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テーマ:幸せの法則について(433)
カテゴリ:Homesick
チームが解散すると、わりとパッタリお互いの音信が途絶えた。当時のチームメイトでその後も親しくしていたのはショートを守っていたEricひとり、彼自身よりも、私は彼の奥さんと仲良くしており、変わらず行き来があった。彼女はお料理がとても上手で、ディナーに呼ばれると、当時の話が終わらずに、結局泊めてもらうこともしばしばだった。 そうしてメンバー全員が30代に突入すると、人生も大きく変わるのだった。パタパタと結婚する人達が増える中、やはりトムだけはマイペースで、大きなマラソンに参加したりトライアスロンの大会に出場したりと、実はあまり変わり映えしていないようにも感じられていた。でもそれがトムなのであって、かえって周囲はそんな彼の近況を知るたび実家にでも帰ったかのような安堵感を得た。今でもそうだが、トムという人は時折ひょっこり顔を出す親戚のおじさんのような気楽な存在感で私達の意識の中にいつもいてくれるのだった。 1年が過ぎた。 2月のある日、Ericの妻Karenから電話。「先週トムが亡くなったの」 彼女の声のトーンから、嬉しいニュースではないことくらい話を聞く前から察しがついたが、誰よりも元気で、誰よりも健康に気をつけていたトムがどうして?悲しい出来事から一番遠くで暢気に生きていたはずのトムがまだ30代で、どうして?Karenの落ち着いた声にかろうじて私は取り乱さずにいられそうだったが、あまりに衝撃的な事実とそれを把握できない不安に頭の中が混乱した。 急性骨髄性白血病、故に闘病期間などないに近く、家族は誰ひとりとして看取ることができなかったのだとKarenが言っていた。胸が痛かった。どうしてこんなに若い、良い人の素晴らしい人生を神様は、無理やりのように終えてしまうのか。まだまだしたかったことがあったろう。夢の多い人だったのだから。家族だって欲しかっただろう。すると。 「でもね、トムには最近恋人ができて、最期も彼女が看取ってくれたらしいよ」 それを知った時、もうこの世にはいない、たったひとりで旅立って行ってしまったトムに、Karenと私は今更だけど「おめでとう」と言った。ずっと願っていた恋人ができて、きっと最後は幸せだったんじゃないかしらね、それならよかったね、って言ってあげた方が彼はきっと喜ぶよね、そう話したのだった。 それから半年も経ってから、トムの恋人と会う機会に恵まれた。そこで改めて、彼の大きな人間性と、幸せな人の生き様を思い知らされる。 トムは、病気が発症したと分かったその日のうちに、彼女に「誰にも話さないように。君だけは、申し訳ないけど最後まで一緒にいて欲しい」とお願いしたのだと言う。病気の進行が速く治療の効果もないことをトムは落ち着いて受け止め、大切な人達を驚かせてはいけない、悲しむ顔を見たくないと彼女に話したのだと。きっと、いつでも爽やかに笑っているオプティミスティックな自分の印象をいつまでも残したかったのではないだろうか。その潔さは、彼のように本当の幸せを知っている人、お金で手に入るなんていう安っぽい豊かさでなく、自分の人生に責任を持ち、人を不安にさせず、決して押しつけがましくなくさりげない思い遣りで大切な人達を見つめ、その人達の幸福を心から願うことのできる彼のような人でなければ身につかない。そして、死の恐怖と闘う彼の一番近くに愛する人がいてくれたことも、彼のような人だからこそ与えられた幸運だったに違いなかった。 その後旧メンバーが集まって、トムの優しさにどう感謝すれば良いか何度も何度も話し合い、その中の殆どが骨髄バンクに登録した。ドナー証明を見せてくれた時、彼等が天を見上げて叫んだ言葉を私は一生忘れない。 「これでずっと俺達は繋がってられるんだよな。そうだろ、トム」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 27, 2011 07:32:23 AM
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