皆さんを支えるキャリア理論の概要について
相談職の専門家たちは、それぞれ支援する為に依拠する理論や技術を持っています。キャリアコンサルティングも例外ではありません。今回は「私はどんな技術・理屈によって助けてもらったり、支えてもらえるのだろうか?」と考えたり、不安になる方向けの内容になります。多量なので、興味が無ければ読まなくても問題ありません。【産業心理学】テイラー(1911)『科学的管理論』当時(20世紀初頭まで)のアメリカの経営や労使関係は、いくつかの問題を抱えていました。経営者の側には、経験や習慣などに基づいたその場しのぎ的な「成り行き経営」が一般的であって、統一的で一貫した管理がなされていませんでした。また生産現場では、内部請負制による経営者側の監督不能状態が、非効率な生産や組織的怠業が蔓延するなどの問題を引き起こしていました。つまり、労働者側は賃金や管理面において、経営者側は生産が適正に行われているかという面で、相互に不信感を抱いているような状況でした。テイラーは、管理についての客観的な基準を作る事で、こうした状況を打破して労使協調体制を構築し、その結果として生産性の増強や、労働者の賃金の上昇に繋がって、労使が共存共栄できると考えました。こうして科学的管理法が考え出されました。テイラーの主張した科学的管理法の原理は以下の3要素からなります。1.課業管理2.作業の標準化3.作業管理のために最適な組織形態科学的管理法によって、生産現場に「管理」の概念を確立したのが最大の業績といえます。これが現代の経営管理論や生産管理論の源流の一つになっています。また、内部請負制度・徒弟制度の解体によって「労働力の使用権」が経営者に移行したこと、「計画と執行の分離」が行われたことなど、産業の近代化の基礎となりました。テイラーは経営コンサルタントとして、いくつかの工場で科学的管理法を指導・実践し、生産高増・労働者の賃金増といった成果を残しました。しかし、労働組合が「労働強化や(時間研究による)人権侵害につながる」として反対運動を展開。また、心理学や社会学の見地からの考察が無く、効率の追求を重視するあまりに労働者の人間性を軽視している事などの批判もありました。【組織(職業)心理学(職務満足の理論)】シャイン(1965)(シャインの理論の原点)「キャリア開発の視点の本質は、時の経過に伴う個人と組織の相互作用に焦点があることにある」(Schein,1978)(内的キャリアと外的キャリア)外的キャリア:客観的側面 仕事の内容や実績、組織内での地位内的キャリア:主観的側面 仕事に対する動機や意味づけ、価値観(シャインの外的・内的キャリアのモデル) <外的キャリア> 円錐形の「組織の3次元モデル」=「キャリア・コーン」1垂直方向=職位や職階を上がる(下がる)2水平方向=職能での移動=ジョブ・ローテーション3組織の中心方向=部内者化または中心性<内的キャリア> キャリア・サイクル (9段階)(心理的契約)個人と組織のニーズが調和し、両者の間でできた合意を心理的契約といいます。(キャリア・アンカー)職業上の自己イメージ=キャリア・アンカーといい、次の3つの成分が複合的に組み合わさっています。1.自覚された才能と能力 2.自覚された動機と欲求 3.自覚された態度と価値(キャリアアンカーの種類と特徴)種類:特徴1専門・職能的コンピタンス:得意としている専門分野や職能分野での能力発揮。2全般管理コンピタンス:責任ある地位に立ち、組織の成功に貢献し高い収入を得る。3自律・独立:規則・規範に束縛されない。自分の仕事の標準を優先。4保障・安定:安全で確実、将来を予測でき、ゆったりとした気持ち。5起業家的創造性:新しい事業を起こし、経済的に成功させたい。6奉仕・社会貢献:世の中をもっとよくしたい。7純粋な挑戦:障害を克服、極めて手ごわい相手に勝つ。8生活様式:個人、家族、キャリアのニーズを統合したい。キャリアアンカーは人生経験を積んで洞察を増すにつれて、安定してきます。(キャリア・サバイバル)・職務と役割の戦略的プランニングのツール=「キャリア・サバイバル」(職務と役割の分析と戦略的プランニングのステップ)ステップ1 現在の職務と役割を棚卸するステップ2 環境の変化を識別するステップ3 環境の変化が利害関係者の期待に与える影響を評価するステップ4 職務と役割に対する影響を確認するステップ5 職務要件を見直すステップ6 プランニング・エクササイズの輪を広げる(キャリアサイクルの段階と課題)1.成長・探索・探求:0~21歳 職業を選択するために、自分の価値観を見つけ、能力を開発するための教育を受け、体験を重ねる準備段階にあたる時期。2.仕事の世界へのエントリー:16~25歳 初めて組織に入り、職業に就く時期。組織における仕事の仕方を学びながら、自分の立ち位置・役割を見出そうとする。3.基本訓練:16~25歳 実際に仕事に取組み、困難に直面しながらも乗り越えながら、徐々に組織メンバーとして定着していく。4.キャリア初期:17~30歳 責任のある仕事も徐々に任されるようになる。独立を求める自己と従属させようとする組織の葛藤が生じやすい時期でもある。5.キャリア中期:25歳以降 組織の中で明確な立場を確立していく時期。スペシャリストかジェネラリストかの方向性が決まる重要な時期でもある。6.キャリア中期の危機:35~45歳 仕事を通じて、自分の価値観や能力をより明確に理解する時期。再認識した価値観を重視するか、現状に留まるかの葛藤が生じやすい時期でもある。7.キャリア後期(指導者役or非指導者):40歳~引退 十分な経験を積み、後輩育成など指導者的立場を担う時期。8.衰え及び離脱:40歳~引退 能力のミスマッチや体力・影響力の衰えにより、組織から少しずつ距離を置き、引退の準備を考え始める時期。9.引退 後進に道を譲るため引退をする時期。それに伴う様々な変化を受け入れ、新しい生き方を模索する時期。ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論です。人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方です。1959年にハーズバーグとピッツバーグ心理学研究所が行った調査における分析結果から導き出されました。