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2008.03.07
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カテゴリ:うつくしいもの


 九州北部の窯で江戸時代中頃から明治頃まで焼かれていた松絵の甕です。小田志や弓野など唐津の大外山からはじまったこの陶脈は最後は福岡の二川にまで伝わって松の絵こそいつか描かれなくなってしまったものの無地の甕や大きな捏ね鉢などが昭和の前期までは残っていたようです。今も仕事が盛んな小鹿田や小石原の窯も松の絵こそ伝わりませんでしたが、その源流はやはりまた非常に近しい関係にあると思われます。

 唐津の窯は昔から愛陶家には特別に人気のあるものですが、それはほとんど桃山時代から江戸の初期にかけての茶碗や酒器などの初期唐津に限られていてこのような江戸も中期から後期にかけての作を認めていたのは一部民藝愛好家ばかりだったと思います。しかし近年ようやく「知られざる唐津」として注目されたこういうものも広く認められるようになってきました。

 ぼく自身まだやきものを作りはじめる以前の学生時代からこのたっぷりとした太筆で一気に描かれた松絵の甕に大変魅かれていたのです。日本のやきものは様々な種類がありますがこれほど大胆な絵付けがなされたものは無いのではないかと思います。その頃毎月21日には京都の東寺の境内の骨董市に朝早くから友人たちと出掛けては隅から隅まで見てあれこれ気になるものを見付けて喜んでいました。そこでは何度かこのような松絵の甕も見付けて大いに興奮したものですが当時学生の身では買えるものではありませんでした。
 その頃共に東寺の市に通った友人のところを数年ぶりに訪ねた折りふいに「松絵の甕は買ったか?」と言うので「まだ持っていない」と答えると縁あってふたつ手に入ったのでということでこれを贈られたのです。すでに20年程も昔に共に喜びあったこういうもののことをよく今まで覚えていてくれたものだと感激しました。

 大きさのわりにはかなり薄手に上手に轆轤したものに白泥を刷毛で塗り込み、そして鉄と銅を使って松山の風景を、そしてもう片側には太い幹の老松を雄渾に描いています。この手の甕はほぼ全てひびが入っているとはしばしば骨董屋さんが言うことですが確かに今まで見た数十点で全く無傷というのを見たことがありません。ほんとうの地元の需要だけに応えた小規模の窯ではなく広く海運を通じて全国に送られたものだからこそ輸送の便を計り軽く薄く作られたことが原因かも知れませんし、あるいは轆轤する上で大変扱いやすいこういう薄造りを可能とする良土であったことがかえって今となっては徒となっているのかも知れません。この品もやはり大きな傷があって昔に桶のように竹のたがで補強されているのはいかにも実用品として使われたことを物語っているように思います。








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Last updated  2008.03.22 01:56:16
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