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2006.09.05
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カテゴリ:うつくしいもの
 富本憲吉展を近代美術館に見に行ってきた。富本憲吉の作品は写真で見ると嫌なものにしか見えないことがあるが、実際は非常に格調の高い冴えたところがある立派なものである。なかに非常に好きなものがいくつかあって、またいかにも肌が合わないものが沢山あってしかもそういうものも等しくよいものには違いないということはよくよくわかるという、自分にとっての位置付けは非常に難しい作家なのだ。つまり問題を複雑にしているのは富本憲吉が好きかといえば確かに好きなのだが、好きとは言えない作品が相当あるということで、それならそういうものが嫌いなのかというとそういう訳でも無く、そういう中にも非常にうつくしいと思うものもあり、ただいかにも合わないという感じがするというばかりなのである。
 何度もいろんなところで作品に接していて、そういう感じは最初っから一度も変らなかった。それをわかった上で今回も富本展へ行くのを楽しみにしていたのである。そして会場をゆっくりまわって多いに楽しんだ。合わない感じはどちらかというと渋好みの自分にああいう赤絵や金銀彩で埋め尽くしたようなものが合わないというばかりではなく、そのかたちのどこかたどたどしいながら固いところや洗練された瀟洒な好みにあるような気がする。あの偉大な富本憲吉と自分を比べてみても仕方がないが育ちや生活環境や教養やも正反対に違う上にたぶんあまりに人間の資質が違い過ぎるのだろう。
 そういう訳で好きなものはもちろんのこと、不思議なことだが好きでも無いものにも大変感心して楽しむことが出来た。今回の近美の展示は悪くなかった。近代美術館はやきもの関係だけでもここ数年で河井寛次郎八木一夫加守田章二と注目度の高い展覧会を開催している。京都はもともとやきもの好きな人も多いのだろうとは思うが、それでも予想以上の人が入っていた。一昔前は印象派などのヨーロッパ美術の大家でも無い限り美術館は割合空いていたような気がするがなにか近美の活動が実を結びつつあるのだろうか。ただ残念なのはこういうところでも声高に話す人や携帯電話を鳴らすような不見識な人もいることだが携帯はさすがに係の方が近付いて注意しておられたのはよかった。自分もマナーモードの着信があったので会場の隅に行って留守録を聞こうと携帯を開いたらすかさず係の方が近付いてきて注意された。聴くだけで話さないのもいけないのですか?と問えば大変恐縮されてそれは問題ないとのこと。まぎらわしいことをした自分もいけないのだ。こういうことにひるまないでどんどん注意されるのがよいと伝えた。よい会ならば沢山の人に見てもらい収益も上げてさらによい会を企画するというようなよい連鎖は素晴らしいが、しかし勝手ながら見る側からすれば人が多いのはあまり喜ばしいことではなく、自分の靴音が響くくらいにひっそりと静まり返っているくらいのほうがほんとうは有難い。
 上の階の常設展を観る。こちらも館蔵の富本作品が多くでている。他にもいろいろなものを一通り見る。現代美術に目をつむってはならないが、もう少し見識のある選択をして欲しいといつものように思う。自分にはあまりにお粗末なものに見えたが、美術館にあるものはたいしたものだというような一般にありがちな認識を打ち砕くためにやっているのならたいしたものだと思わない訳にはゆかない。マティスやヘップワースなどここではおなじみの好きなものを見て満足し、閉館前に再び富本展の部屋へ降りる。最後の30分なら人もかなり少なくなって気になるものなどもさすがにゆったりと見ることが出来る。
 今回の会はなかなか見る機会がなさそうな珍しい作品なども多くでているように思いました。カタログも充実したよいもののように思いました。それにショップで売っていた富本のやきものの紋様をそのままハンカチやスカーフにしたものが思いがけずうつくしいものだと思いました。これはプリントでしょうが、ああいう花更紗はやはりそのまま染織になるものです。こう書いて今ふと思ったのですがそういう意味では富本の紋様が絵をやきものに描いたというような性質があるのかなと、さらにいうならばやきものの紋様としてやきものそれ自体の性質の内側から生れたものではないようなところが気になるのかなと。富本憲吉を語るのは自分には難し過ぎますからこの辺でお終いにしましょう。会期もあと少しですが是非御覧下さいとおすすめいたします。

 それと多いに余談だが閉館前に見ていた時にどうも何度も会ったことがあるような気がする女の人がいたが誰だか思い出さない。熱心に見ているのできっとやきもの関係の人だろうとは思ったがわからない。仕方がないので向こうが気が付くかと思ったがそういうふうでも無い。はて誰だったかな、とずっと気になりながらやがて5時になり出口のところでまた一緒だったので尋ねてみたらやっぱり知らない人だった。彼女もぼくを知らないと言うし、にっこり笑顔を近くで見たらやっぱり知らない人だったというのがわかったのだ。気になることはそのままにしないのがよい。知っている人に声を掛けられても誰だかわからなかったり、今日のように知らない人を知り合いだと思い込んだり、そういうことは割によくある。





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Last updated  2006.09.06 13:10:19
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