約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上どんなことによって幸福と感じ、また満足に感じたか」「どんなことによって不幸や不満を感じたか」という質問を行ったところ、人の欲求には二つの種類があり、それぞれ人間の行動に異なった作用を及ぼすことがわかりました。<動機付け要因>仕事の満足に関わるのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など。これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではない。動機付け要因は、マズローの欲求段階説でいうと「自己実現欲求」「自尊欲求」さらに「社会的欲求」の一部に該当する欲求を満たすものとなっています。<衛生要因>仕事の不満足に関わるのは「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」など。これらが不足すると職務不満足を引き起こす。満たしたからといっても満足感につながるわけではない。単に不満足を予防する意味しか持たないとのことです。なお、衛生要因は、マズローの欲求段階説でいうと、「生理的欲求」「安全・安定欲求」と「社会的欲求」の一部の欲求を満たすものとなっています。ハーズバーグの主張は、二つの要因から人の満足・不満足を分析することから、二要因理論と呼ばれます。ハーズバーグの二要因理論は、「フレックスタイム制」や、社員が何種類かの福利厚生施策を自由に組み合わせる「カフェテリア・プラン」など、実際に数々のシステムの誕生に貢献しています。キンズバーグ(1951,72)(当初の理論)1. 職業選択は、一般に10年以上もかかる発達的プロセスである。2. 職業選択のプロセスは非可逆的である。一度ある特定の選択を行うと、後から変更しにくいものである。3. そのプロセスは、個人の欲求とその障害となる現実との妥協をもって終わる。(その後の継続研究による訂正は以下の通りです)1. 職業選択のプロセスは、成人前期で終わるわけではない。労働生涯の全期間を通じて存在しうる。2. 職業選択の非可逆性は、当初考えていたより強いものではない。可逆的でありうる。3. 当初用いた「妥協」という言葉は、「最適化」と置き換える。ドナルド・スーパー(1949,51)(自己概念)そもそも自己概念とは幼少期から様々な経験を通して周囲の人からの自分の評価や周りの反応、その人が所属する社会から影響を受けて形成されていきます。大別すると以下の2つの自己概念があります。1.肯定的自己概念:積極的に行動できる2.否定的自己概念:自尊感情が高く消極的その中でもカウンセリングではキャリアに関する自己概念(職業的自己概念)を正しく理解する必要があります。そしてさらに「職業は自己概念を発達させるためにある」とまで言っています。さらには仕事によってどれだけ自己概念を実現できたかで満足度が変わるとも言っています。(14の命題)1.人のパーソナリティ(価値観、興味、自己概念など)と能力は人それぞれ2.だから人はそれぞれ違う職業に適性を示す3.それぞれの職業も、それぞれ必要なパーソナリティや能力が異なるので、人は自分に合った職業を選べる4.人の職業に対する興味や、それぞれの生活環境や、自己概念は変化するもの 自己概念は社会で学びながら変化して形成されていき青年期後期~晩期にかけて安定していく5.自己概念は成長・探索・確立・維持・解放を繰り返しながら形成されていく6.キャリア・パターンとは到達した職業レベルのこと。 経験や能力、教育レベル、個人に与えられた機会などによって決められる7.どのライフステージでも環境と個体の要求に上手く対処できるかどうかは、 個人のレディネス(どれくらい準備できているか)による8.キャリア成熟は職業的発達の程度を意味する。 社会的観点からは年齢に基づいて期待される課題と実際に起こる課題から定義されて、 心理学的観点からは現在、起こっている課題を解決するのに必要なスキルと今自分が持っているスキルを比べて定義される9.ライフステージの各段階で能力・興味などを成熟されることや自己概念の発達を促進することで発達してい く10.キャリア発達は職業的自己概念を発達させて実現していくプロセスのこと。11.「個人の要因」と「社会の要因」や「自己概念」と「現実」の統合と妥協は、役割を演じてフィードバックを受ける中 で学習していく。12.職業や生活上の満足は個人の能力・欲求・価値・自己概念などを適切に表現する場がどれくらいあるかで決まる。満足感は人が成長して、経験を積んで自分にとってあっていると感じられる仕事、生活に身を置いているかどうかで決まる13.仕事から獲得する満足は自己概念をどれだけ具現化できたかの程度に比例する14.仕事と職業は大抵の人にとってパーソナリティ構成の焦点となる。 しかし仕事が偶発的であったり、仕事がない人もいる また、余暇や家庭といった仕事以外が焦点の中心となる人もいる それは周りの環境・社会的伝統(性別におけるステレオタイプ・人種的民族偏見)がどの役割を重視するのかの重要な決定要因になる (ライフロール)自分が発達していくのと同時に社会においての役割も変化する。それがライフロール。全部で9の役割があります。このライフロールは一人の人が複数演じている場合もあります。そしてキャリアとは人々が生涯において果たす一連の役割とその組み合わせであると定義しました。自分の発達(ライフステージ)と社会においての役割(ライフロール)は同時に進行します。それをまとめたものがライフキャリアレインボーとなる。人は自分の発達と役割を複数こなしながら人生を送ります。 【特性論からのアプローチ「何が向いている?」】パーソンズ(1909)特性因子理論=マッチング理論=ペグの理論の提唱。(3つの要素)1. 自分自身(適性、能力、興味、目標、強み、弱み、そして、それらの原因)についてはっきりと理解すること。(自己理解)2. 仕事に付随する各種の情報(仕事の要件、成功の条件、有利な点、不利な点、報酬、就職の機会、将来性)を得ること。(仕事理解)3. これら2つのグループの関係について「正しい推論(true reasoning)」をすること。(思考投入)、を挙げています。(3つの要素を支援する7段階)1. 個人資料の記述:個人の就業に関する主要な要因を記述する。その際には、職業教育と関係がある課題を忘れずに記述する。2. 自己分析:自己分析はカウンセラーの指導のもと実施する。