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カテゴリ:処世術
さあ、おまえは怠惰を捨てねばならぬ。 羽根布団の上に坐り、 錦の掛布団の下に寝て、 名声の得られたためしはない。 名もあげずに生涯を終える者が、 地上に残す己の形見は、 いわば空の煙、水の上の泡だ。 さあ立て、もしおまえの魂が肉体の重みに耐えるなら、 あらゆる戦闘に打ち克てるはずだ、 その魂の力で呼吸困難に打ち克て。 鬼から逃れたというだけでは事は足りぬ。 もっと長い〔煉獄の〕坂を攀じ登らねばならぬ。 私のいう事がわかったら、おまえのためだ、頑張れ ウェルギリウス 『神曲』地獄篇第二十四歌 ダンテ・アリギエーリ 平川祐弘訳 『神曲』(La Divina Commedia:神聖喜劇) 13 - 14世紀イタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリの代表作。 「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3部から成る、韻文による長編叙事詩。 「三位一体」についての神学を文学的に表現していて、聖なる数「3」を基調とした極めて 均整のとれた構成から、しばしばゴシック様式の大聖堂にたとえられる。 イタリア文学最大の古典とされ、世界文学史にも重きをなしている。 あらすじ 暗い森の中に迷い込んだダンテは(正道を失い自堕落な生活に落ちた事の寓意?)、 そこで出会った古代ローマの詩人ウェルギリウスに導かれ、地獄・煉獄・天国と彼岸の国を 遍歴して回る。 ※ウェルギリウスは叙事詩『アエネイス』で既にあの世を旅する情景を描いている。 あの世を描く事についてもダンテの先輩。 この物語のタイトルは直訳すると『神聖喜劇』だが、森鴎外がアンデルセン『即興詩人』 を翻訳した中で用いた『神曲』が一般化している。 天国に無事たどり着く事が、おめでたいお話しだということでダンテ自身は単に 『Commedia』「コンメーディア:喜劇」とつけたようだが、この森鴎外の訳は秀逸。 原題よりはるかにいい! 映画『ランボー』も当初の原題は最高の兵士を意味する「First Blood」だったものが、 邦題が本国アメリカでも受け入れられ、以降シリーズの題名は“RAMBO”に変更されていた。 日本人の考えるタイトルってスゴイ! (タイトルではないが、福澤諭吉が英語を翻訳して作った訳語も素晴らしかった。) ・・・でもビジネス書の邦題は持ち歩くのが恥ずかしいくらいのが沢山あるからな・・・笑 脱線だっせん・・・汗 この言葉の状況は 地獄を旅し、汚職収賄の罪人が落とされている第八の圏谷(たに)第五の濠に付いた2人は、 鬼(悪魔)を道案内とする。(第二十一歌) 途中で鬼が仲間割れし、二匹が死んでしまう。途方に暮れる鬼達を残し立ち去る。(第二十二歌) 怒り狂った鬼どもの追撃をどうにか振り切り第六の濠(偽善者達の地獄)に進む。各地獄で罪人と 話をして歩くのだが、ここで鬼の道案内が嘘だった事が分かる。(第二十三歌) 改めて聞いた正しい道は断崖で、岩角から岩角までやっとの思いで攀じ登り、 頂上に着いたところでヘタリ込んだダンテにウェルギリウスが言った言葉。 鬼から逃れたというだけでは事は足りぬ。とはこの鬼達の追撃をかわした事。 名もあげずに生涯を終える者が、 地上に残す己の形見は、 いわば空の煙、水の上の泡だ。 厳しい!「空の煙」に「水の泡」、二重に儚い。 故郷フィレンツェを追放されたダンテにとって「名をあげる」ことが悲願だったのだろう。 このように名声を追い求める姿もそうなのだが、私の印象は、『神曲』を読む限り、 ダンテという人は、非常に高慢ちきで、自己中心的なイヤなやつにみえる。 (本人も自覚しているらしく、高慢の罪を清めている煉獄でここに自分も来ることになると 恐れている。) 政敵は地獄行き、追放中のダンテに友好的だった恩のある人は天国。 それはフィレンツェの党派争いの敵ばかりではなく教皇であっても容赦ない。 ドンドン地獄に落とされる。 天国にようやく辿り着いてからでさえその糾弾は止まないのだから恐れ入る。 また地獄で悪魔の巣窟となっている城は円屋根のイスラム教寺院。 イスラム教のマホメットなど地獄で滅多切りにされている。 翻訳者の平川祐弘氏も解説で、「世界最高峰の文学とすることが賢明なのだろうか。」 と疑問を呈する程の暴れ様。笑 西洋=世界。キリストが唯一絶対の神。という前提条件で書かれているので仕方ない、 といえばそうなんだろうが・・・。 (とすると、キリスト以前のギリシャ・ローマの神々は邪教の神のはずだが、 ダンテは所々で、この異教の神々を讃えている。これも摩訶不思議。笑) いや、でもやっぱり面白かった。 1回読んだだけなのでよく理解できていないが、何回も読めばより面白そう。 ゴシック建築と呼ばれるだけあって、精緻に組み立てられている。 韻や“3”という聖数に関わる構築だけでなく、 伏線が到る所にあり、読込むほど味が出てくるんだろうなということは分かる。 神曲〔完全版〕を読んだのだが、ギュスターヴ・ドレの版画も雰囲気がありとてもよかった。 さあ、おまえは怠惰を捨てねばならぬ。 羽根布団の上に坐り、 錦の掛布団の下に寝て、 名声の得られたためしはない。 楽して、贅沢していて成功した奴はいない! 精一杯頑張りましょう! 他にもウェルギリウスの教訓があるが、時間についてのモノが多い。 (先の言葉も下記のものも実際の言葉ではなく、神曲の中で ダンテがウェルギリウスをして語らせた言葉。一応念の為・・・) 時はその値を知れば知るほど潰すのが辛い 煉獄篇第三歌 いいか、今日という日はもう二度とないのだぞ! 煉獄篇第十二歌 さあ行こう。私たちに与えられた時間を もっと有効に振り分けて使わねばならぬ 煉獄篇第二十三歌 “ベルトラン・ド・ボルン”(地獄篇第二十八歌)ギュスターヴ・ドレ “ジュデッカ - ルシフェル”(地獄篇第三十三歌)ギュスターヴ・ドレ “鷲”(煉獄篇第九歌)ギュスターヴ・ドレ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.12.18 14:37:20
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