自分と彼女と彼女の友人だけが一緒になった。前を見ると天守閣、石垣のようなところに座って、足をぶらぶらさせながら、思い思いに酒を飲んでいた。真治は話そうと思った。
「ごめん、この前は」
返事が無かった。まずいことを言ったと悟った。
「この前は、あのときは、本当にごめんなさい。それを謝りたくて」
彼女の返事はしばらく返ってこなかった。
 周りが騒いでいたことに嫌気がさした。今行われている会合が何であれ、ただ少し黙ってほしかった。それくらいに周りのうるささはひどかった。青春が過ぎる、今、ここをもって自分の青春が過ぎていくというのに、周りはいつだってお構いなしだ。周りのせいで別れたカップルはとうとう最後まで周りに惑わされてしまうのか、二度と戻れない幻想に真治はもう少しだけ居座っていたかった。これからくるどんな絶望に、どんな希望に、何を思えばいい、何を感じて生きていけばいい、みみっちさがこみあげた。自分、私は、こんな小さな人間だったのか。いやいやそうじゃないでしょうという批判はどうしても跳ね返りそうもなかった。彼女の返事はいつまでたっても返ってこなかった。

 春の風に吹かれて視力の悪かった自分は前がだんだん見えなくなっていった。酔いもきた。なんなら今座っているこの場所からジャンプして、少しでも驚いた顔をさせてやろうかとすら思った。自分の青春はこうして終わる、そう思った。
「なんだあれ」





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最終更新日  2009.04.11 21:35:21
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