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2007.09.29
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カテゴリ:うつくしいもの
 スリップウェアというやきものについてはここでも今までさんざん書いてきましたがここで改めて今一度そのスリップウェアという名称について簡単にまとめておく必要があると気付いたのです。むろんslipwareという呼称の内容は言うまでもなくこの言葉を生み出した人たち、つまりはイギリス人によって概念規定されているはずですが一般の人にとってはslipwareという言葉はこのやきもの自体がそれほど馴染みのない過ぎた時代のものであるためかあまりピンとくるものではないとのことです。実際にイギリスで沢山のスリップウェアを探し出された道具屋さんの坂田和實さんは現地でさえslipwareと言葉にした場合には発音の同じslipwearととる人が多いとおっしゃっています。それはそれとして、しかしながらやはりイギリス人の定義を第一義に尊重しなければなりませんが、スリップウェアに打たれてそれに深入りしているやきものの専門家としては自分なりのスリップウェア観があるのもまた事実です。だからぼく自身がここであるいはどこかで誰かにスリップウェアの話をする時には多少幅のあるもしくは場合によってはより絞り込んだ捉え方をしている場合があるかもしれないことは断っておかねばなりません。
 また同じ英語圏でもアメリカの人たちは自分たちの国で作られたスリップウェアについてslipwareという呼称を使う場合は少ないようでしばしばslip decorated red ware(泥で装飾された赤っぽい器)と表現しています。ドイツ、フランス、スペイン、ルーマニア、オランダなどそしてさらにおそらく他の国々にもスリップウェアと呼びたい同種のやきものがあるのですが、こういうやきものは何もイギリスが発祥という訳ではないのでやはりそれぞれの言葉で呼ばれているのではないかと想像しています。余談になりますが日本にも昔からその受ける印象と技法の上でやはりスリップウェアと呼んで差し支えのないやきものはあるのですが、あえてこれらを外国語の名称を用いて呼ぶ必要は無いとは思っています。しかし同時にこれらについてもまたいつかここで触れてみたいとは考えています。
 それはさておき、欧米の残念ながらスリップウェアについてはぼく自身もその全体像は未だ掴めないでいるし、見聞や知識も非常に断片的であるのはどうしようもないことです。少しづつ資料は集めてはいるものの英語を読むことさえ自分には荷が重く骨の折れることで、さらに英語以外だともう全くどうにもならないものですから不勉強なことですが現在欧米の研究がどのくらい進んでいるのかも把握していません。
 日本人によってスリップウェアが認められ、ついには実物が持ち込まれるに至った経緯はすでに記したとおりですが、この鮮やかな印象の思い掛けないやきものについて柳宗悦も濱田庄司も河井寛次郎も当初はスリツプ・ウエアという表記を残しています。これは原本をぼく自身未確認なので想像でしか言い得ませんがおそらくはあのLomaxの『Quaint Old English Pottery』がSlip Wareという表記を用いているためではないでしょうか。なお、興味深いことに柳はやきものの技法を表す日本式の伝統的な「流描手」という名称をも用いており、また河井はルビとしてスリツプ・ウエアを振り仮名に添えて「化粧陶器」という呼称を使っています。やきものに使うslipすなはち泥漿のことを化粧土と呼ぶのは一般的なことなので化粧陶器というのはいわゆるスリップウェアばかりでなくより広義の意味に捉えたくはなるものの案外に即物的かつ直訳的な呼称であると思います。
 しかし今ではぼく自身にとってもそうですが、むしろスリツプ・ウエアというよりはスリップウェアという表記がより一般的になっているように思われます。このことについては先年にスリップウェア図録刊行会の出した決定版ともいえる図録『英国のスリップウェア』の凡例にも英国での一般的な表記はSlipwareであるからそれにしたがってスリップウェアを採択したと記されており、これからはこのやきもの自体の認知の高まりとともにスリップウェアの呼称と表記が日本でもよりいっそう定着するのではないかと思います。





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Last updated  2007.10.06 09:52:24
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