短編小説『ぬいぐるみに愛を込めて』(中)
ぷちぷちシリーズ 小野寺・老刑事事件簿ファイル2・ぬいぐるみに愛を込めて(中) 捜査会議で進展がないのなら、金沢に一度行って事情を聴取して見てはとの意見が出て来た。唯一の手掛かりは夏子さんだけなんだから、ちゃんと裏を取る必要が出てきたとの事で、金沢県警の手を借りるものの直接こちからか捜査員もだそうとの事に上の方で決定した。 白羽の矢が俺と後輩に回って来たって事だ。帰りは、夏子さんと同じルートを実際に通り試そうとの事もその会議で決定された。個人的な不満がある深夜着が決定されたのも同然だが、捜査の為には仕方がない。それが組織的行動と言うものだ。 早朝から出発する事となり。7時丁度発の新幹線とき303号で越後湯沢まで行く。そして。8時20分に特急はくたか2号に乗り換えて金沢には10時53分に着く。それから金沢県警と合流して捜査にあたる。 予定通りに新幹線の車中だ。 事件の事を話していた。当然周りに聞こえぬように小声で配慮したのは当然である。それと人物の具体的な名前とか具体的な場所の名を言うのは避けた。「Aは臭いと思いますか?」 後輩が聞いてきた。「君は、如何思う?」「俺は、今は灰色ですがすごく黒に近いと思いますよ」「なぜそう思う」「何か隠しているのはバレバレですし動機はありますし」「まぁ決め付けはよくない。事実を詰め上げて犯人を固めて行く方がいい」「小野寺さんは、如何なんです?」「俺か、今は白紙だな」「白紙ですか?」「そうだ。白紙だ。ただ今の手掛かりの1つは金沢にある。その事実を確かめる。これは、重要な作業だと思っている」「小野寺さん、これよかったら如何ですか?」 そう言うとコーヒー缶を自分のバックの中から取り出していた。「おお。ありがとう。頂くよ」「朝早いので、これでもと思いました。ブラックでよかったですよね」「そうだ。ブラックがいい」 カチと音とたてた。少し大目に飲んだ。朝は正直いいのだが、もっと目を覚まさないといけないなと思う。金沢に着くと全開で捜査せねばならない。それにしても後輩もいいところあるなと思いながら。窓の外の流れる風景を遠くの山々を見た。 金沢に着く。改札で金沢県警の捜査員が待っていてくれた。 改札を出る。「お世話になります」「こちらこそよろしくお願いします」 と挨拶を交わしながら。用意されていた車に乗り込む。「早速ですが。夏子さんの友人の身元は判明しましたか?」「分かりました」「今から向かうのですが。友人は二名居て、一人は今日OKでこれから向かうのですが、もう一人は今日は金沢に居なく。明日の昼に帰って来るとの事でした。そして明日の昼に会う約束は取りましたが、如何されます?」「明日もご一緒させて下さい」「分かりました」 そう言うと、車を友人宅に向かわせた。 折角来たのだから、明日の証言を聞かないと片手落ちの気がする。即決した。実は、こんな事もあるだろうと今日は宿の手配を警部がしてくれていた。 実際に帰る際に同じルートで帰る為にも、余裕を持った方が良いとの上の判断でもあった。一日で済むようだと、宿をキャンセルして、直ぐに戻ってこいとの事も合わせて伝えられていた。 三十分がほどして。友人宅に着いた。車のドアがパタン、パタンと閉められた。 玄関のチャイムを鳴らす。そうすると直ぐに友人らしき人が出てきた。「中にどうぞ」「お邪魔します」 大きめのリビングに通された。「コーヒーでよろしいですか?」「お構いなく。直ぐに終わりますから」「そうですか」「早速ですが。十日の夏子さんとの行動について詳しく聞きたいのです」「夏子何かしました?」「いえ、いえ。今は色んな人から事情を聞いているのです。その中の一人にたまたま夏子さんが居たのです。他の皆さんにも聞いているのです」「そうですか。夏子が何かしてもう拘留されているのかと電話を受けた時にはドキッとしました。