職業の選択に影響を与えるかもしれない傾向と興味はすべからく記録したほうがよい。3. 選択と意思決定:選択と意思決定は最初の2つの段階においても起きる可能性がある。またカウンセラーは、職業の選択はクライエントによりなされるべきであるということを心に留めなければならない。4. カウンセラーによる分析:カウンセラーは、クライエントの意思決定の結果が、クライエントが探求しているものと整合性がとれているかを分析する。5. 職業についての概観と展望:カウンセラーの支援のもとクライエントの職業に関する概観と展望を支援する。カウンセラーは職業分類や職業、職業訓練の実施場所といった産業の知識に精通しているはずである。6. 推論とアドバイス:この段階では、論理的で明確な推論と結び付けられた態度はとても重要である。7. 選択した職業への適合:カウンセラーは、クライエントが選んだ仕事への適合と、意思決定に関する振り返りを支援する。一般職業適性検査(GATB)やアセスメントツール、学生向けのキャリアガイダンス・オリエンテーションなどにも活用されています。ホランド(1959,73)ホランドはリサーチの中で、「1人の人間と家庭や学校、友人といった環境との関わりが相互に作用し合い、その人間の価値観や世界観の形成に影響する」と考えました。ここでいう「1人の人間」とは持って生まれた遺伝子的な要因により、興味・関心の範囲や方向性、行動の選択をいいます。つまり、周囲が何をどのように褒めるのか、罰するのかによって、興味・関心の方向性が変わる可能性もあるのです。ホランドはここからさらに、特有のパーソナリティが程度の差こそあれ、いくつかのパターンに分類できるとし、個人のパーソナリティを6タイプに分類しました。そして、それぞれのパーソナリティタイプに属する人々は、似たような系統の職業に就いていることから、世の中に存在するあらゆる職業を体系的に整理し、それぞれのパーソナリティタイプを調べれば、適職を選択できると考えたのです。(6つのパーソナリティタイプの特徴)(1)現実的(Realistic):明確で秩序的、組織的な操作や体系化された行動を好む傾向にあります。 ・道具、モノ、機械、動物などを扱うことが好き ・手作業、農作業、機械作業、組み立てや修理などの作業が得意(2)研究的(Investigative):事象の観察、言語的記述、定型的研究、創造的な研究活動を好む傾向にあります。 ・好奇心が強くて、学術的探究が好き ・生物学や物理学、数学や科学、医学関係に興味や関心がある(3)芸術的(Artistic):繊細で感受性が高く、独創的で発想が豊かで自由な活動を好む傾向にあります。 ・言語、美術、音楽、演劇などが好き ・慣例にとらわれず、創造的な才能を活かせる職業に関心がある(4)社会的(Social):社会的活動に熱心で、対人関係を大切にし友好的。コミュニケーション能力が高い傾向があります。 ・人に伝えたり、人に教えたり、人を援助する活動が好き ・教育関係の仕事、カウンセリング、看護、保育など人に接する仕事に関心がある。(5)企業的(Enterprising):リーダーシップをとり、目標達成などのために他者との交渉を伴う活動を好む傾向にあります。 ・リーダーシップ、説得力など人と仕事をする際に必要とされるスキルを伸ばす活動が好き。 ・外交的、精力的で、人の管理、販売、営業などに関する職業に関心がある。 (6)慣習的(Conventional):情報を系統的、秩序的、体系的に扱うために必要な活動を好む傾向にあります。 ・定型的や規則性に従う、反復性の高い仕事が好き。 ・データ処理、管理、ファイリング、情報処理機器の操作などを行う仕事に関心がある。(パーソナリティと適職を教えてくれる「スリーレターコード 」)パーソナリティをより理解するには、その人物が特に得意としていること、興味・関心をもっている上位3つのパーソナリティタイプを最も値が高いものから順に並べていく方法があります。職業にも6つのパーソナリティタイプが当てはまり、職業によっても多様なスリーレターコードの組み合わせが存在する。個人のスリーレターコードと一致したスリーレターコードの職業が、その人に合った職業になるかもしれません。その可能性をキャリアコンサルタント、キャリアカウンセラーと一緒に考えていきます。6つのパーソナリティタイプの関連性しかしながら、スリーレターコードのみに頼って短絡的に職業を決めればよいというものでもありません。6類のパーソナリティタイプを六角形に配置することによってタイプの関連性を探ることができますが、六角形モデルに表される値の分布によっては注意が必要だからです。個人が複合的に持ち合わせているパーソナリティタイプを六角形のモデルと照らし合わせてみて、特定のタイプが高く、その他は低いというような場合は「分化」していると考えられます。また、特定のタイプとその両隣が比較的高く、対角線上のタイプが低い場合は「一貫性」が高いとみてとれます。もし、どの類型にもあまり差が見られないとき、その人はまだパーソナリティの発達段階にあるとも考えられるので、六角形モデルの分布状況に合わせて、学びや余暇の楽しみ方を提案するといった手助けが必要な場合もあります。一方、対角線上にあるタイプが共に高い値を示した場合は「一貫性」が低いとみられ、これまでの活動や経験を見直し、クライエントの興味・関心がどちらに向いているのか、どのように能力を引き出せばよいのかをより深く掘り下げていく必要があるでしょう。【社会的学習理論からのアプローチ「モデルを探そう。どう学習する?」】バンデューラ(1971)学習することで、職業人として必要とされる様々に対して、対応していけるようになるという理論。学習とは刺激と反応の結合であるとするSR説と、ものの見方の変化であるとする認知説が代表的な見方です。クランボルツ(1979,99)計画的偶発性理論はゴールを決めないキャリアの考え方計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)は、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授によって1999年に発表されたキャリア理論です。クランボルツ教授がビジネスパーソンとして成功した人のキャリアを調査したところ、そのターニングポイントの8割が、本人の予想しない偶然の出来事によるものだったそうです。