DJK Sports:Chicken in Wonderland #2

March 10, 2010

カテゴリ：DJK Sports

ずっと遠くの方から、こちらへ向かってくるのは、木？きりん？きりんだ。

きりんがこちらを見ながら迫って来るのだ。しかも恐ろしい顔付きで私を睨んでいるようだ。
夜遊びばかりして、ばちが当たったのだ、と一瞬本気でそう思った。

"I'm so sorry..."　謝る理由などある訳がない。がきりんの眼力に硬直し、へなへなと
ストゥールから落ちた。私はこれまでの人生で2度腰を抜かしているが、これが一度目だ。

きりんは私の前で足を止めその手を差し出して、「大丈夫？」　「どうかな・・・」
大丈夫な訳があろうか。きりんの手のひらは私の指先からひじに届きそうな大きさだ。
こんな手を見たのも初めてだ。

きりんは私を起こすと、そのまま過ぎ去って行った。何のお咎めもなくほっと胸を撫で下ろしたが、
あの顔には見覚えがある。夫はもう気付いていた。

「あれ、ボルだよ」

そうだ、そうだそうだ、私に手を差しのべてくれたあのきりんは、当時NBA史上最も背が高いと
言われていた、Philadelphia 76ersのセンタープレイヤー、マヌート・ボル選手だった。

　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　（Click and enjoy 現役時代のボルの勇姿）

他のセンターも大抵が2mを超えていたと思うが、ろくにジャンプもせずにリングに手が届くのは
ボルしかいなかった。それだけで彼は、地元ファンのみならずみんなのヒーローだった。NYとの
試合の時も、ボルにボールを取られたら、さすがに「しかたない」と苦笑いするしかなかったし、
あの長身だ、相手のプレイヤーがティームメイトにボールをパスしても片手でいとも簡単に
ブロックされてしまう。そのあまりに「どうってことない」というしぐさや淡々としたプレイスタイルも
人気だった。更には時折放たれる彼の無神経な？3ポインターがよく決まった。

2m31cmもの長身の人を目の当たりにする機会は、長く生きていてもそうあることではない。
周囲も皆、ゲームなどそっちのけで彼を目で追っていた。

私は、いったんあれがボルだと分かると、もう怖くはなくなったし、彼はとても紳士だった。

そして、つきまくっていたゲームにも関わらず、ボルを見た衝撃があまりに大きかった為か
私達の闘争本能は一気に失せ、そのままテーブルから離れた。

その後もボルは、広いフロアのどこにいてもどんなに遠く離れていても、腰から上が必ず見えた。
その姿は将に、優美に草原を散歩するきりん、いや百獣の、じゃなかったカジノの王の風格だった。

　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　当時一番背の高かった2.31mのボルと、
　　　　　　　　　　　　　一番背の低かった1.61mのマグジィ・ボグス。

そう言えばいつだったか、ボルのワイフがヴェガスのカジノでジャックポットを当て大きなニュースに
なっていた。夫婦でカジノ好きと聞いてはまたまた好きにならずにいられない。ニックスの試合を
応援しに行きながらも、ボルが活躍しているとつい「ボルゥ～！」と叫んでしまったりした。

カジノホテルを出たのは午前7時に近かった。冬時間のNYはまだまだ暗く、普段は、帰路
なるべく眠たくならないように二人して大声で合唱しながら帰ったのだが、その日は勿論、
ボルの話で持ちきりで、睡魔から逃れることができた。こんなところでも彼に助けられた。

やがていつものラジオステイションが、流れる曲にのせてサンライズを告げた。

　　　　 DJK Monday 007.jpg

私達はカジノで遊ぶが、ギャンブルを推奨することは決してない。また、日本にカジノを
建設する話にも実はあまり賛成ではない。何故なら日本は、カジノという厳しい規律を持った
大人の遊び場を上手く発展させて行かれるMatureな環境ではないと思えるのだ。
もっとほかにあるのではなかろうか、世界に誇れる素晴らしい、日本らしさが。
そもそも「日本にカジノを」と言い出したのは、何故？

なんて、週末が来れば結局ゲームフロアで朝を迎えるDJK如きに言われたくはないだろうな。

せっかくDJK Sportsなんてカテゴリィを作ってもこれじゃあな、な話になってしまって、
なんだかボルに申し訳ない。

夜明けのNew York.