まだ拘留とか逮捕とかはされていないのですよね」「そうです。何もしてませんよ。単なる事情を皆さんに聞いて回っているだけなんです」「十日でしたよね。あの日は、こちらで夏子と私と別友人と三人で金沢見学をしようと二泊三日でする最終日でした」「そうですか。その計画は誰が立てられましたか?」「夏子です。あれこれ行ってみたいので夏子が詳細な計画を立ててくれました。当然私達の意見も聞きながらですけどね」「なるほど。それで、何かそこで気になる事がありましたか?」「気になる事、そういえば、十日の終わりの日なんですけど。駅まで送ろうかと言うと計画通りに昼で別れよう。こちらちょっと一人でぶらぶらして帰りたいからとそこは絶対に譲れってくれませんでした。詳細は秘密との事でした」「それで何時帰ると言われてましたか」「サンダーバードに乗ると言ってました。何号だったかなぁ。そうだそうだ46号だ」「確かですか。46号」「確かです。たまたま6の数字があり。6x6=36それに帰る日の日付を足すと46だよね。それが帰る予定の乗る番号だよって行ってましたから」「それは夏子さんからですか」「そうです。夏子が積極的に教えてくれました」「それでは、具体的に何時に別れましたか」「早めのランチを取って。ですから、十二時ぐらいに香林坊で別れました」「そして私達は友人とショッピングして帰りました」「分かりました」「夏子何か悪いことしたのでしょう。教えて下さい」「いや何でもありませんよ」「本当にそうですか?」「何故そう思うのですか?」「帰る時のしぐさが今までと違うような気がしていたし。十日の日は時間をやたら気にしていたし。普段の夏子じゃない気がして。ショッピングしながら友人ともちょっと何かあったんじゃないかって話していたんです」「何時もと違う?」「まぁ、感覚ですけど。何もないのかも知れません」 小野寺は部屋を見回した。そしてぬいぐるみがある事に気づいた。 ぬいぐるみは夏子の部屋で見たものと同じだった。「あのぬいぐるみ。かわいいですね」「あれですか。あれ夏子から私の誕生日プレゼントなんです。それとこの日記帳、同じぬいぐるみのデザインかわいいでしょう。あれからこれで日記をつけているですよ」「そうですか」「ぬいぐるみの方なんですけど後から夏子に直接聞いたのですが、もう一人の友人と私にも大切なものを共有して欲しい。夏子にとってはそれくらい大切なもです。だから私も大切にしています」 それからしばらく詳しく聞いて。それでは、との事になった。「ありがとう御座いました」「夏子に何かあったら、教えて下さい。協力しますので。絶対にお願いします」「分かりました。また、協力して頂くかも知れませんのでよろしくお願いします」「こちらこそよろしくお願いします」 そう言うと頭を下げていた。何か感じ取ったのかも知れない。友人として出来ることをして上げたい一身なんだろう。「また灰色が濃くなりましたね」「そうだな。白が灰色になって来たのが正確な表現だがな」 金沢署に帰って挨拶を済ませた後に時刻表をまた睨めっこする。「これによると一番早いのは13:16に出て、東京17:20に着きますね。こちら今朝来たルートですけど」「仮にサンダーバードだったら如何だ」「12:54発で17:46に東京に着きます」「こちらでも何とか間に合いそうだな」「アリバイは怪しくなりましたね」 電話でその現在までの状況を捜査本部に伝える。指示は、明日もう一人の友人と会って詳細な証言を取ってこいとの事だった。 今日の捜査は終了してホテルで一服していると、ドアをノックして来た。後輩が情報を仕入れてきた。聞いて下さいっいて言うから、てっきり捜査の情報かと思って聞いているとどうも違ってこの地、金沢に関する事だった。 この金沢は、地名のおこりに金洗いの沢がある。伝説の類の『いもほり藤五郎』から来ているらしい。 そしてこの『かなざわ』だが別の名前で呼ばれていた事もあるらしい。