カテゴリ:ちょっとショートストーリー
「雨の中の光(第6話)」
「あのね。。」真紀が何か思い切ったようにしゃべり始めた。美咲はふと横を向いて、真紀のその真剣が顔に何かただならぬものを感じながら、話を聞いた。 「あのね、美咲。実は私の弟、昇は高校にはほとんど行ってないの。1年生の時に肺のなんとかっていう突然呼吸困難になったりする病気で、ずっと休んでたの。 半年ぐらいかけて、やっと治ったかなってころに学校に行ったけど、なじめなくて、いじめとか、成績とか、ストレスがたまって、また身体が悪くなっちゃったのよ。それでまた病院に逆戻り。昇は飛行機が好きだったから、いつも窓の外を見ながら、遠くの飛行機雲を見つけてはあの飛行機はどこ行きかな、って呟いて た。」 「そしたらある日、先生が、もしかしたら昇くんは精神的にも少し病んでるかもしれないって言い出したの。そうかな、ってみんな半信半疑だったけれど、ある雨の日、昇がパニックを起こして点滴のチューブを引きちぎったの。「誰も僕のことなんか覚えてないんだ」そう窓の外に向かって叫んでたわ。きっと雨で外の世界と遮断された気がするからじゃないか、って先生は言ってた。よくわからないけど、確かに昇はいつも雨の日になると決まって発作を起こすようになったの 。」 「暴れる昇を看護婦さんや周りの人もみんな恐れるようになって、やがて個室に移って、でもその発作はどんどん激しくなっていったの。周りの食器はもちろん、カーテンや、ベッドまで壊し始めたの。身体を何かで拘束するしかないかもしれない。先生がそう言い始めた頃、昇を救ったものがあったの。何だと思う?クラ スメートからのメールよ。ある日お見舞いに来たクラスの女の子に、わけを話して、メールをお願いしたの。思い出した時でいいから、学校の事とか、何かメールしてくれたらきっと喜ぶって言って。」 「そしたら、その子が次の日から毎日メールしてくれたの。授業であった面白い話や、クラスで起きた事件や、先生に怒られたことや、面白い漫画のこと。昇は隠して全部は見せてくれなかったけど、そんなことをメールで毎日送ってきてくれたの。それから昇の発作はみるみる収まっていった。そしていつもベッドで大事そうに携帯を抱いて寝てたわ。そして思い出したようにそのメールをよく見てた。少しずつ身体も回復して。でもやっぱり学校に行くのは怖かったみたい。前のこともあるし、昇にとって、メールでのみなんとか繋いできた希望が、現実を見ると変わってしまうような気がして。。そういうのってあるわよね。」 美咲は真剣に聞きながら、大きくうなずいた。あんなに何不自由なく、人の気持ちもわからず言いたい放題言ってきてたと思った昇が、そんな過去を抱えていたなんて、美咲は思ってもみなかった。 「でもどうして私の前に現れたのかしら。。?」不思議に思って聞いた美咲に、真紀はこう答えた。「私が指名したの。」 「えっ?」驚く美咲に真紀はこう続けた。。。 (明日につづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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