トンカツ-2
ふふふ、おいしくて有名なトンカツ屋には行かなかったよ。健康な時、月に一度は通ったトンカツ屋には、私は行かなかった。普段は行かない研究室近くのトンカツ屋に行ったのだ。油を何回も繰り返し使っている。豚肉も悪いのを使っている。それにやけにコロモが多くて、固いトンカツ屋として知られている店だ。そう、入院している時に、私はなじみのトンカツ屋を思わなかった。去年の秋、なじみの店が休みなので仕方なく、私はそのトンカツ屋に一度行ったことがある。そうそう、このブログでも紹介したあのお店だ。その時に、味わった昔風のトンカツの味が忘れられなかった。ねえ、水飴にしても、そうでしょう。デパートの食品売り場の水飴よりも紙芝居屋のおじさんが売ってくれた砂埃の中の水飴が恋しい。変に不衛生で、変に固くて、変に甘い、そんな水飴が懐かしい。そんな想いで、私は評判の悪いトンカツ屋に行った。店の中は若者でにぎわっていた。トンカツ定食、630円、大盛りのご飯とキャベツ、肉が固くても、コロモだらけでも、大型のトンカツだ。若者は腹を満たしたい。健康な身体がそれを求めている。座って、注文すると、すぐに運ばれてきた。どんぶりに入ったご飯、味噌汁、たくあん、そしてトンカツ。食べる。固い、コロモが痛い、味噌汁は塩辛い、ご飯はパサパサしている。ふふふ、若者と一緒のものを食べている。それが嬉しい。週刊誌を見ながら、スポーツ新聞を見ながら、若者達は食べている。喰っている。みんな元気で健康だ。いい。若いということは、それだけで価値がある。固いトンカツを食べながら、唇が切れるのではないかと注意をした。「薬を飲んでいる時に、口内炎になったら大変ですからね」看護婦さんから注意されたことを思い出して苦笑いをした。うん、病人ということを忘れていなかったようだ。ふふふ。店を出た。ラーメンを食べた。トンカツを喰った。想いのいくつかは果たした。そうだね、後は中華丼かな、そう思いながら、あることに気づいた。「そうだな。夢を今一度見つけて、夢を食べなくてはね。 そうだんべえ、夢をもう一度見るのもいいかもしれない」冬の冷たい雨が降り続けるトンカツを食べた後の昼下がりだった。