江戸期にも『かねざわ』、『かなざわ』の両方の呼び方を使用していたとの事だった。 まぁ、どこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか、多少は為になるので、善しとしておこう。 金か、そう言えば殺された男はやけに金回りがよかったが、この金沢とは無関係だろうか? 今の所そちらの進展はない。 また、この地に来て気になるのは兼六園だ。結構有名だ。機会があれば行ってみたいが、今回は無理だろう。定年後はゆっくりと観て回る事としよう。 もう一人の友人と会う。 大体の同じ事を話していた。そして服装も聞いた。 そしてこの様な会話があったと話してくれた。「ちょっとぽっちゃりとした?」 夏子に聞く。「そうかな。この頃美味しいから、よく食べたのがよくなかったかなぁ」「長いところあっていなかったせいだよ」「自分じゃあまり気にならないと思うだけど」「そんなに極端になってないから大丈夫だよ」「ありがとう。運動でも始めようかなぁ」「それも良いかも」「そうする」「趣味ちょっと変わった?」「何で?」「綺麗になったみたい」「また、また」「お世辞じゃないよ。本当にそう思える。失礼だけども昔が私的にみてセンスが今一かなって思っていたのだが、今のセンスが良いと思うよ」「ありがとう」 多分、彼女は夏子の職業は聞かされてないじゃないか、まぁおおぴらに言えると言えば言えるが言いたくない人は山にいるだろう。 新たな情報は、今相当悩んでいる。もうすぐ結論が出る。そして私の進路もそれで決まる。あまり顔色が優れないねと話をすると、人生色々あるからねっと話していた。 気持ちが整理出来たらまた相談するからとの事だった。 平行して聞き込みをして貰っていた。タクシーを使用した疑いがあるので、そうするとその時間帯にそれらしいお客さんを乗せたというものが出てきた。らしいとはサングラスと帽子を深く被っていて、らしいしか分からない。服装などを詳細に聞いて貰った。記録によると12:15ぐらいには駅に着いた。どちらでも十分に間に合うな。 何故夕方と言う嘘の証言をしてまで、友人に買い物すると嘘を言わないといけないくらいな事があったのか。それが今回の事件のキーワードかもしれない。 結局十二時台には今からは無理なので、夏子が最初に言っていた。サンダーバード46号に乗る事にした。切符もなんとか手に入れて。挨拶とお礼言ってから駅へと向かう。 そしてサンダーバード46号に乗り込む。時間通りに来て京都でのぞみに乗り換える。 何故サンダーバードを強調したのだろうか? アリバイの為だろうか? どちらにしても真相は帰っての追求だ。 翌日、捜査会議が開かれる。「現在のところ怪しいものの物的証拠が一つもない。このままでは逮捕、家宅捜査申請も却下されるだろう。冤罪事件、誤認逮捕、誤認拘留が多発しており周囲にも慎重路線が漂っている。今回はこんな事が絶対起こらないように頑張って物的証拠を手に入れて欲しい。それか申請しても通る強力な状況証拠を掴んで欲しい。また、それとは別に夏子をマークする為にチームを編成して二十四時間体制での監視する事にする。十分注意し気づかれない様にマークする事、以上」 警部の締めの一言で会議は終了して各自持ち場に散って行った。 やはり後輩とペアを組む。アパートから出勤の為と思われる。尾行を開始した。そして最寄の駅から、大きな繁華街ある町へと移動していた。 今の所別に不審な行動はない。危険なのは、我々は顔を知られているので、まぁちょっと変装しているので会った時と印象が違うはずだから簡単には見破れはしないだろうが接近するのは危険だ。当番制なので仕方ない。 ぎらぎらとした繁華街の中一角ある。キャバクラへと消えて行った。 ここで見張るのも辛いものがある。 この地道な捜査が、大切なんだと何時もそんな時は自分に叱咤激励している。<つづく>