このことをきっかけに、クランボルツ教授は計画的偶発性理論を提唱しました。 急速に経済のグローバル化が進み、IT技術の進歩が目覚ましい中、未来に何が起こるのか予想することは難しくなっています。社会や企業の状況は、個人の意思でコントロールできるものではありません。キャリアに関しても、外的な要因で計画したとおりにいかないことも珍しくないでしょう。そのような時代背景で、「何をしたいかという目的意識に固執すると、目の前に訪れた想定外のチャンスを見逃しかねない」とクランボルツ教授は指摘しました。 これまでのキャリアプランの立て方は、将来の目標を決めて計画を立て、それに向かってキャリアを積み重ねていくというものがほとんどでした。しかし、変化の激しい時代にあって、将来の社会や会社の状況は個人の意思でコントロールできるものではなく、従来のキャリアプランの立て方は効果的とはいえなくなっています。 そこで、あえて明確なゴールを定めず、現在に焦点を置いてキャリアを考える計画的偶発性理論が注目されているのです。 (3つの理論骨子)1. 予期せぬ出来事がキャリアを左右する 2. 偶然の出来事が起きたとき、行動や努力で新たなキャリアにつながる 3. 何か起きるのを待つのではなく、意図的に行動することでチャンスが増える (目標に固執しない)計画的偶発性理論では明確なゴールを定めないとはいえ、目標を立てること自体が否定されているわけではありません。むしろ、目標を立てることは、目指したい方向性を決めることになるため、今後のキャリアを考える上で有効です。興味関心があることのほうが、情報は手に入りやすくなる。 (キャリアアンカー理論と対比される計画的偶発性理論)よく、計画的偶発性理論と対比されるキャリア理論として、組織心理学者のエドガー・シャイン博士が提唱した「キャリアアンカー」があります。キャリアアンカーは、個人がキャリアを選択する際に譲れない価値観であり、自分の適性や理想を踏まえて設定したゴールに向かい、キャリアを積んでいく考え方です。積み重ねた経験によって形成されたキャリアアンカーは、生涯にわたってあまり変わらないとされています。 一見するとまったく別の考え方のように思えますが、キャリアアンカーはライフステージや周囲の環境が変化しても変わらない価値観をもとにキャリアを選択するもの。偶然の出来事が起きたとき、どう対処するのかは個人の価値観によるものですから、計画的偶発性理論とキャリアアンカーは重なる部分もあるでしょう。 (計画的偶発性理論のキーとなる5つの行動特性)計画的偶発性理論では、成功するキャリアを築くために、偶発の出来事が起こるのを待つのではなく、みずから引き起こすべく行動することがポイントとなります。 具体的には、以下の5つの行動特性を持つ人にチャンスが訪れやすいと考えられています。 <計画的偶発性を起こす行動特性> 1. 好奇心(Curiosity):新しいことに興味を持ち続ける 2. 持続性(Persistence):失敗してもあきらめずに努力する 3. 楽観性(Optimism):何事もポジティブに考える 4. 柔軟性(Flexibility):こだわりすぎずに柔軟な姿勢をとる 5. 冒険心(Risk Taking):結果がわからなくても挑戦する 【意思決定論からのアプローチ「どれを選ぶ?」】ジェラット(1969,85)(連続的意思決定プロセス)ジェラットの理論は「連続的意思決定プロセス」と呼ばれ、経済学における投資戦略理論を意思決定に用いた。<意思決定の3段階>第1段階:予測システム…各選択肢がもたらす結果の起こり得る可能性を予測する過程第2段階:価値システム…各選択肢の結果の好ましさを評価する過程第3段階:決定システム…前2つのシステムの結果に基づいた決定基準により、物事を決定する段階以上を通じて、個人が「一貫して」「合理的に」決定するための支援が必要とした。(ジェラットの連続的意思決定プロセス)積極的不確実性1980年代終わりに、教育分野において個性の尊重や、創造性が注目され始め、画一的・直線的なキャリア支援だけではない、柔軟性に富んだガイダンスが要求されてきた。ジェラットも1989年以降、将来に向かって柔軟に意思決定を行おうと、想像力・直感・柔軟性・社会の不確実性などを積極的に意思決定プロセスに取り入れ、「積極的不確実性」を提唱した。・将来は存在しておらず、予測することもできない。・将来は想像され、創造されるべきものである。・合理的戦略は役に立たないのではなく、ただもう有効でないだけである。・今必要なことは、クライエントが変化と曖昧さに対処し、不確実性さと矛盾を受け入れ、思考と選択の非合理・直感的側面を活用できるように支援をする、決定およびカウンセリングの枠組みである。将来への意思決定を行う際、過去のガイダンスが目指していた、ただ合理的・直感的あるいは統合的な戦略だけで行うのではなく、時には曖昧さや矛盾のなかで、主観的で、直感的な戦略を統合させるプロセスを支援することが重要となると言える。ヒルトン(1962)ヒルトンの意思決定モデルは、心理学の認知的不協和理論を応用したものになります。個人が持つ自己概念や希望、期待、職業観等の「前提」と外界からの情報との間に生じた不協和(不一致)の解消が意思決定の過程であるというものである。不協和が生じた際、不協和の検閲によって、個人の「前提」が修正可能であればこれを再検討する方向に進む。しかし前提の修正が不可能であれば、他の職業を検討して、不協和を解消する情報を求めることになる。いずれにせよ、個人が耐えられる状態に不協和が低下するまで、「前提」の再検討や他の選択肢の探索が繰り返される。(意思決定モデルの簡単解釈)意思決定モデルの見方は、自分の希望などの前提と仕事の条件などが不協和(希望に合わない)だった場合、無意識に希望を変更することができるかできないかで、まず選択肢が別れます。希望に合えばOKですが、希望に合わない場合は、前提を再調整して新しい仕事を探すことになります。その結果、希望に近い仕事が見つかったり、また別の可能性が生まれるといった意思決定をしていく過程になります。ティードマンキャリア開発における意思決定には『区別化』、『統合化』の2つの要素があるとしています。1. 区別化:他とは異なる個別の特性2. 統合化:社会からの要求に合わせ適用しようとすること(意思決定プロセス)<予期の4段階>1. 探索 :多くの選択肢を探す2. 結晶化:選択肢を絞り込み、目標を明確化する3. 