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カテゴリ:本・映画など
今日は、本のお話。
着物関係ではありませんが、とてもよかったので。 新聞の書評で知りました。 「職人衆昔ばなし」斎藤隆介/文藝春秋ライブラリー タイトル通り、 職人さんの昔ばなしを記録したものです。 1967年、単行本として、 1979年、文庫本として、 2015年、文庫ライブラリー版として復刊しました。 色んな職人さんが登場しますので、 全部はご紹介しきれませんが、 例えば・・・ 大工の中沢猶太郎氏のお話。 材料の木を、うっかり間違えて短く切った時、 「今の大工は『切り違えましたから新しい材料下さい』 なんて平気な顔して言うが、 私らの若い時分はわざとそいつを掴んだまま 落っこったもんです。 『しまった折れちまった・・・』 それからでなきゃ捨てられませんでした。」 例え、落ち方悪くて骨折しても、 間違って切ったというよりは、マシだったんでしょうね。 すごいやせ我慢。 面白かったのは、 国会議事堂の演壇と議長席の彫刻をした 村松喜市氏のお話。 彫る時は、正面からですが、 人が見るのは、下から見上げる位置になる。 下から見て、立体感がでるように、 唐草の彫の深さを、下は5分、上は2寸にしているそうです。 TVで、国会乱闘のシーンがあると、 頼むから、彫刻に傷をつけないでくれ、と 祈りながら見ているとのこと。 国会は、話し合う場じゃないのかと、 不思議でしょうがないそうです。 名人となった人たちが、共通して語るのは、 年季奉公の辛さ。 昭和生まれはお一人だけ、他は全員が明治生まれ。 現代とは違い、労働基準法も何もない時代のお話。 でも、名人と呼ばれたような人々は、 厳しくも愛情のある親方に巡り合ってるようです。 ところどころにある、ふれあい話にも ホロリときます。 経済的に恵まれ、 渡航が難しい時代に、国の視察団にも選ばれたり、 人間国宝になった人もいますが、 飾り職人などは、とても困窮していました。 本体あっての飾りだから(箪笥の蝶番など)、 名前も残らず、本人の手元には小作品も残らず、 個人で販売することもできない・・・ 子供が仕事を継がないでくれてよかった、 こんな貧乏は可愛そうでさせたくない、というつぶやきも。 こういう方々を、よくぞ見つけて下さったと思います。 着物関係の職人さんが一人も登場しないのが、残念。 雑誌「室内」に5年間に渡って掲載された 各界の職人さん27人のお話を、 職人さん達の言葉で、そのまま書き表しています。 主に、昭和30年代後半の聞き語りで、 その頃、名人と呼ばれた人々なので、当時60~80代。 もうとっくに全員が亡くなっています。 今回、3回目の書籍化。 形を変えて、再出版されているということは、 長きにわたり、読みたいと思う人がいるということ。 素晴らしいです。 藍染作家の松原伸生氏とお話をする機会があった時、 彼の指先が、藍色に染まっていたので、 「ゴム手袋は使わないのですか?」とお聞きしたところ、 「染液の微妙な感覚が、わからなくなるので」と、 なぜか、恥ずかしそうにおっしゃいました。 お答えは想像していた通りでしたが、 深い感銘を受けました。 最近、「日本はすごい!」「職人さんはすごい!」という 特集が多いですが、低すぎず、高すぎず、 正当な評価がちゃんとなされるといいなあ、と思います。 指物師(さしものし)の才次郎さんの、 「おれは不器用だ。だから仕事は丁寧にやるんだ。」 という心意気。 「不器用だから、雑な仕上がりでもしょうがない」 とは決して思わないのですね。 当たり前のことを、当たり前にやる人たちは、 しんどい時の、心の支えになります。 そうでありたいと、いつも思いますが、 簡単なようで、とても難しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.07.15 13:19:55
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