DJ Kennedy/life is damn groovy

物静かなその店の主人は、友人と私を大きくて重厚感のある木のテーブルに案内してくれた。
少し暗い店内はとても落ち着いた雰囲気で、私は背中にぴったりと合う心地良い椅子に座ると
すっかりこの店が気に入った。彼女もゆっくりと辺りを見回して楽しんでいるようだった。



細長いかたちで、窓際に座る私達から見ると奥の方はソファのあるテーブル、ガラスの壁で
仕切られたもう一方の部屋は濃茶の木のチェアで、全てが店主の好きなものでできているのを
容易に感じ取ることができた。特別な価値のあるものはなくても、どれも店主と相性の良い、
シックで決して客を急がせない優しさを持っていた。



彼女はモカを、私は喉が渇いていたので、飲みやすい、バランスの良いものを店主に尋ねると
ブルーマウンテンが良いでしょう、と勧めてくれた。最近はインドネシアのママサ・トラジャが
私のナンバー1でずっと飲んでいたから、久し振りのブルーマウンテンは楽しみになった。



それからコーヒーを待つ少しの時間、私達はとても穏やかに会話を楽しむことができた。
カフェのムードはとても大切だ。私は人生の半分以上をアメリカで過ごしてきたが、実は本来
賑やかなカフェやレストラントはあまり好きではなく、音楽も、人の声も低い空間で本や映画の
話をすることができるこの店と、そして今日にぴったりなこの友人に感謝。



やがて運ばれてきたコーヒー。でもそのアロマよりも何よりも、2客の、全く違った美しい
コーヒーカップに目を奪われた。予期せぬサプライズは、いつでも大歓迎だ。





　　　　　　　　　マカオグリーン　　　　　　　　　　　　　　　　　　アーモンドの木。
　




華やかな彼女にはヘレンドの「マカオグリーン」を、私にはマイセンの「アーモンドの木」を
選んでくれた。彼女も私もとても嬉しかった。「熱いうちにどうぞ」と勧めてくれる店主の声に
耳を傾けてはいるものの、とにかくこの演出に彼女も私も興奮していた。と、ガラスの壁の
向こうから、時折店主と短い会話を続けていた常連らしき、ゴールデン・リトリーバーを
連れた年配の女性が私達に話し掛けてくれた。犬もトロンとした目でこちらを見ている。



「ここはね、お客さんの様子を見てその人に合ったカップでコーヒーを出してくださるんですよ」



なるほど、華やかな美しさを持つ彼女には、エキゾティックな「マカオグリーン」がぴったりだ。
そして、私にはどんな理由で「アーモンドの木」を？答えを知りたくてたまらなかったが、
手品師に「もう1回その手品を見せて」とせがむような気分で恥ずかしく、お礼だけを言った。
ふむふむ、彼はあのカップと私をどう結び付けてくれたのだろう。今も気になっている。



コーヒーも、勿論とても美味しかった。丁寧に淹れてくれたに違いない。そして、これが今の
私にぴったりなカップなのかと考えながら頂くと、尚更味わいが深くなる気がした。実に単純。
この時の全てが、特別な出来事でもないのに完璧に思えた。私は刺激が好きだけど、こんな
午後こそが幸せ、なんだろうな。コーヒーを飲み干すまでが楽しいなんて、初めてだった。



言葉少なに優しい目で客を見つめ、その人に合った、その人の為の時間を大切に作ってくれた
あの店主が持つ、仕事と人に対する愛情、プロ魂に触れることができたことをとても幸運に思う。
今日、私はチャコールのワンピースに革でできた大きな花のブローチを身に着けていた。次に
行く時は何を着よう。身なりが違うと、カップも変わるだろうか。



でも当分は行かない。手品見たさにお小遣いを握り締めて小屋の前に立っている子供のようで
やはり恥ずかしいからだ。本当は、明日にだって行きたいけれど。がまん、がまん。






静かに過ごせる時間には、tenderな音。

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