選択 :絞られた複数の選択肢の中から自分の目標に最も合ったものを選択する4. 明確化:選択肢をより具体化、明確化する<実行の3段階>導入:目標実現のために、行動を始める変革:新しい知識、問題解決方法を身につける統合:目標の実現ブルーム期待理論とは、動機付けのプロセスに着目したモチベーション理論の一つで、1964年にブルームが提唱。1968年には、ポーターとローラーによって期待の変化要因が再定義された上で、ビジネスや教育など様々な場面で活用されています。目標(成果)への道筋が明確化されていることを前提に、目標達成後に何らかの報酬が得られる(結果が報われる)ことの確信があれば、積極的な努力に結びつくという考え方です。報酬には、昇給やボーナスといった金銭的報酬の他、承認や労いなどの心理的報酬も含まれます。ブルームの期待理論では、職務遂行への努力が個人的報酬に結びつくという期待の連鎖と、報酬に対して個人が抱く主観的な価値(誘意性)によって動機付け(行動の方向性)が決まると提唱されています。期待の連鎖を成立させながら、好ましい成果を実現するには次の3つの要素が必要です。1. 魅力ある報酬の設定2. 個人の実力や潜在能力に応じた適切な目標設定3. 職務遂行を円滑に進めるための戦略策定「モチベーション=期待×誘意性×道具性」「道具性」とは、目標達成を達成することで、目指すさらに上の目標を達成する際にどれくらい有用かどうかを示す指標です。ポーターとローラーの期待理論では、ブルームの期待理論に報酬への満足度という指標を加えた上で、次のようにモデル化されました。1. 目標実現への期待値と報酬の価値の大きさにより、行動量と努力量が決まる。2. 能力や資質・役割に応じた努力により、得られる成果や達成感の大きさが決まる。3. 成果や達成度への満足感は、成果に対して正当な報酬であるかの認識度合いに左右される。4. 報酬への満足度が、次の行動(仕事)へのモチベーションに影響する。つまり、高いモチベーションを持って仕事に取り組めば、次の仕事でも良い結果を残して満足いく報酬を得られ【キャリア発達論(キャリア発達的アプローチ)】ホール(1976,2000)ホールは、スーパーのキャリア発達理論に強く影響を受けており、心理的成功こそキャリア発達の最終目標であると考え、次のようにキャリアを定義している。1. (ホールのキャリア定義)2. キャリアとは、成功や失敗を意味するのではなく、早い遅いでもない。3. キャリアは歩んでいる本人によって評価されるものである。4. 主観的なキャリアと客観的なキャリア双方を考慮する必要がある。5. キャリアとはプロセスであり、仕事に関する経験の連続である。プロティアン・キャリア(変幻自在)とは、従来の組織によって形成されるものではなく、組織から与えられるものでもない。個人の嗜好によって柔軟に方向転換されるキャリアであり、キャリアを営む本人が成功と思えるキャリアを自ら柔軟に構築していくことこそがプロティアン・キャリアである。(プロティアンキャリアに必要な2つのメタ・コンピテンシー)アイデンティティエリクソンによって提唱された概念であるが、ホールはアイデンティティを2つの構成要素から成り立つとしている。第一に自分の価値観・興味・能力・計画に気付いている程度。第二に過去と現在と未来の自己概念が統合されている程度である。アダプタビリティアダプタビリティ=適応コンピテンス(①アイデンティティの探索・②反応学習・③統合力)×適応モチベーション としている。(関係性アプローチ)ホールは、キャリア意思決定に関する理論は「マッチングモデル」と「プロセスモデル」の2つに分けられるとし、次の4つ意思決定の理論のなかに「関係性アプローチ」を定義している。1. キャリア意思決定2. 日々の選択3. キャリア上の意思決定は、大きな選択を意味するのではなく、日常の選択を意味する。4. サブ・アイデンティティの選択キャリア役割を獲得するだけでなく、それに付随する自己の側面も選択していくことを意味する。(適切なキャリア選択に必要なものー自尊心)心理的成功は自尊心を高めることになる。自尊心が高ければ自己への気づきが高まり、適切なキャリア選択ができる。(人間関係の影響)ホールの理論では、関係性を重視する関係性アプローチを重んじている。相互依存的な人間関係において、互いに学び合うことでキャリアが発達していくとする考え方。(プロティアン・キャリアを促進させる10のステップ)1. キャリアを有しているのは個人でもあるという認識からスタートする。2. 個人が発達の努力をするための情報やサポートを作り出す。3. キャリア発達は関係的なプロセスであることを認識する。組織やキャリア実務家は、ブローカーとしての役割を果たす。4. キャリア情報、アセスメント技術、キャリア・コーチング、キャリア・コンサルティングを統合する。5. キャリア・サービスや新しいキャリア契約に関して、従業員を十分なコミュニケーションをとる。6. キャリア・プランニングだけでなく、仕事のプランニングを促進させる。7. 人間関係や仕事を通じての学習を促進する。8. キャリアを発達させる仕事や人間関係への介入を促進する。9. 職務に熟達することではなく「学習者としてのアイデンティティ」を重視する。10. 「発達のために自分の周りにある資源」を使うという思考傾向を伸ばす。シュロスバーグ(1984)<シュロスバーグのトランジション理論>シュロスバーグはトランジションを様々な人生上の出来事として捉え、トランジションへの対処方法として4Sシステムを構築しました。トランジション下にある人は、不安や葛藤といった悩みを抱えやすい時期であり、支援の枠組みとして提唱されたのが4Sシステムです。彼女の主要著書である、原書『Overwhelmed(1989年)』(日本版:「選職社会」転機を活かせー2000年)に詳述されています。シュロスバーグは、トランジションは個別性の高いものと考えた。「転機や変化は予測できるものでも、人生途上で誰もが共通して遭遇する出来事でもない。人それぞれがその人独自の転機を経験している」という、「人生上の出来事の視点から見たトランジション」が彼女の唱えたトランジションでした。1. 期待していたことが起きたとき(anticipated transitions)2. 期待していたことが起こらなかったとき(non-event transitions)3. 