テーマ:詩&物語の或る風景(1049)
カテゴリ:ちょっとショートストーリー
「雨の中の光(第5話)」
美咲はホームから改札まで走って行った。「大変なんです。トモダチが。。トモダチが倒れてて。」改札のおじさんは、美咲の真剣な顔を見てすぐに状況を察したようで、どこかに電話して、「どこですか!」と飛び出してきた。 やがて、救急隊がやってきて、タンカで昇を持ち上げた。そしてこちらを向いて、「あなたも一緒に!」と叫んだ。関係者ではないのだが。。とちょっと思ったが、そのまま美咲はタンカに乗った昇とともに救急車に乗り、車中の人となった。 「昇くん!」救急車の中でも呼びかけていた美咲だったが、ふと、そういえば家族に連絡を取らなければ、そう思ったが、彼の名前以外何も知らない。どうしよう、そう思ったとき、そうだ、と思って胸のポケットをまさぐると、あった。最新型のいい携帯を持ってる。美咲はそれを慌てて開いて、発信履歴を見ていくと、その中に“オネエ”という発信がある。きっとお姉さんのことなんだろう、と思って少しためらってからリダイヤルを押す。 プップップッ、リリリリリン。。リリリリリン。。「もしもし何?」眠そうな声で、お姉さんらしき人が出た。「あの、すみません。私昇くんの知り合いの山田美咲と言いますが、昇くんのお姉さんですか?」恐る恐る訊ねると、「美咲?」とどこかで聞いた声がする。「なんで美咲が昇の携帯持ってるの?」その声はさっき別れた真紀の声だ。 「真紀!?」「昇くんって真紀の弟なの?」「そうよ。それで、今どうなってるの?」真紀の質問に、ふっと我に返った美咲は慌てて答えた。「そうそう。今昇くんが救急車で運ばれてて、何が原因かわからないけど、地下鉄のホームで倒れて、そうだ、今どこ?」「美咲、落ち着いて行き先の病院を聞いて。」真紀の声に慌てて「すみません!どこの病院に運ばれるんですか?」と聞くと救急隊の人が「今連絡が取れて、市民病院に入れてもらえることになりました。」と教えてくれた。「真紀、聞こえた?市民病院だって。私もいるからすぐ来て!」「わかった。」そう言って電話は切れた。 それにしても真紀の弟だったとは。。一体どうなってるんだろう。。不思議に思いながらも美咲は市民病院に着き、ICUの待合室で真紀を待つことにした。 15分ほどしてから、さっき別れたばかりの真紀が駆け込んできた。髪を振り乱して走ってきた姿にはびっくりしたけれど、「どうしたの!?」という真紀に美咲は少しだけ落ち着いた調子で、今までの顛末を説明した。 「ふーん。そうだったんだ。」真紀も話を聞いてから、落ち着いたように美咲の隣のソファーに座った。ICUの明かりはついたままだ。 「あのね。。」真紀が何か思い切ったようにしゃべり始めた。美咲はふと横を向いて、真紀のその真剣が顔に何かただならぬものを感じながら、話を聞いた。 「あのね、美咲。実は私の弟、昇は高校にはほとんど行ってないの。1年生の時に肺のなんとかっていう突然呼吸困難になったりする病気で、ずっと休んでたの。 美咲は覗き込むようにして、うなずいていた。。 (明日に続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 20, 2006 12:21:50 AM
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