テーマ:詩&物語の或る風景(1049)
カテゴリ:ちょっとショートストーリー
ミーは小さな丘になった団地の急な坂道を太陽に向かって歩いていた。
まだ日は昇り始めたばかり。 人々は少しずつ朝の慌ただしさの中で、 夢から現実へと時を告げる頭の中の小さな懐中時計を開くのだった。 そして人々はその時計が動いているだけですっかり安心して またふたを閉じてしまう。 カチ、カチ、カチ。。 世界中の時計が同じ間隔で時を刻む。 人々はだたそこに安心を感じるのだ。。 ミーは腹ぺコだった。 昨日から何も食べていない。けれど、この先にあるパン屋で、 きっとパンのかけらを分けてもらえるはず。 そう願ってミーは歩いた。 朝日の中でミーは幸せだった。 誰もミーの事を勇気づけてはくれない。誰もミーの事を哀れんでもくれない。 ミーが腹ペコである事に気づいてさえくれない。 けれどミーは幸せだった。 ミーには自分の鼓動が聞こえた。 決して誰とも同じではない自分だけの鼓動。 歩き続けてきた足の痛み。 ゆるぎない信念を持った黒い瞳。 一匹でも暖かさに包まれていた。 友達がいたらもっと嬉しい。 恋人がいたらもっともっと嬉しい。 家族がいたらもっともっともっと嬉しい。 けれど、たった一匹でいても、秋の空があれば、 ミーはそれでよかった。。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 31, 2005 11:51:55 PM
コメント(0) | コメントを書く
[ちょっとショートストーリー] カテゴリの最新記事
|
|