予期していなかった出来事が起きたとき(unanticipated transitions)これら3つが人のトランジションとなりうる出来事であり、生活状況・人間関係などが別のものに変わるターニングポイントであるとも言えます。トランジションを乗り越えるためにシュロスバーグが唱えたのは、2段階プロセスです。(2段階プロセス)1. 4Sについて検討する(4Sについては後述)2. 行動に移す(トランジションを支援する4つのSとは?)シュロスバーグは、トランジションに直面すると、自分の役割、人間関係、日常生活、自己概念(考え方)の1つもしくは2つ以上変化するとしています。4Sとは、ポイントとなる要素の「Situation (状況)」「Self (自己)」「Support (支援)」「Strategy(戦略)」それぞれの言葉の頭文字をとったものです。ブリッジス(1990)(ブリッジスの3段階プロセス、トランジションを乗り越える方法)ブリッジスはトランジションのプロセスを、トランジションのプロセスを「終焉(何かが終わるとき)」「中立圏(ニュートラル・ゾーン)」「開始(何かが始まるとき)」の3つの段階に分けて考えました。第一段階:終焉(何かが終わるとき)進学、就職、結婚、異動、失業など、これまで慣れ親しんできた環境・人間関係・役割等が変化することにより、混乱や空虚感を感じる時期です。何かが終わるときというのは、自分の意志で終わらせることもあれば、外部環境により終了させられるときとがあります。どちらの場合であっても、これまでいた場所から離れること、或いはこれまで持っていたものから離れることは心理的な痛みなどダメージを伴います。重要なのは「これまでの何かが終わった」ことを、真に受け止めることです。第二段階:中立圏(ニュートラル・ゾーン)内的な再方向づけの時期で、転機をどのように受け入れていくのかという問題に直面し、喪失状態・深刻な空虚感を感じる段階です。このプロセスは長く、進むべき方向がわからず、ただ立ち止まっているような感覚に陥ります。ブリッジスはニュートラル・ゾーンを乗り切るために以下の6つが有効だとしています。1.1人になれる時間と場所を確保する2.記録をつける3.自叙伝を書いてみる4.本当にやりたいことを考えてみる5.自分の死亡記事を書いてみる6.通過儀礼例えば、数日間仕事や家庭を離れ、一人旅に出るなどです。滞在先は静かで落ち着いた場所を選び、自分とじっくり対話できる環境がベター。心の動くままに行動し、感情は押さえ込まず喜怒哀楽を味わいましょう。ブリッジズは「空虚への旅であり、感受性を培うための時間」だとしました。自分自身と向き合い、徹底的に考え悩むことで、第三段階の開始に繋がるとしています。第三段階:開始(何かが始まるとき)中立圏(ニュートラルゾーン)を過ぎると、新たな始まりが待っています。この段階では、内的な抵抗が生まれることもあります。安全で慣れていた環境から離れることへの恐怖心から来るものだと言えます。周囲の反対など外的な抵抗に遭うこともあるでしょう。何かが始まるときは、このような内的・外的両面での抵抗がおきることを理解しておくと、適切な対応ができるでしょう。ニコルソンニコルソンは転機を、4つのサイクルを回りながら螺旋的に上昇していくと考えました。段階 名称 内容第一段階 準備 新しい世界に入る準備段階。昇任しての心構え等第二段階 遭遇 実際にその職場など新たな役職で現実の状況に遭遇する第三段階 適応 徐々に仕事や人間関係などの状況に溶け込み、役職にも順応していく段階第四段階 安定化 役職にも慣れ、落ち着いていく安定化の段階昇進や異動が起こる度に4つのサイクルを繰り返しながら上昇していくイメージが浮かびます。ハンセン(1997)ハンセンは、著書「統合的人生設計(ILP)」において、キャリア概念の中に、家庭における役割から社会における役割まで、人生における役割をすべて盛り込み、新しい概念「ライフキャリア」を提唱した。また人生の役割をキルト(パッチワーク)に喩えた。人生の4つの役割① 労働・Labor ②愛・Love ③学習・Learning ④余暇・Leisure(『統合的ライフ・プランニング』の6つの重要な課題)①グローバルな視点から仕事を探す②人生を意味のある全体の中に織り込む③家族と仕事を結ぶ④多元性と包括性を大切にする⑤個人の転機と組織の変革に共に対処する。⑥精神性、人生の目的、意味を探求する。※文化的感受性を高める8つの挑戦①自己認識を高める ②違いに価値をおく③自分が属していない文化について知識をふやす④文化的に違う人々のキャリア・デベロップメントの阻害要因について知識をふやす⑤他の文化にどっぷりと漬かる機会をみつける⑥異文化交流のスキルを開発する⑦統合へ向けた仕事をする⑧社会変化のために仕事をするレヴィン1890年ー1947年 ドイツ 心理学者 <周辺人・境界人(マージナルマン)>レヴィンは「社会心理学の父」と呼ばれ、リーダーシップスタイル(専制型、民主型、放任型)とその影響の研究、集団での意思決定の研究、場の理論や変革マネジメントの「解凍―変化―再凍結」モデルの考案、「アクション・リサーチ」という研究方式、グループダイナミクスによる訓練方法(特にTグループ)などその業績は多方面にわたる。彼は社会的に不安定な存在として、青年期を児童期と成人期とのあいだにはさまった時期であり、子どもの集団にも大人の集団にも属さない中間の存在であることから「周辺人・境界人」(マージナルマン)と呼びました。Tグループとは、トレーニンググループの略称で、参加者相互の自由なコミュニケーションにより、人間的成長を目指すグループ・アプローチのことを指します。具体的には、 自己理解 他者理解 グループダイナミックス リーダーシップなどに関して深い気づきを得る体験的な学習方法となっています。B=F(P.E)人の行動(B)は、パーソナリティ(P)か環境(E)かのどちらかではなく相互作用として生まれるとし、B=F(P.E)の公式を提唱しました。ピーヴィー <ソシオダイナミック・カウンセリング>1.理論の概要1990年代に入り、構成主義キャリアカウンセリングの研究がサヴィカスを中心に進められている。ピーヴィーのソシオダイナミック・カウンセリングもその1つである。ピーヴィーは、「人は、人生を通して常に改訂されている首尾一貫したライフ・ストーリーを持つべきである」という発達論的アプローチをとる。ピーヴィーのライフ・ストーリーは、スーパーの提唱したライフ・スペースとは異なる概念である。