ぷちぶち短編小説『除夜の鐘』
まったりとコタツでミカンを食べている。大晦日12月31日。いつもの様にチャンネルを合わせる。それだけ見ると有り触れた光景。
窓の外を見た。シンシンと降る雪。二人で過ごす予定だった。でも、クリスマス前に喧嘩別れ最悪である。
酒でも飲んでとも思ったが、もし、電話やメールで呼び出されたらと思い。今は飲酒じゃやばいよなあ。それより今思い付いたある計画を立てたのが一番の理由。
「不安なんだ」
「私の事を信じられないの」
「そうじゃない。ただ不安なんだ」
「何が不安なの具体的に言ってよ」
「それが分からないだ」
「何それ」
「実際そうなんだ」
「私の事が嫌いなんだ」
「違うよ」
「もういい。分かった別れましょう」
「え~」
「じゃあ」
そんな会話をクリスマス前に。それから連絡取れず。現在に至る。
色々計画していた事が全てパーである。
それも、これも。ちょっとした不安を口にした。たった一言。その一言でおじゃんになった。それさえなければ、今頃二人で……。考えまい。
もう言ってしまった言葉だ。
眠れぬ夜を重ねて思った事。最後に元カノいや彼女にあるものを渡したい。
彼女を思い集中してやった。
本当はクリスマスに渡そうとしていたものサンタさんからの贈り物、プレゼントとして。それは今渡そうとしているものじゃなく店で買って来たものを送ろとしていた。でも、贈り物を変えた。
今コタツの中で書いている。初めての書道。本格的に筆を握った。動機はたまたまチャンネルを変えていて目に留まったテレビでの書道。普段は全然興味ないのだか。この時は何か心に引っ掛かった。そして見ている内に決断していた。
慣れないので何度も失敗した。コタツの周りにはその成れの果てが山となっていた。でも、少しずつ上達して行った。それは彼女への思いからだと。ハッキリ言って字は下手。でも心を込めて書く。失敗はまだ邪念があるからだと思った。ここに書く字は短い。でも心を込めて書く。
集中して書く終えた。
「出来た」
そんな言葉が自然と出てきた。
これも彼女のお陰だ。ダメなのが少し変われた気がする。そして冷静になれた。彼女がしてくれた事をしみじみ感じ有り難く思った。その感謝もこれに託した。
除夜の鐘が鳴る。
「来なかったな」
車のキーを取るとドアへと歩き出した。
そして彼女の家の前。郵便受けへ音を立てない様にそっと入れた。家に戻る。
初日の出だ。眩しい朝。彼女も同じ景色を見ているそんな気がした。
『自分を信じろ。例え誰かが出来ないと言っても。君以外に出来ると信じている人がいるから』
携帯が一通のメールを受信した。
〈おわり〉