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カテゴリ:応援歌・激励
「小さき者へ」 有島武郎 お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。然しながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世にいるか、或はいたかという事実は、永久にお前たちに必要なものだと私は思うのだ。お前たちがこの書き物を読んで、私の思想の未熟で頑固なのを嗤う間にも、私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにおかないと私は思っている。だからこの書き物を私はお前たちにあてて書く。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 人生を生きる以上人生に深入りしないものは災いである。 ・・・・・・・・・・・・・・・ お前たちの若々しい力は既に下り坂に向おうとする私などに煩わされていてはならない。斃れた親を喰い尽して力を貯える獅子の子のように、力強く勇ましく私を振り捨てて人生に乗り出して行くがいい。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸に秘めて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。 行け。勇んで。小さき者よ。 もっと詳しく読みたい方はこちらに 有島武郎 日本の小説家。 札幌農学校に進学、新渡戸稲造・内村鑑三の影響を受ける。北海道に縁の深い作家。 志賀直哉や武者小路実篤らとともに同人「白樺」に参加。 代表作に『カインの末裔』『或る女』や、評論『惜みなく愛は奪ふ』がある。 小さき者とは、ご明察どおり有島の3人の子供達。 この前年に母親を失った子供達に向けた手紙である。 普通ならばそれを励ます所なのだろうが、有島は「お前達は不幸だ。人生は既に暗い」 と突きつける。 お前たちは去年一人の、たった一人のママを永久に失ってしまった。お前たちは生れると間もなく、生命に一番大事な養分を奪われてしまったのだ。お前達の人生はそこで既に暗い。 そこを出発点として、逞しく育っていく事を望んだのだろう。 非常に切ない。痛切な心持が伝わってくる。 お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡(くりひろ)げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。 こう言ったパパはその後不倫の末、人妻と心中してしまう。 師匠だった内村鑑三は「この度の有島氏の行為を称えるものが余の知人に居るならば、その者との交流を絶つ」(大意)と言明したという。 まったくだ!バカな事をしたもんだ。 この手紙を書いたときの心情に嘘はないのだろうが、台無しだ。 私は心中などしない。 我が子よ!安心して私を置き去りにして高みに上っていけ! 父よ!・・・・・私もまだまだだな。これから高みに登るゼ! 苦笑 前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。 行け。勇んで。小さき者よ。 もう小さくはないが・・・・ 恐れず、勇んで行こう!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.10.18 21:29:27
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