スーパーのライフ・スペースは、個人が置かれている状況的側面に注目した概念であり、社会的な立場や担っている役割を指している。一方、ピーヴィーのライフ・スペースはレヴィンの理論を念頭においている。それは人間と環境が相互作用することで行動が生起する全体的な空間・事態のことである。ピーヴィーは、人間と環境が相互作用するクライエントのライフ・スペースを明らかにするカウンセリング手法として、ソシオダイナミック・カウンセリングを提唱した。2.理論の内容(1)位置づけ伝統的なキャリア理論が、客観的なデータと論理的、合理的なプロセスを強調するのに対して、構成主義アプローチでは個人の主観性と他者や環境との相互作用を重視する立場をとる。人は一人で生きているわけではない。社会システムや家族、同僚といった重要な他者から影響を受ける。(2)対話的傾聴ピーヴィーは、カウンセリングに必要なスキルとして「対話的な傾聴」を提唱している。「対話的な傾聴」の中核的要素は、「心の平安」、「友好関係」、「変容的学習」の3点である。1. 「心の平安」とは、受け入れ可能な状態であり、静まった状態であり、集中した状態であり、敬意の念を持った寛容な状態で、自分自身は空っぽな状態であり、それでいて自分の状態に気が付き、識別できている多次元な状態を持った現象である。2. 「友好的」とは、カウンセラーが傾聴する一義的な目的はクライエントとの信頼関係を構築することであり、問題解決は二の次であることを示す。3. 「変容的学習」とは、これまでに他者から与えられた前提によって成立していた学習者自身の信念や経験を再評価させるプロセスを述べる際に使用される教育理論の用語である。メジローは、「変容的学習(Transformative Learning)とは、当然視されている認識の準拠枠(意味のパースペクティブ、心的傾向、精神)を、もっと包括的なものや特殊なもの、開かれたもの、情緒的に変化可能なもの、省察的なものなどに変えることで、行動の正当性を証明するような信念や意見を形成する学習の過程である」と述べている。サビカス(1997,2005)キャリア構築理論は、サビカスが唱えた理論であり、マッチング理論(特性因子理論)やスーパーのキャリア発達理論などを統合・発展・展開した21世紀のキャリア理論と位置付けられている。(キャリア構築理論の3つの重要概念)② 職業的パーソナリティ② キャリア適合性(アダプタビリティ)③ ライフテーマ(キャリア構築理論の概要)キャリア構築理論に基づくカウンセリングの作業①小さなストーリー(マイクロナラティブ)を通してキャリアを構成②小さなストーリーを大きなストーリー(マクロナラティブ)へ脱構成または再構成③ストーリーの中に次のエピソードを構築ナラティブアイデンティティ・自己について語るストーリー=ナラティブアイデンティティ・ナラティブアイデンティティ⇒「人が青年後期に発達させ始め、人生に意味と目的を提供する内在化され、進化したライフストーリー」(McAdams&Olson,2010)と定義。(マイクロナラティブからマクロナラティブを構成する)・小さなストーリー⇒特定の出来事を客観的に記録・大きなストーリー⇒過去の経験に現時点での主観的な意味を与える(キャリアテーマ)・小さなストーリー(マイクロナラティブ)をマクロナラティブに統合する暗黙のパターンのことをキャリアテーマという。(キャリア構成のためのナラティブキャリアカウンセリング)ナラティブキャリアカウンセリング=3回のセッションで終結する。セッション カウンセラーの役割①キャリアストーリーインタビュー 5つの質問、ストーリーの意味を理解する(1W空ける)②ナラティブアイデンティティを構成 再構成したストーリーを語り、プランを作成(2~4W空ける)④ カウンセリングの締めくくり クライエントが述べた目標が達成できたか確認(キャリアストーリーインタビュー)5つの質問①ロールモデル②いつも見る雑誌・テレビ番組③ お気に入りの本・映画④ お気に入りの格言・モットー⑤ 幼少期の思い出(キャリア構成理論におけるキャリアカウンセラーの役割)役割 内容① ナラティブの再構成 :CLのマイクロナラティブからマクロナラティブを作ること。キャリアテーマを明らかにする。②ナラティブの脱構成 :キャリアチェンジの選択肢を制限するような予測や有害な考えを取り除くこと。③ナラティブの共構成 :キャリアテーマを未来に拡張し、自分自身のストーリーを前進させる手助けをする。システマチックアプローチ職業指導、キャリア・ガイダンスなどキャリアコンサルティングでは 、感情的、認知的、行動的、発達的、構造的アプローチを折衷的・包括的に取り入れてシステマティックに展開します。このシステマティックアプローチは、カナダ雇用移民の「個人雇用カウンセリング-システマティックアプローチ」の執筆を行ったベザンソン(Bezanson)とデコフ(Decoff)によって作られた。システマティック・アプローチの流れ1. カウンセリングの開始 2. 問題の把握3. 目標の設定4. 方策の実行5. 結果の評価6. カウンセリングとケースの終了①カウンセリングの開始温かい雰囲気の中で、クライエントが安心して話のできる信頼関係・ラポール・リレーションつくりを行います。実技では来談者中心療法の基本的態度やマイクロカウンセリング技法のかかわり行動などを用いている段階になります。②問題の把握来談の目的、何が問題なのかという主訴を明確にしていきます。問題にはクライエントの問題とカウンセラーが認識する問題が違う場合があるため、お互いに共有して確認を行います。そこで共有した問題の解決のためにカウンセラーとクライエントが行動する意思を確認する。③目標の設定解決すべき問題を吟味し、最終目標を決定します。プロセスは、まずクライエントに悩みや阻害要因に気付いてもらいます。次に具体的ないくつかの方策を選択し、それを一連の行動ステップに組み立てています。最後に契約を結ぶことによってクライエントのコミットメントを確かにするというものになります。目標の設定は、クライエントが自分の考えを方向付け、最終目標に向かって行動するのを援助する。目標が明確に宣言され、かつ到達可能であるとき人を最も動機付ける。人は目標に近づけば近づくほど努力する。目標設定によって、目標に照らしてカウンセリングの進展を客観的に測定、評価できる。目標設定によって、カウンセリングを計画的、合理的に進めることができる。