カテゴリ:うつくしいもの
ぼく自身も江戸時代と大差ないようなやり方の手仕事に願掛けて日々過ごしてはいるわけですけれども、必ずしも手仕事がコンピュータや機械で作った工業製品よりも優れているというわけではないんです。こんなことはあたり前のようだけどしばしば手仕事の作者や愛好家はどういうわけか手仕事、手作りの物に対する過剰な幻想を抱きがちのように思われるのが気になります。 企業まかせではなく個人が簡単に、あるいは誠実に始められるのは手仕事であり、大きな資本も設備も営利的な計画もなしで作ることが出来ます。自家用のものの延長として志しや気持ちや思いつきが大きな動機となる手仕事はそういう意味で非常に生々しく人そのものを反映します。ここに良い点と同時に非常に危うさがあり、またしばしば未熟なゆえの物足りなさがあるのもまた事実です。 田舎に行けばまだまだ手仕事が生きている。お金を稼いで買った物を消費するというのとはまた違ったスタイルがあるのです。それはそういうものを支える文化の基盤があるということでこれは実に素晴しいことですが、しかし何かの施設に付随した物販コーナーや共販センターなどに並んでいるものを実際に見て見るとどうにもならないつまらないものがあるのにはうんざりさせられます。野菜やジャムやパンや餅や漬け物やそういうものをわざわざ手作りするだけの人はそれ相応の志しと理念を持ち経験を積んでいるのでそういう食品類が悪い場合は少ないようですが、こと手作りの工芸品となると途端に目的を見失ったような哀れなものが少なくないように思います。これはいったいどういうことかと考えさせられます。作物を売って暮らすことを否定するわけはありませんが、工芸は使われるために作られるべきもので売るためのものではないはずです。こういうお土産工芸は作家物の作品工芸に負けじと性質が悪い。もちろん機械製品にも嫌なものやつまらないものはいくらでもあるのですがここで言いたいのは手仕事必ずしも美しからずということなのです。 もうひとつ思いつく例を挙げれば「○○の郷」とか「○○手作り市」など書かれた手書きの看板やポスターにはそれなりの味がある場合もあるものの大変見るに堪えない俗悪な場合が少なくない。色や図案や材料に充分な心配りが出来なかったためですが、考えなければいけないのはそういう能力を誰にでも期待することは出来ないということです。 こういうものの対極にあるものとして目に留まったのがJALの機内で配られていたこのゴミ袋です。用途と機能のバランスはもちろん大変シンプルで洗練された色彩と文字の配置はこれくらいの企業はさすがに優れたデザイナーを用いていると感心させられました。これは優れた手仕事とはまた別の工業製品ならではのうつくしさです。 思い出したのがこのところの原油高から航空会社も燃費の問題をとことん見直していて飲みものやトイレの水の積載量を最小限にすることはもちろんのこと機内食の食器などの軽量化なども確実に節約につながっているということです。そう言えば一昔前の白無地の機内食の食器のデッドストックが出回っているものをこのごろよく見かけますが、やはり重ねやすさなど大変よく工夫されよく出来ています。驚いたのは機体を白く塗装することもおよそ150kgの塗料を使うそうで銀色のままだとそれだけの軽量化になるのだそうです。こういうシビアな状況の中で作り出されたこの袋だけにとことん無駄が省かれたものになったのでしょう。機械で作る工業製品にも手仕事と同じように心配りが為されていることは忘れてはいけないと思うのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.01.24 12:52:14
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