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DJ Kennedy/life is damn groovy

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September 15, 2011
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テーマ:Simple Pleasures(33)
カテゴリ:Diary

208.jpg


  「人生における無上の幸福は、自分が愛されているという確信である - Hugo」 …そうよね。







店中央の棚、上から二段目の左端に、私は小さなタイムマシンを見つけた。



それは紙製の箱で、明らかに色褪せていた。両隣りの袋入りスナックは箱と距離をとっている。避けているようにも見える。タイムマシンの名前は「Tホテルホットケーキミックス」。



おそるおそる箱を手に取り、裏を返して賞味期限を探す。ボトムに"90.1.31"と書いてある。今から8年も前の世界からアメリカまでやって来て浦島太郎のように・・・ってわけがない。



もう食料品店という看板など掲げてはいけないレベルである。たった一度訪れた客二人が見つけてしまうのだから、店主が気付かないはずがない。何を考えて、どこを見忘れてタイムマシンはこの棚に8年も横たわっているのだろう。お店のイメージダウンになるってのに。



私達がそうっとレジの方を見ると、店主の方でもこちらの様子を窺っていた。食品G-Menとでも思ったか。いやそこまでは思っていないか。何しろここに入って来てからずっとこそこそ笑っているのだから。が、彼の顔がこわばっている。敵意が感じられる。まずいぞ。




「そろそろ行こうか」

「そうだね」




ワンダーランドに別れを告げて、と出口の方へ向き直った瞬間、皮肉にも最大級のアトラクションが目に入ってしまった。すごい。この店はすご過ぎる。



それは薄暗い店内中央の、冷蔵庫の上段前列に堂々と位置していた。「売り物」とは間違っても思えないこのようなものを売るのは本来営業停止を食らってもおかしくはないと思う。少なくとも一番奥に、いかにも「忘れてました」って顔して置いておくべきだ。



私は梅干しをあまり買わないので普通どんなパッケージに入っているのか知らないが、その大物は透明の小さな壺に入っていた。直径10センチ、高さ15センチくらいだっただろうか。梅干し、厳密に言うとその梅干しらしきものは10個くらい入っていた。紅いはずの梅干しが、梅干しエキスになっちゃったみたいに黒々としており、明らかに年代ものと化している。けれどそんなんで驚いてちゃダメ。ああ、写真を撮っておかれたらみんなを驚かせられたのに。残念。



なんと、黒い梅干しの真ん中辺りから、見るも美しい、エノキ茸のような純白のキノコが一本生えているのだ。たった一本、すーっと伸びていた。いかにも健康そうに見えたから不思議だ。




が、こんなことで良いのだろうか。ここは一体「何屋」なのだろうか。ビジネスは成り立っているのだろうか。徐々に、何か見てはいけないものを見ているような気になってくる。そのうち店主が「見たな~」と私達をこの店の地下室に監禁し、口外できないように・・・。ここまでの疑念が頭をよぎる。にも関わらず、能天気なセバスチャンはご陽気に壺を手に取り、中をじっと見つめながら、「ピクルスも時間が立つとこうなるのか」としみじみ言う。



その時、店主がとうとう静寂を破った。「何かあった?」



よくもまぁ。仕方ない、壺を手にして見つかっちゃった以上、「いえ、何も」なんて言えようか。私達は、なるべく波風立たぬよう静かに言った。「これは、大丈夫なの?」



大丈夫なわけがない。が、店主の驚くべき返事。



「何がいけないの?ここは俺の店だ。俺が何をどう売ろうとあんた達には関係ないだろ」



ヤバい。ここで喧嘩になったら地下室から"Lethal Weapon"か何かに出て来た東洋人の殺し屋風が現れて私達は連れて行かれる!「もう行こうよ。ここにいては危ないよ!」



「え?何が?」



ここまで稚拙な妄想を私がしていることなど知らないセバスチャンは当然私の言うことを理解できないまま、ヘラヘラと笑って店主の前を通り過ぎ、外に出た。本当はもっと言ってやりたいこともあったし、どこかに報告することもできたのだろうが、結局何もしなかった。





でも、そんなおせっかいは必要なかった。それきりあの店には行かなかったが、数ヵ月後のある日車で近くを通りかかったら、そこはピッツァリアに変わっていた。お客さんがいなくなったからか、あるいは本当に食品G-Menの査察が入ってしまったか。店の最後と、一体誰があの店を利用していたのかという疑問は、もう解き明かされることのない謎である。







                  
            



























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Last updated  September 17, 2011 01:49:23 AM
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