人間関係の質を高めるなどの抽象的な目標のために、カウンセリングをだらだらと長期間にわたって進める危険を少なくできる。④方策の実行方策の実行は、可能性がある方策をいくつか考え、メリット、デメリットを比較検討して一つを選ぶ。方策実行のプロセスを、クライエントに説明する。方策の内容、目的、原理、プロセス、結果、利点と損失、必要な諸活動などを説明する。クライエントに合うように方策を変更する。方策を実行し、達成するためにカウンセラーとクライエントが「契約」を結ぶ。これは、具体的な行動、すなわち個々の方策を行うことを約束することである。必要があれば、それを文書にした「契約書」を取り交わす。決定、採択された方策をクライエントが自分の責任で実行する。カウンセラーも自分の役割を実行する。方策全体を行ったかどうか。方策の実行全体をチェックする。主な方策には、1. 意志決定2. 学習3. 自己管理があります。意志決定方策カウンセリング・プロセスの中でクライエントは、受動的でなく積極的な役割を果たすことができる。1つを選択することは、他を捨てることである。何を捨てるかは、何を選ぶかと同様に重要である。意思決定には必ず不確実性を伴う。決定されたことは変わることがあるし、完璧性よりは可能性を重視すべきである。意思決定のタイミングは、その内容と同様に重要である。意思決定のプロセス1. 達成すべき目標と、それによってもたらされる利点を確認する。2. 目標に至る行動計画(Action Plan)を検討する。3. その行動をとった場合のメリット、デメリット、必要な経費、実現可能性を検討する。4. 検討するための情報を収集、活用、専門家の意見、技術的援助を求める。5. 最終決定の前に、各選択肢のメリット、デメリットを比較検討する。6. 選択した行動の準備をする。その場合予想される危険や困難性にどう対処するか対策を用意する。学習方策支援する学習には、1. 技能(Skill)2. 行動パターン(Action Pattern)3. 意欲(Needs)の3つのカテゴリーについて学習することが必要になります。クライエントの意欲を高める「意欲」は、目標に向かおうとする意欲のすべてのことになります。結局はクライエントが意欲を持って行動しなければ目標は達成できないことを知らしめること。になります。自己管理クライエントが、カウンセラーにいつまでも依存するのではなく、自分で問題を発見し、目標を定め、方策を選び、それを実行することが「自己管理」になります。自己管理には、1. 自己監視(セルフ・モニタリング)2. 状況の修正3. 行動の学習の3分野があります。1.自己監視「自己監視」とは、クライエントが自分の行動や環境を観察し、問題が起こる頻度、程度、時期、継続する時間などの特徴を記録し、それに基づいて改善計画を立てること、になります。2.状況の修正「状況の修正」とは、クライエントができるだけ望ましい行動を起こせるような環境に自分を置き、望ましくない環境には意識的に自分を置かないようにすることです。もし環境を変えられる見通しや意欲があれば、環境を変えることでもあります。3.行動の学習「行動の学習」とは、新しい行動の学習で、適切な行動ができた段階で、その行動を真に自分のものになるまで繰り返し学習することになります。システィマティックアプローチにおける情報の提供の種類① 決まり切った方法では入手できない情報の提供情報提供の原則は、カウンセラーが情報そのものを提供するよりも、クライエントが情報を得る方法を教えることになります。情報を探し選択し活用するのはクライエント自身なので、カウンセラーはそれを確認することをします。②将来利用できる方法の提供今すぐ利用できる情報そのものよりも、将来的に活用できる情報を提供する場合は、カウンセラーはどうしたら情報を得られるかを提供するようにします。③クライエントのニーズ、期待、予想に反する情報の提供クライエントにとって否定的な情報は、一般にクライエントに受け入れられにくくなっています。⑤結果の評価実行した方策とカウンセリング全体について結果を評価します。評価には、1. クライエントとカウンセラーが、目標に照らして何処まで到達したか。2. クライエントの同意を得て、カウンセリングを終了する。3. カウンセラーは、クライエントの成果を監査(モニタリング)する。4. カウンセラーは、このケースについての結果、手段、スキルの行使などについて、自己及び他人による評価を受ける。上の4つの内容が含まれます。クライエントの成長の評価1. クライエントが成長したと感情で認識するのではなく実際に行動が変わったという事実によるもの。2. 評価するのはカウンセラーや第三者ではなく、クライエント自身である。カウンセラーは、その機会を提供しクライエントの評価に耳を傾けそれを容認する。評価の手順評価のプロセスはビジネスライクにやるのが良いとされます。1. クライエントが、現在どんな状態にいるか決定する。2. カウンセリング終了時に、クライエントは、どんな行動をとったか記録する。3. カウンセリング開始時と終了時の行動を比較する。4. カウンセリング終了時の行動を目標と比較する。5. 目標は達成されたかどうか決定する。6. さらにカウンセリングが必要かどうか決める。7. カウンセリングを終了する。⑥カウンセリングとケースの終了カウンセリングの終了を決定しクライエントに伝えます。成果と変化を相互に確認し、クライエントが了解すればケースを終了。問題があれば再び戻って来れることを告げます。カウンセラーはケース記録を整理しカウンセリングを完結します。 カウンセリングの終了を正式に宣言し、その後も延々とカウンセリング関係を続けない。 学習したことを、将来活用できるかどうか話し合う。 終了してよいか確認し、必要があれば改めてカウンセリングに応ずることを伝える。 ケースを終了する手順(ケース記録、関係書類の保存など)をする。カウンセラーの自己評価システィマティック・アプローチの最終段階は、カウンセラー自身の自分自身の評価になります。自己評価の内容は、具体的な結果:就職した、訓練を受けることになったなど。質的な側面:自信がついた、就職活動をする気力が出たなど。将来への知識、スキル:将来活用できるスキルを身につけたなど。システィマティック・アプローチの各ステップ:各ステップで行うべきことをしたか。その結果はどうかなど。になります。